冒険者登録
「今日出会ったのも何かの縁、仲よくしようぜ!」
「いや、だからお前誰だよ」
先ほどからぐいぐいと話しかけてくる男、ラックに適当に返事を返しながら俺は、冒険者登録に必要な情報を用紙にスラスラと書き込んでいく
「へぇ、カオス・オーバーロードっていうのか。カッコいい名前だな」
「おい、しれっと見てんじゃねぇよ」
「ん?俺のも見るか?」
「別にいいよ」
「ほれ」
「だから別にいいって」
そう言いながらも、俺はラックが俺に見せつけてきた用紙を見ていた
ラック・ギルティッド
男 15歳
特技 幸運
スキル 超運命的な幸運
……?
「なぁ、受付さん。冒険者の登録用紙って適当に書いてもいいんですか?」
「いいわけないだろ」
「お前に聞いてねぇよ。というか、お前のことで聞いてんだよ」
「?」
「幸運ってなんだよ。そんなのが特技になるわけないだろ」
「いや、俺のは実際にそういうスキルなんだって」
「そんなわけねぇだろ。そんなスキル聞いたことがねぇよ」
「まぁ、そうだろうな。元は違うし」
「もとは?」
「そういうカオスこそ、スキル欄書いてないじゃん。それこそダメなんじゃないのか?」
「いや、俺は…」
「っふ、無理に言わなくてもいい。俺とお前の仲だ。言いたくないことまで話すのが親友じゃないだろ?」
「ラック……いや、親友じゃねぇから!というか、今日あったばっかなのに親友だって考えてるお前がこえぇよ!」
「仲の良さは時間だけじゃ測れない、そうだろ?」
「だとしてもお前との間にはまだなんもねぇよ!」
「む、それは確かにそうだ。これからだな!」
「お前といると調子が狂う」
「ありがとう!」
「ほめてねぇよ!」
「あのー、後ろの方も待っているので、早くしてもらってもいいですか?」
「「あ、すいません」
「はい、登録用紙の記入に問題はありませんね」
「あれで通るのか」
「お互いにな」
「それでは職業の設定を行いましょう」
職業 人は誰もがその人に適した職業適性を持っており、秘められたる可能性を神の眼によって看破し、職業を固定する。職業が固定されると、職業ごとに異なる恩恵が与えられる
本人に適していない職業でも設定することはできるが、その場合、本来よりも与えられる恩恵が小さくなる
本来は神殿などで時間をかけて行われるが
「では、この魔道具に手を重ねてください」
冒険者ギルドではそんなことをせず、簡単な魔道具で設定してしまう。
この魔道具の名は ”神の手” 手形に合わせて手を重ねることで簡易的に適正を見つける。適正が見つかった職業は魔道具の使用者の脳内に直接情報が転送され、そこから任意で決めるらしいが
実際はどうなんだ?
「まぁ、やってみれば分かるか」
そう言って手を重ねると、数瞬の後
「!来た」
俺の頭の中に文字が浮かんできた
・剣士
・武闘家
・戦士
・斥候
・盗賊
・魔法使い
・神官
・薬師
・呪術師
・弓術士
etc
これって初級職業と特殊職業の全部じゃないか
ただ
上げればきりがないほどに大量の候補 その中に
・万能者
見たことも聞いたこともない職業があった
万能者 なんだこれ、初めて見るな。固有の職業?なのか。無難に剣士にしようかと思ってたが、さて、どうするか
「おい、カオス。まだ悩んでんのか?俺はもう決めたぜ?」
そう言いながらラックが俺の肩によりかかってくる
「…参考までに聞くが、何にしたんだ?」
「<運命に愛されし者>だ。いわゆる、固有職業ってやつだな」
「!固有職業にしたのか。どんな恩恵が与えられるのかこの魔道具じゃ分からないのに」
「?当然だろ?俺には剣や魔法に関するスキルはないからな」
「答えになってなくないか?」
「そうか?俺はあたりまえの考えだと思うけどな。一番強い冒険者になるには固有職業につくしかないだろ」
「!!!」
一番強い冒険者になるには、か。よし
「おもしろいな、その考え。気に入った。俺もそうするぜ」
「ということは、カオスも固有職業を」
「あぁ、<万能者>っていうな」
「え!お二人とも固有職業が発現したんですか?!スゴイです!固有職業じたいが珍しくて各国、数人しかいないのに、それが二人同時になんて」
受付嬢の大きな声で、冒険者たちからの注目が一斉に集まってくるが
「やはり俺とお前は運命に導かれているようだな」
そんなものは気にならないかのように、ラックは俺の方を向いてそんな事を言った
「……なぁ、よかったら」
「二人で頂点を目指すぞ!」
「あぁ、分かったよ。よろしく頼む」
この日、俺は冒険者になり、そして新たな仲間を手に入れた
「さて、まずはなにからするか」
俺たちは今、ギルド内でこれからのことを話していた
というのも、
「まさか、魔物の討伐以外の依頼がないなんて」
「あぁ、これも運命の導きか」
初心者向けの簡単な依頼が今はないのだ。というのも、俺たちが冒険者になる1週間ほど前に冒険者になった期待のルーキーとか言うやつがあらかたすべてを終わらせてしまったらしく、せっかくだから腐ったものは綺麗にしてしまおう、と言うことでずっと残っていた人気はないが初心者でもできる依頼までやってしまったのだ
というか、
「それなんだよ」
「?それとは」
「運命の導きがってやつ」
「あぁ、なんだそのことか。単純に俺の思想だな。すべては運命によって定められ導かれている、というな。だからこれも、魔物の討伐をしろ、もしくは依頼を受けられない間に冒険者としての準備をしろと言う運命の思し召しだと思っている」
「ふーん、神の思し召しではないんだな」
「なに言ってるんだ。神なんているわけないだろ」
「…」
やっぱり変なやつだな
「もし運命の思し召しだとして、お前だったらどっちを選ぶんだ?」
「選ばない」
「はぁ?いや、選ばないって、それじゃあなにも決まらないだろ」
「違う。そういう意味で言ってるんじゃないんだ。決めるのは俺じゃないって意味でだ」
そう言うとラックは、ポケットの中に手を突っ込み、何かを取り出した
それが何なのか、確認してみるとそれは、一枚のコインだった
「もしかしてだが、コイントスで決めるわけじゃないよな?」
「?その通りだが」
は?嘘だろ
「正気か?」
「正気も何も、俺は至って真面目に言っている。忘れたのか?俺のスキルは<超運命的な幸運>だ。すべては運命に導かれる。このコイントスの結果でさえもな」
そう言うと、ラックはおもむろにコインを上へと放った。その瞬間
「!」
カオスは、ラックの纏っている雰囲気が変わったのを確かに感じ取った。まるで、世界の流れる時が遅くなったかのように、カオスの眼には、ラックの投げたコインの動きが非常にゆっくりに見えた
「さぁ、運命よ。我らを導きたまえ。表が出れば魔物の討伐。裏が出れば冒険者としての準備。どっちだ」
ゴクッ
知らず知らずのうちに、カオスはツバを飲み込んでいた。急に変わったラックの雰囲気に圧倒されたと言うのもあるが、それ以上に、これから起こる結果に強い興味を示していたからだ
パシッ
コインはラックの手の甲へと吸い込まれていき、ラックは素早くその上から手を被せた
ゆっくりと手が上がり、出た答えは
「ウラ なのか」
冒険者としての準備をする、だった