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グルメな地竜のうまいものレシピ  作者: しっぽタヌキ
村一つ壊滅・とろける赤牛のテールスープ(味変ドラゴンパウダー付き)
2/6

拾ってしまった…

『イラナイ……』

「えっ、今、『いらない』とおっしゃいましたか? え?」


 ようやく取れた、言語的コミュニケーション。

 でも、すでに村はもぬけの殻で……。


『赤牛ガ欲シカッタダケ……』

「え? 牛? え?」

『オマエ、イラナイ。ウマクナサソウ』

「うまくなさそう……」


 俺の言葉に、女はヒクヒクッと頬を引き攣らせた。

 俺には父と母からの教えがある。

 それは、命を絶つならば責任をもって食え、ということ。無駄な狩り、無駄な殺生をせず、うまいものをうまく食おうという、そういう教えだった。

 逆に言えば、生物の命を絶った場合、食わなければならない。


「……つまり、私が地竜様のことで命を絶った場合、地竜様は私を食べる必要があるということですか?」

『ソウ。デモ、俺ハオマエヲ食イタクナイ』

「欲しかったのは、この村の財でも私のような女でもなく?」

『欲シイノハ牛。赤牛一頭』


 財も女もいらない。

 俺の言葉に、女はしばし呆然とした顔をして、こくんと頷いた。


「わ、かりました。それは大変失礼しました。……ちょっと話してきます」

『ソウシテ』


 女はとてとてと走っていく。きっと行く先は村人のところだろう。俺はうまい食材を手に入れるためならば、気が長い。待つぐらい朝飯前だ。

 というわけで、だいたい一刻ぐらいぼーっとその場で待った。すると、女の姿が遠くに見えた。その姿は――しょんぼりしている?


「地竜様……」

『……ドウシタ?』


 なんか最初よりすごく憔悴している。すごくつらそう。


「ダメでした……。だれも私の話を信じてくれませんでした……」

『ナンデ?』

「赤牛一頭で許してくれるドラゴンがどこにいるんだ、と。私が地竜様から逃げたいがために嘘をついている。または地竜様が私を餌にして、村人をおびき寄せておいて殺戮をするのだろう、と。あのブレスを見たか? 脅しだろう、と……」

『ソウカ……』


 村人たちのドラゴンのイメージすごく悪いんだね。びっくりするね。

 ……俺のせいじゃないよね。ね?


『マアイイ。オマエガ赤牛マデ案内シロ』


 女がいて良かった。村人が俺をどう思おうとどうでもいいが、牛が手に入らないのは困るしな。

 俺の言葉に女はしょんぼりとしたまま歩き出す。


「……こちらです」


 とぼとぼと歩く女についていくと、広大な大地に放牧された赤牛たちがいた。

 おお……! これが噂の……‼ 地竜食材裏ネットワークの!


『イッパイイルナ! ドレデモイイノカ!』

「はい……」

『ココノ赤牛ハ、広イ放牧地デ、運動量ガ多イ。ソシテ、ポイントハ、放牧地ニ生エル草ナンダヨナ!』

「……よくご存じですね」

『コノ草ヲ食ベルト肉ニ臭ミガ少ナク、味ガ濃クナルト聞イタ!』


 赤牛は脂肪の多い牛ではない。霜降り肉のやわらかい食感や脂の旨みを楽しむものではなく、筋肉そのもの。つまり赤身がうまい肉らしいのだ! テンションが上がる。楽しみだ!


『ジャアナ』


 よし! 一頭もらって巣穴に帰ろう! 

 最初や途中は俺のやりたいことと違って、どうしようかと思ったが、終わりよければすべてよし。目的達成だ!

 これは鼻唄も出る。ふっふーん♪ と歌って、飛び立とうとすると、そのうしろ脚にビシィとなにかが抱きついた。


「私も……! 私も連れていってください……!」

『エエ……?』


 飛び立とうと広げた翼をとりあえず畳む。このままだと女と一緒に飛び立ち、女が落ちてしまう。すると俺は女を食べなくてはならない。教え的に。それは困る。

 とりあえず、女を脚から離そうと、前脚でぐいっと押した。


『危ナイゾ。落チルト死ヌ』

「私はもう……! 死んでいるも同じなのです……!」

『エエ……?』


 生きてるだろ、普通に。


「もう村には帰れません。どんなに説明しても、村人は地竜様を怖がっています。私がここに残っても、村人は恐怖から、地竜様への捧げものとして私を殺すでしょう。もし、ここから逃げても、村を捨てた女になってしまう。どうやって生きていけるというのでしょう……。私はこの村で赤牛を育てて生きてきたのです……。ほかにできることなど……。どうせ野垂れ死にです」


 女は俺のうしろ脚に抱きついたまま泣いている。絶対に離すつもりはないらしい。

 女の話を考えてみる。つまりは……。


『……俺ノセイデ死ヌノカ?』


 女は俺を見上げて、すこし考えているようだ。


『俺ノセイデ死ヌナラ……。オマエヲ食ワナキャイケナイノカ?」


 え? そういうこと? え? それ困るんだが。

 自分で言って、自分の言葉に混乱する。女はそんな俺を見てどう思ったのか、ぎゅうっとさらに力強く抱きついた。


「違いますが、そうです!」

『エ? ドウイウコト?』


 違うの? そうなの?


「本当は地竜様のせいではありませんが、私は地竜様についていきたいので、その言葉を後押ししようと思いますっ!」

『エエ……?』


 俺は混乱して……。とりあえずしっぽを左右にびたんびたんと振った。


『俺ト一緒デモイイコトナイゾ?』

「それは私には判断できかねます」

『俺ノ巣穴、人間ニ居心地イイトハ言エナイゾ?』

「寝袋を持っていきます」


 俺は非常に困った。赤牛を手に入れたくて来ただけで、人間の女を拾うつもりはなかったのだが……。


『オマエガ赤牛ヲ育テタンダナ?』

「はい」

『ココニイテモ、死ヌンダナ?』

「……はい」


 うまいものを育てた人間が俺のせいで死ぬのは、嫌ではある。俺たち地竜はうまいものを作る人間には敬意を払っているのだ。

 もしここで女を置いていった場合、この女は死ぬらしい。で、俺はそれを食わなければいけない。で、それが地竜の食材裏ネットワークで回る。俺がうまいものを育てた人間を殺したという噂が……。


『困ル』


 それはちょっと嫌。

 まあ別についてきたいならそれはそれでいいか。人間が暮らしやすいとはまったく思わないが。


『コッチニコイ』

「え?」

『ウシロ脚ハ、赤牛ヲ掴ムノニ使ウカラナ。邪魔ダ』

「はっはい!」


 女に向かって前脚を伸ばす。爪をひっかけないように、そして潰さないように。ぐっと握った。女の豊満な胸が俺の指のあいだから、すこしだけこぼれた。


『飛ブゾ』

「はい!」


 今度こそ翼を広げ、羽ばたく。

 うしろ脚で一番うまそうな赤牛を掴むと、そのまま巣穴へと飛び立った。

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