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女嫌い御曹司と男嫌いお嬢様

作者: みりん

 

 俺の名前は桐生亮哉きりゅうりょうや

 父親が大企業の社長で、一般的に言う御曹司というやつにあたる。


 そんな俺にとって女という生き物はカスだ。

 わがままで欲張り、自分にとって都合のいい理論を振り回していばり散らす。

 そんな姿には本当に目も当てられない。

 

 デートに行けば、お金を支払うことがないどころか財布さえ持ってきていないことも多い。

浮気は当たり前。多少の清潔感があって、金がある男なら誰でもいい。


 ああ本当に女はカスだ。

 結婚が人生の墓場であるというのは言い得て妙である。

 将来、俺が結婚する日なんて来るはずないだろう。

  

 そんな俺に祖父から見合いの席を用意したとの連絡があった。ガッデム。


 

   ***


 私の名前は琴吹彩音ことぶきあやね

 母親が大企業の社長で、一般的に言うお嬢様というやつにあたる。


 そんな私にとって男という生き物はクズである。

 傲慢でいじっぱり、周囲に気を配らず自分勝手にいばり散らす。

 そんな姿には本当に目も当てられない。


 デートに行けば、自分の好き勝手に動き女性のことを振り回す。

 浮気は当たり前。多少、若くて愛嬌があり、自分の言いなりになる女なら誰でもいい。

 

 ああ本当に男はカスです。

 結婚が人生の墓場であるというのは言い得て妙である。

 将来、私が結婚する日なんて来るはずないでしょう。

 

 そんな私に祖母から見合いの席を用意したとの連絡があった。ファッキン。



  ***


「初めまして、桐生亮哉です。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ初めまして、琴吹彩音です。今日はよろしくお願いします」


 互いにぎこちないながらも挨拶を交わす。

 はたから見たらイケメンと美女の初々しいファーストコンタクト。

 互いの距離を測りかねているが、相手と仲良くなろうとしていると見えないこともない。


 ただ実際問題として、この2人は互いに仲良くしようなんて気は微塵もない。


「(ああ、女と話すなんて虫唾が走ってしょうがない。適当に挨拶だけして見合いを断りたい……)」

「(ああ、男と話すなんて悪寒を感じてしょうがないです。適当に外面だけ取り繕ってさっさっと見合いを断りたい……)」


 ただ、2人も見合いを断れないだけの理由がある。


「「(ああ、祖父がセッティングしたお見合いじゃなければ……)」」


 2人とも祖父のことが大好きなのである。

 他の人がセッティングしたお見合いなら、誰であろうと断っていただろう。

 しかし、大好きな祖父が孫のことをおもんばかってセッティングしてくれた場である。


 互いの祖父は年来の友人であり、大変に仲がいい。

 その祖父同士の仲を良好に保つためにも、とりあえず顔だけでも出そうというのが2人の考えである。


「じゃあ、あとは若い2人に任せてわし等は席を離れるとするか」

「そうじゃな、それがいいだろう」


 2人の祖父が去っていく。


「(……ああ、2人になってしまった。男女2人だけの空間……うっぷ、吐き気がするな)」

「(……ああ、2人になってしまいました。男女2人だけの空間……このままだと犯されてしまいます……)」


 男性側は本気で具合が悪そうな顔。

 女性側は被害妄想が激しいが、案外けろりとしている。


「じゃあ、あらためて自己紹介でもしましょうか?」

「そうですね、そうしましょう」


 とりあえず、互いに自己紹介をすることに決めたもよう。


「えーと、じゃあまずはありきたりですがご趣味とかはございますか?」

「趣味ですか。読書とか映画鑑賞ですかね」

「どんなものをお読みになるんですか?」

「えーと、とりあえず話題になってるいるものを手にとる感じですね」


実に当たりさわりのないような会話。

お見合いらしいといえばらしいが、実に無意味な会話。

ただ2人の内心は当たりさわりありまくりである。


「(ジャンルくらい言ってもらわないと、会話が続かないだろうが)」

「(男嫌いすぎて百合作品が趣味なんて言えないし、あんまり深掘りしてこないで欲しいわ)」

「「(……ああ、これだから男(女)は)」」


案外、この2人はお似合いなのかもしれない。


「逆に、あなたのご趣味について伺いたいですわ」

「えーと、私ですか? 私の趣味はギターを少々(たしな)んでいるくらいですね」

「バンドとか組んでいるんですか?」

「はい、一応」

「どんな曲を演奏なさるんですか?」

「え、えーと、普通に流行りの曲とかですね」


こちらも当たりさわりのない会話。


「(普通の曲じゃわからないですよ。まあ、どうせバンドなんてモテたい男の集積所ですしね。愛してる~なんてラブソングを歌ってるんでしょうね。虫酸が走りますわ)」

「(この世にいる女はカスばっかりだ、みたいな曲をデスメタルバンドで歌ってるなんて言えるわけねーだろ。深掘りしてくるなよ)」

「「(……ああ、これだから男(女)は)」」


まあ、案の定である。


「「……」」


 場が沈黙を支配する。

 まあ、無理もない。


「「(早く帰りたい……)」」


 どうしようもない2人である。



   ***



 その頃、祖父たちというと。


「今頃、仲良くなってますかな?」

「いや、それはないじゃろ。わしの孫娘は男性を毛嫌いしておるからな」

「まあ、それはそうですな。わしの孫も孫で女性を嫌っていて、もう女性恐怖症のレベルですからな。なにやら女性といるだけで気持ち悪くなるとか」

「それは大変ですな……」


 孫のことを考える良いおじいちゃんたちである。

 好々爺という表現がぴったり似合う。


「それにしても、孫娘さんは男性を毛嫌いしてるのによく見合いに来てくれましたな」

「死にゆくじじいの一生に一度のお願いといったら、苦虫を嚙み潰したような顔で了承してくれたぞ」

「ははは、儂もじゃ」


 なんだかんだちゃっかりしているじいさま方。


「まあ、社会に出れば異性と関わる機会が増えますからな」

「そうじゃな。だから、今のうちにある程度まで慣れといて欲しいもんじゃ」

「その点、お前さんの孫なら信頼出来る」

「ああ、儂の孫はいい子じゃからな。お前さんの孫娘もいい子そうじゃの」

「目に入れても痛くないくらいに可愛い子じゃ」 

「「ははは」」


 孫が可愛いのは誰もが一緒である。


「でも、このままだと絶対に上手くいきませんな」

「それはそうじゃろな」

「だからこそ、いろいろ策を練ったんじゃろ」

「それもそうですな」

「「ははは」」


 おじいちゃんのお節介ほど厄介なものはないともいうけれど、はたしてどうなるのか。



   ***



「「……」」


 いまだに続く長い沈黙。

 その間、実に10分間。


「「(気まずい……。でも、このまま黙って時間さえ過ぎてくれれば)」」


 戦略的沈黙。

 いや、ただ2人ともコミュ障なだけかもしれないが。

 

「あ、あの……」


 さすがに沈黙に耐えきれなくて先に声を出したのは彩音。


「なんでしょうか?」

「ごめんなさい!」

「……?」


 いきなり女性に謝られて、困惑の表情を浮かべる亮哉。


「実は私、男の人が苦手で……。今回のお見合いも本当は受けるつもりなくて……」

「……ははは、そうだったんですか」

「……? どうして笑うんですか?」


 急にはにかむ亮哉に、今度は彩音が困惑の表情を浮かべる。


「いや、ごめんなさい。実は自分も女性がすごく苦手で」

「そうなんですか?」

「はい、女性と話すだけでも大変で。自分も今回の見合いを受けるつもりなかったんですよ」


 女性と話すだけで、吐きそうになるのがこの亮哉という男である。

 高校は男子校、大学はほぼほぼ男子しかいない場所であったため大丈夫であったものの、センター試験では女性と近い席になったため緊張と吐き気で大失敗している。


「失礼なことを聞きますが、何でお受けになったんですか?」

「祖父の頼みを断りきれなくて……」

「そうなんですか! 実は私もなんです! おじい様にどうしてもと頼まれて断り切れなかったんです!」


 同じ境遇に共感したのか、先ほどよりもリラックスした様子の彩音。


「そうだったんですか……お互い大変ですね……」

「そうですね……」

「「……はぁ」」


 互いの深いため息が場を包み込む。


「じゃあ、今回のお見合いは適当なところで切り上げて終わらせますか」

「そうですね。そうしましょうか」

「お互いにこれからも頑張っていきましょう」


 こうして2人のお見合いは幕を閉じましたとさ。

 めでたしめでたし? 


「……あっ!? 私良いことを思いつきました!」

「いきなりどうしましたんです?」


 ここで話が終わることもなく、彩音が何かを思いついたようだ。


「私たちこのまま付き合ったことにしませんか!」

「……???」

「これからも、いやこれからもっとお見合いとかの話を持ち掛けられることになると思うんですよ」

「それもそうだな」

「だから、とりあえずお付き合いしてることにすればいいと思うんですよ」

「……いや、でも俺は手をつなぐふりも無理だぞ」


 手をつなぐと同時に、リバースする可能性がある。


「あ、私も男性と手をつなぐなんて死んでもごめんなんで大丈夫ですよ」

「それでどうやって誤魔化すんだ?」

「大丈夫です! 手をつなぐのも恥ずかしい年ごろの乙女を演じればいいんですよ」


 手をつなぐのを恥じらう年ごろの乙女(27歳)。

 世間的に見て恥ずかしい乙女にならなければいいが。


「あなたがそれでいいならいいんだが……」

「じゃあ、決まりですね! 今日から私たちはカップルです!」



   ***



~1時間後~



「2人とも仲良くなっておるかの?」

「少しお邪魔するぞ」


 2人の祖父たちがお見合いの様子を見に来たようだ。

 

「はい、おじい様。私、りょーくんとお付き合いすることを決めました」

「「りょーくん???」」

桐生亮哉きりゅうりょうやさんだから、りょーくんですよ?」

「「……」」


 何を言ってるんですかといった様子の彩音。

 困惑する祖父2人。


「私としても彩音さんと真剣なお付き合いを考えています」

「……ちょっと、呼び方はあやちゃんって決めたじゃない」


 小声で亮哉にささやく彩音。

 この2人、祖父が来るまでの1時間で恋人設定について議論していた。 

 ただ、彩音の考えが手をつなぐのを恥じらう乙女的なものではなく、イチャイチャするバカップル的なものだったのが亮哉の誤算である。


「えー、これは思わぬ誤算じゃな」

「そうじゃな、まさか2人が付き合うとは」


 戸惑う祖父たち。


「(……なんだよあやちゃんって。これだから女は)」


 すでに後悔し始める亮哉。


「(私の作戦は完璧だわ。これからのことも任せなさい!)」


 どこか抜けてる彩音。


 2人のラブコメがこれから始まるのかもしれない。



続か……ない。

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