7話:早すぎて遅く感じるとか寒すぎて熱く感じるとかそういうアレ
今回は主に響也視点。最後の方ちょっとだけ渉輝視点になります。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
受付の人の案内に従い備わった力を測定する場所に来てみると、いかにも『ここに手をのせてネ♡』みたいな手形付きの石盤があった。
「それでは、この石版に手を載せてください。」
「どっちからやる?渉輝。」
隣に立つ親友に問う。
「うーぬ。俺からやるよ響也。」
そう言って、渉輝は石盤に手を載せた。すると、見覚えのある青いウィンドウが出てきて文字が表示された。
◇◇◇
個体名 渉輝
武器 魔封ノ電子版
戦闘用闘気
スキル 闘気術LEVEL1
◇◇◇
「「・・・なにこれ。」」
渉輝と思わずハモってしまった。武器の欄何?何なの『魔封ノ電子版』ってもしかしなくてもCDのことだよな・・・というかちゃんと闘気あったのかよ。ついでにスキルも待ってやがるし。
「うっ・・・。」
うめき声が聞こえたので何事かと隣を見てみると、渉輝のやつがうずくまって頭を抱えていた。慌てて渉輝に呼びかける。
「おい渉輝!!大丈夫か!」
「大丈夫〜みんな最初はこうなるよ〜。」
「そう・・・なのか?」
俺の質問には渉輝じゃなくてバロンのやつが答えた。渉輝はまだうめいているし、相当苦しいのだろう。
「というかこの子〜ショウキって名前なんだ〜知らなかったよ〜。」
ちょっと寂しそうな声でバロンが言う。ヤッベ・・・自己紹介忘れてた・・・
「じゃっじゃあ俺もやりますね!」
ちっとばかしごまかすように声を上げ、石盤に手をかざす・・・・・・・ってちょっと待て。どうやってかざせばいいんだこれ。いやふざけてるんじゃないんだよ?ただちょっと両手がナイフになってるというか・・・
「あの・・・これどうしたらいいっすかね。」
もうどうしようもないのでダメ元でバロンに聞いてみる。すると、相変わらずのほほんとした声でバロンは答えた。
「この腕についてる剣を外せばいーの?」
「はい。お願いします。」
良かった。何とかなりそうだ。
「ちょっと見して〜。」
「分かりました。」
バロンに言われ、腕を見せる。・・・なんかまじまじと見られてんだけど。ちょっと混乱するな。
「〈バナス・パティ〉!!」
一瞬誰の声かわからなかった。唐突に響いた野太い大声に聞き覚えがなかった。数秒遅れて、目の前で口を開いているバロンの姿を見て誰が叫んだのかを理解した。
「痛って・・・」
更にちょっと遅れて痛みが両腕を襲ってくる。何だと思い見てみると、俺の腕が崩れ始めた。そのまま破片になって地面に落ちたあと、肩から両腕が生えてきた。どうなってんだよ・・・
「驚かせちゃったかな〜この技はね〜患部を一度破壊してから〜新しいものを生み出すんだ〜。」
先程とは打って変わってのほほんとした声でバロンが言った。
「そう・・・なのか。助かった。」
ふと地面を見ると破片がくっついてまた2つのバタフライナイフになった。もう驚く気力も無いな。
まあなにはともあれこれでやっと力が測れる。そう思い、石盤に手をかざす。
◇◇◇
個体名 響也
武器 森羅万象書庫
十字刃ノ片割レ・左
十字刃ノ片割レ・右
スキル 探知LEVELX
被験者
◇◇◇
いやいやいやさっきから何だよこの無駄にかっこいい名前は。というかオレスキル持ってたのかよ。『探知』?全く使えた覚えないしレベル表記がXになってんだけど。
「LEVELXとは不思議だね〜俺も数えるほどしか〜見たこと無いや〜。」
へー。やっぱ珍しいんだ。
「というかお前2つスキル持ってんじゃん。羨ましい。」
いつの間にか頭痛が直ったらしい渉輝が俺に羨みの視線を向ける。しかし俺としては複雑な気分だ。
「いやーでもさ。スキル名見てみ?『被験者』だよ?パッと見マイナススキルじゃねぇの?」
「うーぬ。言われてみれば確かに。」
だろ?と言おうとして声が固まる。何故・・・だ?渉輝とバロンが不思議そうな顔でこちらを見てくる。体も動かない。しかしそう思ったのも束の間、恐ろしいほどの痛みが脳内を襲う。今までの硬直は大きすぎる痛みで脳が混乱に陥っていたわけか。
「ああああああっ!!」
恐ろしいほどの痛みで叫び声が出る。目も少し熱くなってる。
「おいどうした響也!!口開けて苦しそうにして!!」
「これやったあとは頭痛が来るけども〜これは異常だね〜。」
叫んではいなかったらしい。まだ体は動かないのか。バロンも口調こそそのままだが、物凄いスピードで魔法陣を組んでいる。ああ、そのお陰か?だんだん傷みが和らいで・・・
バタッ
俺はそのまま地面に倒れ伏し、深い眠りに落ちた。
◇◇◇
「響也!!」
俺は響也に駆け寄り、呼吸を確認するため口に手をかざす。
「息が・・・」
戦慄した。息をしてない。少し取り乱しながらも冷静に、脈を確認する。場合によってはさっきの大男に伝えなくてはならない。心臓に耳を近づけてみる。
キーンと音が脳内で反響する。ノイズ・・・だと?どういうことだ。脈まで無いのかよ。と、そこまで考えて違和感に気づく。耳を胸に近づけたんだから音は脳からじゃなくて耳から届くのでは?
バクッ
耳が破裂した。いや、そう錯覚した。何の音だ?耳を響也からはなすと、響也の姿が目に入った。
「これは・・・」
「こ〜んな派手な人は〜なかなかいないよ。」
響也は震えていた。小刻みに。そう、まるで心臓が鼓動するかのように周期的に。振動は衝撃波となり、飛ばされそうになる。
「さっきの音・・・もしかして心臓の・・・?」
一体何があったんだ。なんでこんなことに・・・
しかし俺の疑問をよそに、あっけなく響也の震えは収まり、最初からそうであったのかのように静かになった。
「よ〜くわからないけど〜とりあえず今日の宿へ行こうか〜。」
「ああ。わかった。」
いくつか謎を残したまま、俺とバロンは響也を担いで、今日泊まるという宿へと向かった。