3話:似た者同士だからってすぐに友達になれるほどこの世は甘くない。
今回は渉輝視点です。戦闘シーンは思ったより難しかったので響也くんの戦闘はまた次回。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
あの野郎ども絶対許さねぇ。それが第一印象だった。しかし冷静になっていくにつれ、怒りは収まることは無かったが、現実が少しずつ見えてきた。まずこっちのはっきりした戦力は・・・ない。響也の本があることにはあるが、何故封印できたのか、条件は何なのか、いまいちよくわからない。わからないものを戦力にするのは危険だ。
そして相手は、短めの茶髪に筋骨隆々の古傷が至る所にある体、見るからに武闘派な男が一人と、そいつとは対照的なすらっとした体に長い髪。高い身長に整った顔と、特に恨みがなくても殴りたい様な男が一人だ。さらに茶髪は、さっきあった旅人を気絶させ抱えている。相当の手練れだ。やれやれ。
「おい渉輝、どっちとやるよ。」
響也が少し緊迫した様子で問う。さてどうしよう。少し考える。
「おいお前ら、退け。この村のもんじゃ無ぇだろ。」
「言葉遣いが乱暴ですよ。」
茶髪が俺たちに向かって注意を飛ばす。降伏勧告のつもりか?戦うまでもないって言う考えが嫌でも伝わってくるぜ。
「あの茶髪気にくわねぇ。俺はあいつとやるぜ。」
「OK。じゃあ俺はあのイケメンとやるぜ・・・おいそこの二人。」
戦う相手を決めたところで、響也が口を開いた。
「俺は響也、そんでこっちの奴が涉輝だ。俺たちは退く気はねぇ。そのお前が担いでる奴に借りがあるんでな。」
やれやれ、無駄に正々堂々としてんだから。奇襲とかすればいいのに。昔っから響也は、不正が大嫌いな奴だった。勝負中、ブラフに嘘にハッタリに、ありとあらゆる手を使うがチートなどの不正は死んでもやらなかった。
非情になりきれない甘い奴とか言われたこともあったが、俺は結構気に入っていた。
「ほう・・・この方にですか。」
不意にイケメンの方が口を開いた。聞き逃しちゃ不味いと思考を中断して話に集中する。
「おっとその前に、折角名乗って頂いたのにこちらが名乗らないのは失礼ですね。私の名はレノン。偉大なる魔王マモン様の忠実な下僕の一人です。そしてこちらが・・・」
「アルゴスだ。全く。お前は無駄な所が正々堂々としてるんだ。」
「いいえアルゴス。戦う相手には敬意を払う。戦士として当然ですよ。」
レノンにアルゴスか。そして魔王ね。ファンタジーチックだしいるかもとは思ってたけどまさか本当に魔王がいるとは。
「レノンとか言ったか。あんたとは気が合いそうだ。」
「奇遇ですね、私もです。お互い苦労しますね。」
なんか意気投合した。これだから変人は。
「さて、俺はお前とだ。アルゴス。少し移動しようぜ。あいつら邪魔だから。」
「フン、餓鬼が。少しは楽しめるんだろうな。」
「上等。」
態度がでかいやつだ。だがまあ割り切った態度は嫌いじゃねぇ。さあ勝負といこうか。
◇◇◇
構えをとる。最も俺は拳法なんて習ってないから独学だ。意味があんのかは知らんが集中力は高まる。
「悪いが俺は手加減は出来ねぇぜ?最後の警告だ。逃げな。」
アルゴスがまた挑発をかける。舐めやがって。
「余計なお世話だカスが。俺だって加減は苦手だぜ?」
挑発には挑発で返さねぇとな。
「口だけは回るようだな。だがその前に・・・」
そう言うと、アルゴスはのんびりとこちらへ歩いてきた。そして身構えた俺の前を通り過ぎると、まだ逃げていなかったらしい村人くんの前まで移動して、担いでたアイツを下ろした。
「あっ葵様!!」
「俺たちもお前のとこまでは来ないだろう。精々介抱してやれ。」
なんだよ、案外素直じゃねぇか。
「いいのか?人質こっちに渡して。」
「ハッ、人質使って勝って何になるってんだ。男なら正々堂々だろう?」
「わかってるじゃねぇか。」
こいつは何で魔王の手下になんかなってんだろ。めっちゃ男前じゃん。
「お喋りは終わりだ!!〈忍び寄る梟〉!!」
掛け声と共に、アルゴスの姿が揺らいで消える。
「っ・・・!」
高速移動か?少し揺らいでいたからそうだろう。初手から厳しいなぁおい。何か動きを察知するものが欲しいが、何かないか?改めて自分の持ち物を探る。
「これしかねぇか・・・まあ無いよりはマシか。」
腰袋に入ったCDがとりあえずあったためそれを大量に空中に放り投げる。これでアルゴスがくる方向くらいはわかるだろう。
「邪魔だッ〈大嵐ノ雉〉!!」
うーん確かに方向はわかった。わかったんだが・・・
「うわぁぁぁぁ!?」
突き出されたアルゴスの拳から真空波が発生し、CDもろともふっ飛ばされ、民家に衝突する。ご丁寧に村人君には当たんねぇようにしてやがる。そして動けない俺に対して、更に追撃をかけようと走り出す。
「こなくそッ!!」
苦し紛れに手当り次第CDを投げつける。少しはビビってくれよ。
「ああ鬱陶しい」
最初はCDを律儀に避けていたアルゴスだったが、途中で面倒くさくなったのか目の前のディスクに向かって裏拳を決めた。あ、終わった。対戦ありがとうございました。
『〈生命録音〉』
「「!?」」
どうやら奇跡ってのは二度三度起こるものらしい。
◇◇◇
誰の声だろうか。どこかで聞いたことがあったんだが。戦闘中にも関わらずそんなことを少し考える。
俺の投げたCDは、アルゴスに当たった瞬間にただのCDであることを捨てた。まるで水を欲するスポンジのようにアルゴスを吸い込み始めた。
「クソッタレがッ!!」
このままあいつ吸い込んで終われないかと考えたが、そうは行かないらしい。あの野郎自分の腕を切り飛ばして封印を腕だけに留めやがった。やっぱ戦闘経験豊富だな。
「なかなかやるじゃねぇか。」
「おいおい余裕だなぁ腕が死んだって言うのに。」
「誰の腕が死んだって?」
懲りずに挑発してきたアルゴスに言葉を返すと、しっかりついている腕を見せられた。さっきは確実に切り飛ばしてたから高速の再生力か特殊な能力の持ち主だろう。面倒なことだ。
「何回だって防いでやるさアルゴス。」
だが、コイツに勝ったとき俺は限りなく高みに近いところまで行けるのではないか。そう思った。
「おもしれぇ。お前がくたばるまで打ち込んでやるよ。」
第2ラウンド始めますか。