33話:結界デスマッチ〜開戦〜
皆さんこんにちは、奇柳業です。途中から三人称視点。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
平野を光が覆った。さっき使われた団長の魔法、『大天空結界格子』は、空間に檻を造り対象を閉じ込める技だそうだ。それと組み合わされたのがオヂサンの『集団強制転移』こいつは複数の対象を好きな位置に転移させるという壊れ技だ。真面目な話もうオヂサン一人でいいんじゃないかな。
これを組み合わせる事によって、誰も妨害できない結界(妨害できないとは言ってない)の中に俺たち調査員と敵幹部が囚われ、タイマン勝負をするわけだ。あ、ちなみに取り巻きも一緒にだ。・・・そうなると一対幹部一人+雑魚集団となるわけか。といっても今回俺が戦う幹部は取り巻きなんて無粋なものは居ないみたいだ。オヂサン一人で片付けるといっていたが・・・まあ大丈夫か。
光が晴れる。現れるのは見知った顔だ。
「おや、響也さんではないですか。久しぶりですね。お元気でしたか?」
「いやいやこちらこそ。久しぶりだな。レノン。どうだ?最近調子は。」
「どうもマモン様が復習のために戦争を仕掛けましてね。忙しくて仕方がありません。」
「そりゃあ災難だね。こっちもあんまり上手く眠れなくてさ。いい睡眠薬とか知らない?」
「すいませんね。残念ながら薬品には疎いもので。」
「そうか。まあ構わんさ。」
世間話をしながら、俺はバタフライナイフの柄を砕き、腕に装着する。
「さて・・・このまま世間話をするのも楽しいのですが・・・私はマモン様に加勢しなければならないので・・・」
「ああ。解った。始めようか。」
「あの日からどれだけ強くなっているのか。楽しみで仕方がありませんッ!!」
戦闘開始だ。
◇◇◇
「全く。いい奴らに出会ったみたいだなぁ渉輝。」
「ああ。頼りになる先輩方だ。」
「見込みはありそうだったから俺の部下にでもと思ったこともあったか。まあそんな機会はなかったが。」
「へっ。お前の部下なんてこっちから願い下げだ。アルゴス。」
結界の中。俺はアルゴスと会話していた。サボってるわけじゃない。現に今も闘気を練り上げている。取り巻きがいる様子もない。タイマン張れるみたいだ。
「おーおー言ってくれるじゃねぇか。減らず口は健在のようだな。」
「あんたこそ。元気そうじゃないか。」
「試してみるか?」
「上等。」
「〈忍び寄る梟〉!」
「〈闘気跳躍〉!」
俺達の拳が交差する。
◇◇◇
時を同じくして、櫻木葵もまた結界の中に居た。
「全く・・・ついてねぇなぁぁ・・・俺の相手はイケメンかよぉ・・・どうせなら女の子が良かったなぁ・・・」
「男で悪かったな。」
悪びれる様子もなく、顔色一つ変えずに葵は謝った。
「あぁーあ。やる気でねぇわぁ。お前らぁ。殺っていいぜぇ・・・」
「「「「了解しました!イムバシズ様!」」」」
イムバシズと呼ばれた男の号令を受け、数十人もの部下たちが一斉に葵に襲いかかる。だが、葵は慌てる様子もなく、予め作っておいた鎌を振るう。
「〈月輪ノ輪舞曲〉」
黄色い魔力を纏った鎌が振るわれ、部下たちは叫び声を上げる暇もなく絶命した。そのまま葵は纏った魔力をそのまま放出し、三日月型の魔力弾を様々な方向から放った。
「〈獄落蜻蛉〉」
しかしそれは、イムバシズの背中から生えてきた羽によって生み出された衝撃波によってかき消された。
「ああぁ・・・こいつらいいやつだったのになぁ・・・敵討ちはぁ、しねぇとなぁ・・・」
「安心しろ。すぐにまた会えるさ。」
イムバシズ。彼の異名は複眼。本気で戦うこいつの目は相手のすべてを見透かすという。その情報を事前に聞いているからこそ葵は油断しない。見た目には騙されず、冷静に距離を測る。
互いの視線が交差する。
◇◇◇
「オレの相手はお前か〜ノリ悪そ〜」
「無礼な男だ。対戦相手には敬意を払えと教わらなかったのか?」
「生憎オレは我流でね。道場とかにゃ行ってないのよ。」
こちらの結界では、軟派と硬派。相いれぬ二人が独特の空気を生み出していた。片方は『義勇兵団』、フラニック。そしてもう片方は・・・
「まあ良い。我はジロコウ。鉄壁のジロコウだ。さあ、貴様も名を名乗れ。」
「フラニックだ。その『我』ってキャラ作り?だとしたら痛いよ〜」
「フン。まずは我が弟子たちを倒してみせよ。もしそれが・・・」
瞬間。光が走った。
「で?どうすんだ?ジロコウ。」
「何を・・・なっ!?弟子たちよ!!」
慌ててジロコウは一番近くに居た弟子のもとに駆け寄り、体温を確認する。だが、確認するまでもなかった。弟子たちは皆、首が通常ではありえないような向きに曲がっていたのだ。
「貴様・・・良くも我が弟子たちを・・・しかもこのような半ば不意打ちのような・・・卑怯とは思わぬのか!!」
「おいおい馬鹿言うな。俺達はお前らと勝負しに来たんじゃない。『義勇兵団』に喧嘩を売った命知らずなお前らを殺しに来たのさ。卑怯もラッキョウもあるもんか。」
激高するジロコウに対して、フラニックは挑発的な態度を崩さない。
「貴様・・・許さんぞ。見せてくれよう・・・『被甲拳』の真髄を!!」
「ああ見せてくれよ。お前に俺が見えるならな。」
フラニックが光に包まれた。
◇◇◇
「おいアンタ。ここは戦場だよ?何をやってるんだい?」
「見てわかんねぇのか。ガラテアちゃんを吸ってるんだよ。」
・・・この結界に誰がいるのかはもう説明不要だろう。戦場・・・しかも目の前にはかなりグラマラスなスタイルな女性がいるのに構わずガラテアを愛でているのはさすがマグオンである。
「全く。アンタの目の前にも中々の美女がいるはずなんだけど・・・アタシは気に入らないかい?」
「黙ってろよブス。ガラテアちゃんと比べるのもおこがましい。あと5分だからちょっと待ってろ。」
「アタシがブスですって!?」
女性が怒り狂っているようだが、そんなことはどうでもいいとばかりにマグオンはガラテアを愛で続ける。
「いいわ。アタシを舐めてかかったこと後悔させてあげる。行くよアンタたち!」
「「「「イェス!クイーン!」」」」
女性の掛け声とともに、マグオン以外の全員の背中からコウモリの翼のようなものが生え、一斉に飛翔し、マグオンを取り囲むように隊列を組んだ。
「放ちなさい!」
「「「「〈紅蝙蝠〉!!」」」」
放たれた紅い蝙蝠型の魔力弾は、的確にマグオンに命中し、盛大に土煙を上げた。
「フン・・・この程度の弾も避けられないなんて。これは楽な戦いになりそうね。どう?アンタ私の好みだし『ブス』って言ったことを撤回して私の部下になるなら生かしておいてもいいわよ?」
「いえいえヴェラット様。あんな男もう死んでますってw」
「あらそれもそうねwふふふ。愉快なものだわ・・・」
「おい。」
その場の誰もがマグオンの敗北を確信していたその時、ひどく冷徹で、静かな怒りが感じられる声が戦場に響いた。
「おい・・・どうしてくれんだよ・・・」
土煙の中から、まるで幽鬼のように虚ろな目で立ち上がるのは、無傷のマグオンだった。
「お前らのせいでガラテアちゃんが土埃に触れちまったじゃねぇか!!許さねぇ・・・全員・・・お前ら全員・・・」
マグオンはそこで一呼吸おき、懐から鑿と槌を取り出し、目を見開いて声を上げた。
「ブッ殺す!!!!!!」
◇◇◇
「おい。なんとか言ったらどうだ。こうも無視されると俺もどうしたらいいかわかんねぇ。」
「ボス、もういいですって。さっさと殺っちゃいましょう!」
「・・・」
ここの結界もまた荒れている。といっても少々一方的だが。この結界にいる『本能戦士団』幹部はアビッシュ。冷静な頭脳と、相手の深淵まで見通す観察眼が彼の強みだ。しかしそんな彼は、生まれてはじめて 読めない相手と出会った。『死神』である。先程から会話にも応じず、微動だにしない。おかげでアビッシュの観察眼を持ってしてもどのような戦法を取るのか全く予想できない。今予想がついていることといえば両手にそれぞれ持った大鎌と刀から二刀流なのではないか程度のことだ。
「・・・」
無言で、死神が何かを上空へ放り投げた。それは結界に触れると、懐中時計のような形になって巨大化した。
「・・・この時計は特別だ。3分で一周する。そしてこの時計が一周するとき、この結界の中の生命は俺によってすべて刈り取られるだろう。」
死刑宣告。死神が初めて発した言葉は死刑宣告だった。
「口を開いたと思えばそれか。予言なぞ俺が外させてやる。お前ら!行くぞ!」
そして、時計は廻りだした。
◇◇◇
「これが本気なのか?コファンタス。」
「そんなわけがないだろう!ラトス!」
拳と拳が、脚と脚がぶつかりあうたびに空気は渦巻き、地面はえぐれる。結界の中で一番過酷な環境はここかもしれない。ここでは、ラトスとコファンタスと呼ばれた男が闘っていた。ちなみにコファンタスの取り巻きは二人のやり取りの副産物である衝撃波によって皆絶命した。
この二人、転移して目が合うなりいきなりお互い突撃し、技の応酬を始めた。その応酬の中で自己紹介を済ませ、今に至るという感じだ。
「久しぶりだ!俺にここまでついてこれたやつは!」
「そりゃ良かったね!でもうちのギルドじゃこの程度朝飯前だよ!君は新人男子どもより強いかな?ギア上げてくよ!」
空気がけたたましく泣き叫び、大地が悲鳴を上げる。だがそんなことはお構いなしに二人はスピードを早める。より早く。より正確に。研ぎ澄まされた精神の下、命のやり取りは加速する。
◇◇◇
「シェッシェッシェ・・・あんたべっぴんさんやねぇ・・・」
「あらありがとう。でもね、私はお世辞をもらう相手は選ぶのよ。あなたに言われても嬉しくないわ。」
片腕が蛇、もう片方の腕は亀の甲羅というなんとも奇っ怪な男の口説きを軽く受け流したのは、ラトスの姉、プロテス・ティタンである。
「いやいや世辞や無いって。ワイ気にいってしもうてなぁ。お体・・・頂いても?」
「『はいいいですよ』って言うと思ったのかしら?」
「言ってくれたら楽でええなぁって思ったんや。」
「あら、冗談が美味いのね。」
「シェッシェッシェ。べっぴんさんに褒められると嬉しいなぁ。」
「まあ。ふふふ・・・」
「シェッシェッシェ・・・」
穏やかに笑い合う二人。だが、彼らの目は笑っていない。獲物を冷静に見定める、ハンターの目だ。
「ワイじゃちょいと荷が重いかもなぁ。お手柔らかに頼みまっせ。」
「ええ。ミディアムあたりがいいかしら?」
「いやいやひき肉とちゃいますよ?流石にその冗談は笑えへん。」
「あら、冗談じゃないのよ?」
その言葉とともに、プロテスは自身の背後に一瞬で5本ほど炎の柱を作ってみせた。それを見て、男は目を細める。
「ありゃりゃ。こりゃちょっときついわ。あ、自己紹介まだやったわ。ワイはレプティル。冷血のレプティルや。」
「あらご丁寧にどうも。私はラトス。ラトス・ティタンよ。」
「ほな・・・行くで!!」
◇◇◇
「なあ、降伏する。俺達は一切『義勇兵団』に歯向かわないことを約束するよ。だから頼む。その物騒なものをおいてくれ!!」
DO・GE・ZA。五体を地につけ頭を下げ、情けなくも命乞いをするのは『本能戦士団』幹部の一人。プラネリルだ。なぜ幹部ともあろうものが、自らの部下とともに土下座を披露しているのか。それは目の前の状況を見れば容易だろう。
筋骨隆々なバニータイツ男。頭にはうさ耳。その指ぬき手袋が持つのはあまりに巨大な注射器(軽く1メートルはある)そして・・・
「シテ・・・コロ・・・シテ・・・」
その注射器でやべぇ薬品をキメられてえげつない状態になってしまった仲間を見れば。
「あっらーだめよ♡あなた達さっきはあんなに激しく私に迫ってきたのに♡ちょっと不利になったら諦めるなんて♡乙女の純情を弄んだ罪は重いわ♡」
「うっ・・・リッ・・・リーダー・・・吐いてもいいっすかね・・・」
「生き残りたければやめろ。お前もあいつみたいになりたいのか・・・一緒に耐えるぞ。」
「リーダー・・・」
そう。何を隠そう薬でやべぇ事になってる男は、最初にディアロの姿を見たときに思わず吐いてしまったものなのである。
「さーって・・・私の新作のお薬。あなた達で試させてもらうわ♡」
「お前ら!!降伏は不可能だ!生き残りたきゃなんとしてでも逃げ延びろ!!」
「「「「うわぁぁぁ!!こっち来たぁぁぁぁ!!」」」」
ああ、これほどまでに自分がこの世界に生まれてきたことを後悔した日はあっただろうか。もうなんかどうでもいいやみたいな思考回路になったプラネリルは、せめてもの抵抗を開始した。
◇◇◇
「うんうん。皆出だしは好調みたいだネ。」
「ほんとほんと〜オヂサンの転移も〜的確で助かるよ〜ミスとかあったら俺が行かなきゃだし〜」
「全く。好き勝手やってくれるじゃないか。」
「マモン様。油断せぬように。あの者たち、かなりの手練です。」
ここの結界は、どの結界よりも穏やかで、どの結界よりも一触即発の空気を纏っていた。メンバーはアル、バロン、マモン、そしてマモンのお目付け役のライガーの四人だ。
「よし、バロンクン。ライガーを任せてもいいカナ?」
「ええ〜問題ないですよ〜オヂサンは〜まさかとは思いますが〜残りの雑魚とマモンを両方相手取るつもりですか〜?」
「うん。そうするつもりだネ。」
流石にそれは聞き過ごすことができなかったのか、マモンが不満の声を上げる。
「おい。少し俺のこと舐め過ぎじゃないか?」
「オヂサン。負けるビジョンが浮かばないカナ?」
「貴様・・・」
「マモン様に対して何たる不敬を!マモン様の手を煩わせるまでもありません。この私が!!」
「君の相手は俺だよ〜」
ライガーの突進攻撃を、バロンが片手で受け止めた。そのままマモンから離れたところに放り投げ、自身も後を追う。
「オヂサン、必ず勝ってね〜」
「ああ。オヂサン。可愛い後輩に頼まれたら元気百倍だヨ!」
「余所見してんじゃねぇ!〈本能大砲〉!」
マモンの右腕から、極太の魔力の本流が流れ出る。しかし、それらはアルの腕の一振りでかき消されてしまった。
「さて。稽古をつけてあげるヨ。若造。」
長かった。ここまで長く書いたのは初めてですね。




