14話:説得が通じる天才よりも話が通じない馬鹿のほうが手強い場合だってある
皆さんこんにちは、奇柳業です。今回は渉輝視点となっています。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「「〈呪怨龍〉?」」
俺と響也は揃って同じことを聞いた。
「〈呪怨龍〉ってのはね〜訪れた場所全てに〜災厄と〜呪いを振りまく災厄の魔龍だよ。」
曰く、〈呪怨龍〉というのは呪いを操る〈龍〉の一種で、恨みや妬みなどの悪感情を喰らい育つという。そんなものばかり喰らって育つせいで体の中には常に呪いが蠢き触れるだけで呪われるという。さらに、呪怨龍本体すら自分の意志は呪いに喰らわれ、ただ呪いの破壊衝動のままに行動するという。はた迷惑なやつだ。
そんな説明が終わるのと、屋敷がガラガラと音を立てて崩れたのはほぼ同じだった。崩れた屋敷からは、龍の形をした骨にいくらかの腐肉がついた、腐肉龍のようなものがみえた。あれが呪怨龍か。
「改めて・・・自己紹介しようか。俺はズミーラ。強欲を司る偉大なる魔王、マモン様の忠実なる下僕の一人。病の運び屋である。」
呪怨龍の上に空中浮遊しながら、ズミーラがそう高らかに声を上げる。こりゃ面倒なことになった。
「バロンさんどうしますか?あれ、2つセットだと結構厳しいんじゃ・・・」
「そうだね〜引き離さないと〜俺でも厳しいかな〜。」
「じゃあ、俺と響也でズミーラとか言ったやつの相手をする。バロンはあの龍をなんとかしてくれよ。」
そう俺が言うと、バロンは驚いたような顔でこちらを見てきた。響也は平然としてる・・・というか最初から同じこと考えてただろ。呪怨龍は呪いを中心に使うらしい。だったら解呪のスペシャリストであるバロンに任せたほうがいいだろう。
「でも・・・かなり危険だよ〜二人共。今すぐ逃げれば〜ギルドの誰かに応援要請を遅れるかもだよ〜?」
「入団試験で逃げ帰ったってなると評判下がっちゃいそうですし。俺たちは覚悟できてますよ。」
バロンの出した安全策は、響也にすぐに消された。
「わかった。やばくなったらいつでも呼んでよ。〈神聖招集〉」
バロンはそう言うとすぐさま飛び立ち光を放つ。そして呪怨龍の注意をひきつけて場所を変え始めた。さて俺たちは・・・
「あれ?ベテランがいないなぁ。いきなり別れちゃって大丈夫かい?」
「そっちの口調が本来かよズミーラ。」
あいつを倒すだけだな。
「さーってと。まずは一応自己紹介。俺の名はズミーラ。マモン様の忠実なる下僕であり、病を司るもの。人は俺を『病魔のズミーラ』と呼ぶ。」
「おいおい自分から手の内明かして大丈夫か?それともブラフか?」
自己紹介を唐突に始めたズミーラに、響也が挑発を仕掛ける。あいつの〈探知〉は嘘を見抜ける。それで少しでも情報を聞き出そうとしているのだろう。抜け目のないやつだ。
「ブラフなんてしないさ。そんなことしたら減給だ。」
わけのわからないことを言い出した。何だ減給って。いや減給自体はわかるんだけどさ。
「マモン様は正々堂々とした行いを好むんでねー。ずるい手で任務達成すると減給なんだよ。場合によっちゃ被害の賠償までやっちまう。最も、そんなこと気にせずに色々やらかしまくってるバカもいるんだがな。」
俺たちは二人して言葉を失い、同じことを考えた。何だその魔王。
◇◇◇
「まあならこっちも自己紹介しないとな。」
「おっと珍しい。大抵のやつはすぐに攻撃してきたのに。」
「勘違いすんなよ。俺も正々堂々とした戦いは嫌いじゃない。」
響也がなにやらおかしなことを言い出した。なんでこんなところで名乗り上げするんだ?と思っていると、響也は左腕にバタフライナイフを顕現させ両手で持ち名乗り始めた。
「俺の名は響也。大剣使いの響也だ。よろしく頼むぜ。ほら渉輝。お前も名乗れ。」
こいつは何を言ってるんだ。大剣なんて一度も使ったことねぇだろ・・・とここにきてやっと気づいた。こいつあんなに正々堂々とか言ってきたくせに大嘘ついてやがる。なんて野郎だ。しかし面白そうなので乗っかってみる。
「渉輝。闘気使い。」
俺はあいつほど嘘がうまくない。言葉も短いほうがいいさ。
「じゃあ行くぜ。〈黒死の暴風〉!」
恐らくやつの技の中でも結構強めの技なのだろう。黒く色づいた風が俺たちに吹き付ける。しかしそれは俺が避けるまでもなく、響也が全て受け止めた。
「まずは一人。」
そう冷静に言い放つズミーラに対して、俺の親友は性格の悪い笑みを浮かべて言葉を返した。
「悪りぃな。もう一回言ってくれ。ちょっと風が五月蝿くてな。」
「へぇ・・・病耐性持ちか?」
「いや。そんなものはないさ。」
だがあくまでも、ズミーラは冷静に答える。あいつはたしかに耐性なんて持ってない。というか〈被験者〉のせいで持てない。しかし、あの馬鹿は大量の病にかかっていくうちに、〈病高速治癒〉とかいうスキルを身に着けていた。
だが、それはあくまでも化け物みたいなスピードで病が治るだけだ。病を無効化するわけじゃない。つまりあいつは平気な顔をしながら、病の症状と高速で体が治る痛みにただ耐えている。本当に馬鹿なやつだ。いつも無茶しやがる。
「だがこいつを防いだところでお前らに俺を倒す手段があるか?見たところろくに魔力も纏ってねぇじゃねぇか。」
魔力ねぇ。闘気と同じようなもんだろうか。だったら・・・
「〈闘気開放〉!」
見せてやるぜ、バロンとの特訓でLEVEL3まで上がった〈闘気術〉の力を!!
「魔力に闘気か・・・」
なにか響也が呟いたような気がしたが、多少スイッチが入ってきた俺の耳には届かなかった。




