11話:もしかして・・・と思った時はだいたい手遅れのことが多い
皆さんこんにちは。奇柳業です。今回は渉輝視点です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「さて~ズミーラから〜色々な情報を引き出したけど〜どうする〜。」
戻ってきた宿の中で、バロンが俺たちに問う。ズミーラの話だと、この街の病は確認できるだけで5、6種類あり、バロンの話によると呪いなら治せるという。要はその残った病をどうにかすればいいわけだ。
・・・といってもまあ俺たちはただの引きこもり高校生。治すための専門知識なんて持ってるはずも・・・
「抗体とかって作れないんんですか?」
響也がバロンにそう問いかける。そういやこいつ何故か妙にサバイバル知識待っていたっけ。結構不思議ちゃんなんだよな。最も中学時代からしか知ってないからまだ知らないことがあっても当然か。そんな問いかけに、バロンは少し困ったように答えた。
「それはね〜今の所〜病から治った人がいないみたいでね〜まだ無理そうなんだ〜。」
「でも今朝体の抵抗力を高める魔法をかけたって言ってもせんでしたか?」
そういえばそんなこと言ってたな。俺は完璧に聞き流していたが。
「そうか~そういえば〜そうだった〜見に行って見る価値はあるね〜。」
少し驚きながらもバロンは答えた。それに俺たちは初日にさらっと見ただけで、詳しく病人を確認できてはいない。実際に見てみればなにか思いつくこともあるだろう。
「よし響也。いってみようぜ。」
「ああ。渉輝。」
そうして俺たちは、バロンが魔法をかけたという病人の家へと向かった。
◇◇◇
何となく。嫌な予感がした。この家には入らないほうがいいという予感が。なぜかって?そりゃあもちろん
「あっはっはっは死ぬ!死んじゃう!苦しいなっはっはっは!」
家の中からキチガイみたいな笑い声が聞こえてくるからだよ。こりゃ間違いなく病。それも奇病とされるものだな。とりあえず見てみないとなんの病気かわからないので気は進まないが家の中に入る。
「・・・こりゃ気も狂うわ。」
「全くだ。」
中の様子を一言で表すなら地獄絵図だった。部屋中に乱雑する紙の山。どうやら日記のようなもののようで、毎日の記録がきっちり書かれている。そしてキシキシとなる天井。家鳴りと笑い声がダブルでうるせぇ。
書かれている内容によると、こいつは妻と息子と三人で仲睦まじく暮らしていたようだが、一ヶ月前くらいから体が痺れる感覚がして、段々と体が動かなくなっていったという。その上何故か笑い続けるようになってしまい、家族に気味悪がられて逃げられて。絶望のどん底のようだ・・・って何で体動かないのに日記かけてんだよ。
と思ったが、まだ手先や足先は動くらしく。それでなんとかしているらしい。
「治してあヒッこんな体じゃヒャっ何もっ出来なっひひ。」
「この人も〜魔法の効果は無しか〜二人共〜これは何の病気だっけ〜。」
バロンが俺たちに問いかける。学校じゃねぇんだからそんな聞き方しなくてもいいだろ。
「ええ。覚えてます。」
「覚えてるよ。」
「「笑顔傀儡性症候群でしょう。」だろう。」
「せいかーい。」
バロンが答える。
笑顔傀儡性症候群。パラノイアで見られる病の一つで、所謂奇病とされるものだ。臓器などは動くのだが、体の中心から末端にかけて肉体がだんだんと動かなくなっていき、それに伴い永久に笑い続けるようになってしまう。そして最終的には栄養が取れずに死に至る。ついでに言えば、笑い声をしばらく聞き続けていると精神錯乱を起こしてしまうようだ。最世話してくれるやつがいれば延命とかもできるらしいが、この性質のせいで難しい。
俺としては呪いの類だと思っているんだが、バロンで治せないのでれっきとした病原体orウイルスによる病のようだ。
そして肝心の治す方法だが・・・まだ見つかってない。血液を採血して見てみても病原体らしきものは見つかるものの何をやっても弱らせられず。治ったやつもいないので抗体も作れず。八方塞がりだ。
とりあえずバロンが再び魔法をかけ、栄養剤をうって家を出た。やれやれどうしたもんかね・・・
◇◇◇
灼熱血液散弾症候群。俺がズミーラから聞いた話で一番厄介だと思ったものだ。これにかかると、最初は軽い症状しか無いものの、しばらくしたら全身の血液が沸騰しだす。これだけでも耐性か特殊なスキルが無いやつは即死だ。生き残った患者はその後、出血か吐血を起こす。当然その血液もグツグツに沸騰した灼熱の液だ。血が飛んだ場所が悪ければ甚大な二次被害が出る。
じゃあ即死したらどうなるかって?患者の死をトリガーとして血液が体を溶かしながら這い出てきて、今度は地面を焼き焦がす。死に場所が悪けりゃやっぱりこいつも二次被害を起こす。迷惑の権化だ。
何故今そんなことを話すかって?そりゃあ目の前で火だるまになってる家と巻き込まれて燃えている人とかがいるからだよ。さっきの家から出たあと、火柱が上がっているところがあり、もしかしたらと思って行ってみたのだが・・・悪い予感ってのは当たるようだ。
「こりゃ想像以上だ。天界のバーベキューみたいだな。」
「おいおいおい、死ぬわそんなことしたら。」
響也と軽口を叩くものの、解決方法は全くわからん。強いて言うならこの病にはわかりやすい初期症状があったりする。そいつを探してみるってのも手だが・・・
「なあ渉輝。この病って初期症状あったよな?」
不意に響也が口を開く。同じこと考えてたか?
「ああ、あったな。目眩がしたり熱が出たり。あとはー」
その先の言葉を継いだ響也を見て、俺の思考は固まった。そんな俺をよそに、響也はなおも自虐的な軽い笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「こんな感じに両手が赤黒く染まったり・・・ね。」
わけがわからない。なんかの冗談?冗談であってくれ。そういえばこの街に来てからの響也は体調が優れないように見えた。どうすればいい?
「あれ〜二人共どうしたの〜。」
火の中を捜索していたバロンが戻ってきて、俺たちに問う。しかし、響也の手を見て理解したらしく、表情が一瞬で引き締まった。どうすればいい。どうすれば響也は回復する?俺が動揺していると、響也は冷静に喋りだした。
「バロンさん。このあたりに湖がありましたよね。」
「ああ。南の方にあったけど・・・」
「そこに行きましょう。そこなら炎の被害は少なくすむ。」
なにか不穏な空気を感じて呼び止める。
「おいちょっと待て響也!」
しかし、その後に続く言葉は浮かばなかった。その様子を見た響也は、安心しろと俺に言葉をかけた。
「万が一の為だから心配するな。まだこの世界でやり残したことは残ってる。俺達の冒険はこれからだからな。」
あいつらしい。身に危険が迫ってるというのに軽口を叩き、危機感なんてないように振る舞っている。俺にまでこういう反応をする響也は相当焦ってる。
「俺にはそういう風に振る舞うなって言ったよな響也。」
そう言うと、照れたように響也は笑った。
「やれやれ・・・こんな時だけ鋭いんだから。本音言えば怖いよ。気絶したいくらいには・・・な。」
「今は・・・ゆっくり休めよ。親友。」
俺の胸に倒れ込み、響也は眠りについた。やっぱり無茶してたか。もう少しこいつは本心をさらけ出してもいいと思うんだがな。熱い。相当な熱だ。よっぽど辛かったんだな・・・
ってちょい待て。これもう発症してね?
「おいバロン!響也が発熱してきた!湖に急ぐぞ!」
「りょーかい。ついてきてね〜。」
俺たちは全速力で湖へと向かった。
・・・不甲斐ないな。俺にもう少し響也みたいな注意力があればもっと早く気づいてやれたかもしれないのに。そう唇を噛みながら、俺はさらに足を早めた。




