10話:目覚めが悪いと一日の調子ってのは悪い
どうもお久しぶりです、奇柳業です。環境変化がやっと落ち着き、執筆作業が再開できるようになりました。これからも続けていきますので、どうか末永く見守っていただけると嬉しいです。前置きが長くなってしまいました。今回は響也視点です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「わかってくれ、本当に悪いと思ってるんだ。」
「好きでやってるわけじゃないんだ。」
ああ、わかってるとも。そんなのでまかせだって。罪悪感を消したいがために利用するんだろう?知ってるさ。俺が何をされるか、そして俺が何をしたかなんて・・・
◇◇◇
頭が痛い。やれやれ、最悪の目覚めだ。布団で寝るとどうも昔の夢を見る。やはり俺には椅子の方が合ってるのか?最近あんまりこの夢見なかったからな・・・
「ん〜おっ響也。起きたのか。」
起きてきたらしい渉輝が俺に声をかける。
「ああ、おはよう渉輝。バロンは?」
「こっちが知りたいっつーの。」
バロンの姿が見えなかったため気になって聞いてみるが、たいした答えは帰ってこない。
「そうだ響也。今日の謀略は?」
「なんの話だ?」
「おいおい、今日は街の長と面談だろう?そのための謀略だよ。」
ああーそうだった。今日は街の長と話をつけに行くんだった。一応シュミレートはしておいたが謀略はって酷くないか?まあいい。
「上々だ。お前こそ調子はどうだ?」
「俺は平気だが・・・」
そこまで言って、急に渉輝が口籠る。
「渉輝?」
「響也こそ大丈夫なのか?」
なんだ。そんなことか。少し心配したじゃないか。
「大丈夫だよ。今日はしっかり寝たから体調も良いはずだ。」
「しっかり寝てたから心配なんだよ。まあお前が大丈夫って言うなら良いが。」
やれやれ・・・渉輝には敵わないな。
「あとよ・・・これからどうする?」
渉輝が、まじのトーンで俺に問いかける。
「これから?とりあえずはこの街をなんとかしてギルドに入るんじゃないのか?」
「いやそうじゃなくて・・・」
悩んだ顔で頭をかきながら渉輝が続ける。
「ほら、元の世界のこと。俺はあっちに別に未練なんて無いが・・・」
ああ、そうだった。目先の目標に集中していたが少なくとも俺にはまあまあ大きな目標があったんだ。
「俺も未練はないさ。解るだろ?こんなヒキニートを受け入れる場所なんてお前の隣くらいしか無いの。」
少し自虐的に言うと、ようやく俺の親友は笑顔を見せた。
「おいおい、それじゃあ俺もじゃねぇか。というか俺たちはまだ高校生だぜ?働く年じゃ無いっての。」
ここは新しい世界なんだ。新しい環境。新しい人。昔の柵は全部向こうの世界に置いてきた。少しは楽しもうじゃないか。
◇◇◇
しばらくして、部屋のドアが開きバロンが戻ってきた。
「ああ〜二人とも起きたんだね〜。」
「はい。一体どこへ行ってたんですか?」
気になったので聞いてみる・・・実験も兼ねてな。
「昨日さ〜色んな人見たしょ〜。治せるかどうか〜試してきた。」
なるほど、嘘ではなさそうだ。言われてみれば病人の臭いがする。
「結果はどうでしたか?」
そう問いかけると、バロンは少し顔をしかめた。
「それがね〜半々なんだ〜俺の能力は〜解呪に偏ってんだけど〜呪いもあれば〜違うのもあった。」
なるほど。つまりバロンが回復させられるのは呪いで寝込んでる患者のみか。で、回復しなかったのは病気かなんかか。
「まあ一応〜体の抵抗力と〜回復能力を上げる魔法をかけたけどね〜。」
「呪いの力が強すぎて見えないとかはあんのか?」
渉輝がバロンに尋ねる。だから敬語使えっての。そんなことしてるからあいつは。
「それはないよ。」
錯覚だろうか。一瞬周りの温度が下がった気がした。
「だって俺はバロンだから。」
・・・こいつも何かが過去にあったのだろう。静かな声だったが、そう思わせるような気迫があった。それにしても『バロン』か。どっかで聞いたことがあったような・・・
「さて~そろそろ目も冴えてきたし〜街長のところに面談に行こうか〜。」
バロンの声掛けを受けて、俺たちも出立の用意を始めた
・・・まあ持ち物なんて大層なもんは持ってないし武器はウィンドウから出せるしでただ服装を整えただけなんだがな。
◇◇◇
合流したトッルの案内もあり、無事に街長の仕事場に到着した。
「ここが・・・応接間か。」
「思ったよりかは普通だな。」
小さな町とはいえ一応一つの地方をまとめる長だ。警備がそこそこ厳重だったが、ギルドライセンスの能力は本当に絶大なようであっという間に応接間まで通された。トッルはハブられたがな。本気でギルドに入ってもいいかもしれない。
「ようこそおいで下さいました。ギルド『義勇兵隊』の皆さん。」
「いえいえ〜こちらこそお忙しい中〜お時間を取っていただき〜ありごとうございます〜。」
声とともに部屋のドアが開き、茶髪の顔立ちがいい少年。いや、青年が現れた・・・なんか頭痛くなってきたな。イケメンに対する拒絶反応か?声も割と良いしよ。
「なんのなんの。わが街に蔓延る病を潰しに来たのでしょう。本来は茶でも出してもてなすべきなのでしょうが、生憎そんな持ち合わせもない次第でして・・・あっ申し遅れました。この街の長をやっております。ズミーラと申します。」
「いえいえ〜お気になさらず〜俺はバロン。こっちの二人は〜響也と渉輝です〜。」
紹介を受けて、軽く会釈する。さて。ここからは主にバロンが喋るのだろうが、ここで俺の腕の見せどころだ。
『探知、発動』
そう心の中で呟く。ここに来るまで、そして朝のバロンとの会話で実験を繰り返した。目、耳、鼻、肌、舌の5つの感覚を強化できるこのスキルは、ウィンドウの説明には同時に強化できる数には言及されていなかった。実験の結果、今のところは同時に2つまでが安定し、少し無理をすれば一度に3つの感覚を強化することも可能だった。
して、今回は何を強化するのかって話だが、当然耳と鼻だ。耳で相手の心拍、鼻で相手の汗の匂いを感じ取ることができる。これを使えば、より正確な嘘探知ができる。ただ感覚が鋭くなるだけなら感じる音とか匂いが増えるだけやろ。と思うだろうが、探知のスキルはそんな生ぬるいものではなかった。探知の真髄は、その感じ分け能力だ。こいつはかかる刺激をしっかり区別する。
話が長くなったが、つまり俺のこのスキルの前では一定以上の身体コントロール機能がないと嘘は筒抜けってことだ。(実際渉輝で試してみたが正答率は100%だった。まあこれは渉輝だからかもしれないが・・・)
それからバロンは、今のこの街の現状に付いて話し、街長・・・ズミーラは驚いた様子で聞いていた。が、しかし。強化された俺の感覚はそれ以外の事実も伝えてくれた。
心拍に感心の音は感じるものの、焦りも驚きも無い。感情を超越した武人か、或いはもうそんなこと知っているか。一通り説明が終わったあと、街の狸は不安そうな顔をして口を開いた。
「うーん。それは不味いですね。状況は思っていたよりも深刻なようだ。こちらもこのまま呑気に構えているわけにはいきません。できる限りのことはやりますよ。」
「本当ですか〜有難うございます〜。」
その後もしばらく面談は続き、ズミーラは現在パラノイアで確認できている病について根こそぎ教えてくれた。その情報に嘘が混じっている様子もなく、あらかた信用できるだろう。しっかし奴の声は耳障りだ。声が届くたびに不快感がくる。
「何かあったらまたご連絡くださいバロン様、響也様、渉輝様。」
「ええ〜こちらこそ~。」
応接間を出て、一度宿へ戻る。まだ日は照っている。大体昼の三時くらいだろう。まだ何かできる。情報は手に入れた、あとはどう使うかだが・・・こればっかりは一人で考えていてもしょうがない。あいつらとしっかり考えるとしよう。
俺は独りじゃない。だって今の俺には心からの親友が居るのだから。




