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目薬  作者: 青山えむ
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第2話 予知

 少しどきどきして出社した。私が勤めるのは市内にあるものづくりの会社。千人単位で社員がいる。出勤時間帯には会社への行列が絶えない。


 階段を上がり廊下を歩き職場に着く。いつもと同じ風景。同じ環境。特別なことが起こりそうな予感は何一つなかった。なんだ。ただの私の願望だったのだろうか。


 朝礼が終わり、私はいつも通り事務仕事をこなす。メールの処理から始める。この会社は土日が休みだけれども取引先はそうではない。二日分のメールが数十件届いている。いつもの画面だ。

 山口くんも普段は事務所で仕事をしているけれども、時々現場や取引先にも出向く。優秀なのだ。


富士宮(ふじのみや)さん、ちょっとこれ見てくれる?」

 声をかけられて振り向くと山口くんだった。


「え、何?」

 油断していた私は何を見たらいいのか分からなかった。


「これ、ここ」

 山口くんは書類の一部分を指さし、顔を近づけてきた。うわっ、近い。山口くん、色が白い。肌が綺麗。男の人って手入れしているのかな? 素肌でこれだけ綺麗なんて。秘訣があるのかな。


「この数字、(けた)がおかしくない?」

 そうだ、仕事中だった。山口くんに軽蔑(けいべつ)されないよう、私は必死に考えた。


「あ、確か資料があるよ」

 パソコンのフォルダから関連の資料を開く。私のパソコン画面を見つめる山口くん。まだ近い。今朝ふりかけてきた香水のにおいがする。興奮して私の体温が上昇したんだ。少し甘めで、柑橘系のにおいが混じっている香水。私は好きなにおいだけれど、きつくないかな? 今になって少し後悔した。もう少し控えめに振りかけてくれば良かったと思った。


「あーそういうことか、サンキュー」

 山口くんは納得したらしく、笑顔で去って行った。私はホッとしたような名残惜(なごりお)しいような気持ちだった。

 けれど、今朝の私の妄想が当たってしまった。偶然だろうか、予言だろうか。何だったのだろう。香水のにおいが、少し鼻をついた。



 水曜日、今朝もコンタクトレンズの内側に装着液をたらす。一粒の水分がコンタクトレンズの内側に漂っていた。

 この一粒の水分のおかげでレンズの乾きが減った。重宝している。

 レンズを馴染ませるため、儀式のように目をつぶる。上司に怒られる映像が見えた。嫌だなぁ朝から。ってその前に、どういうこと? こないだの山口くんと接近した映像は当たったし、まさか今日も……?

 

 足取りが重い。昨日までは山口くんとの近距離事件が嬉しくて心がほくほくしていた。それなのに今日は、まさか、いきなり上司に怒られるなんて。あれって予言ぽいから今日もそうなる気がしちゃう。


 職場に到着。出欠確認も含まれている名札をひっくり返す。

 朝礼はいつも通り済んだ。続いて本日のイベント発表。監査が来たり、いつもと違う状況になる場合イベントと称する。上司がマイクを握る。

 大丈夫。近づかなければいい。一応逃げておこう。そんなことばかり考えていた。上司の説明が終わる。良かった。


 いつも通り仕事をする。メール処理が終わり、打ち合わせの資料を作成する。おっと、資料が足りない。ロッカーに保管されているファイルを確認しなくてはならない。

 私はパソコン作業をいったん止めて、ロッカーへ向かう。ロッカーは少し離れた場所にある。

 

 必要な資料をコピーしてパソコン机に戻ると上司が立っていた。なんで? 私に何か用かな? 少しどきりとした。


「富士宮さん! 今朝の話を聞いていなかったの? パソコンを離れる時はそのつどサインアウトするように言ったよね? 今日は本部から監査が来ているんだから見つかったら大目玉だったよ」

 しまった。今朝上司が言っていたのはそれだったのか。私は上司から逃げることばかり考えていて、内容を聞いていなかった。本末転倒だ。そのあとも上司の小言は続いた。そりゃそうだ。本部からの監査なんだから。それに情報セキュリティは厳重にしなくてはならない。二重にミスってしまった。

 今朝見た映像が当たってしまった。あれは未来? 予知だったの? 二回も続くなんて……。


「富士宮さん! さっきから(うわ)の空で! 聞いてるんですか!」

 追加で怒られてしまった。


 うーん。朝、頭に浮かぶ映像が二回連続で予知になってしまった。偶然だろうか。


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