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拳客、異世界を行く  作者: Katz
序章
2/13

00-02 拳客の半生

前話のまとめ

人殺しと人生について語り合った。

 俺の爺ちゃんは強かった。

 小さい頃から憧れて、柔術と剣術を教わった。


 反抗期の頃、御多分に漏れず爺ちゃんから離れた。

 中国拳法が格好良いと思った。

 謎の中国拳法がどうのと取り上げられる事の多い時代だった。


 偶々近所に住んでた中国拳法の老師を見つけて入門した。

 精一杯頭を下げたつもりだったが、相手は究極の体育会系だ。

 入門は許された。

 但し拳法だけでなく、礼儀についても徹底的にしごかれた。


 礼儀をしごかれたのが良かったのかも知れない。

 俺の反抗期は大学進学を考える頃には終わっていた。


 親と爺ちゃんに進路を相談。

 将来は爺ちゃんの整体院に勤める事になった。

 親の勧めで、関連する資格を取れる大学に進んだ。

 柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師。


 整体に関しては独自方式だ。

 爺ちゃんは整体の腕が良かったから、一から全部教わった。

 更に俺独自の考えを盛り込み、痛みの無い整体を作った。


 爺ちゃんが亡くなった時、整体院と御得意様を継いだが、かなり整理した。


 店を閉めて出張専門とした。

 俺の整体は1回2時間近く掛かる。

 これを1万円として、受け継いだ御得意様の中から金払いの良い人だけを相手にした。


 顧客は少しずつ紹介で広がっていった。

 別に紹介制にしたつもりはない。

 出張専門で宣伝もしなかったら、何となくそうなってしまった。


 気付いたら金と時間に余裕のある顧客ばかりになった。

 そんな有閑人達の依頼で太極拳教室を開く事になった。

 月謝は5千円。まぁ相場通りである。

 どういう訳か俺の御得意様が全員入会した。

 酒を飲むのが目的なんていう会員も少なくないようだが。


 整体は日に2~3人を診て、週休二日と、有休代わりの適当な休み。

 施術代の他に車代として、結構な金額を包んでくれる御得意様も多い。

 それと太極拳教室の生徒がおよそ40人。

 これらを全部ひっくるめると、50代の平均年収と同じ位の収入になっている。


 上司も部下も残業も無い分、会社員よりずっと気楽なのは間違い無いだろう。

 こう言っちゃナンだが体調に対する責任は無いし。

 病気なら医者に行けって話だ。

 それだけに気に入ってもらえなきゃ次は呼ばれない。

 責任が無い代わり不安定である。


 一日の間にやってる事は、

 予約客を相手に出張して整体の施術。

 施術中のお喋り。

 お喋りのネタを仕込む為に、ニュースをチェックし、流行の本を読む。

 中国拳法の練習。

 太極拳教室と、打ち上げの飲み会。

 時々休んで旅行など。

 会社員よりも水商売に近いかも知れない。


 ・‥…━…‥・


「これが俺の正体って訳だ。どうだい?幻滅したかい?」


「いや、面白いっす。そういう生き方もあるんすねぇ」


「好きな事をしてる時間が長いからな、自由と言えば自由かも知れないな。でもやっぱり、なかなか思い通りにはいかねぇよ」


「そんなもんすか」


「そんなもんだ。だから思い通りにいかない状況を楽しむ気持ちが大事になる。そもそも、思い通りの人生なんて恐ろしく詰まんねぇだろう」


「思い通りの人生が詰まんねぇっすか?」


「ああ。思い通りって事は、結末が予想通りって事でもある。予想を覆されるから面白いんだよ。但しその予想に懸かっているのが人生ともなれば、覆された時の為の準備はキッチリ整えておかないとな。何をどう準備しとけば良いかの判断は知識と経験が物を言う。経験が足りなきゃ想像力を駆使するしかねぇが、まぁ、年寄りに勝つのは並大抵じゃねぇな」


 なるほどと呟いて、竜太君は黙ってしまった。


 そのまま黙って歩く。

 声は掛けない方が良いだろう。

 と、思ったんだが、俺はそれを見つけてしまった。


「例えばほら、こういうのが予想を覆された人生って奴だ」


 俺の視線の先には、木に登って降りられなくなって困ってにゃあにゃあ鳴いている子猫がいた。


「ははぁ、なるほど。って大変じゃないっすか!助けないと」


「すぐ助けてやりたいのは山々なんだが、今回は予想外の事態に備える準備が大切だ。周りを見ろ」


 そうなのだ。


 この辺りは道のすぐそばが崖になってる場所。下が固い大岩だから崩れる危険は少ないのだが、オーバーハングになっていて、落ちたら引っ掛かる物が何も無い。およそ15m下には固い地面だ。


 ちなみに15mの高さから飛び降りた場合の死亡率は50%らしい。

 生き残っても五体満足とは限らないのがおっかない所だな。


 困った事に、子猫が登ってしまったのは崖の上まで張り出した枝だ。しかもあまり太くない。人間が登ったら折れてしまうかも知れない。折れたら崖下まで一直線だ。


「一旦戻って、ロープを持ってきて命綱にするか」


 その時、イヤなモノを見つけた。竜太君も気付いたようだ。


「あ!あそこで(からす)が狙ってるっす!」


 烏って子猫を食べるんだよなぁ。頭を啄むんだよ。

 これも野生の掟だと言うのは容易いが、さすがに寝覚めが悪い。

 子猫を助けてやろう。


「竜太君は道場に戻ってロープを持ってきてくれ。俺は烏を牽制する」


「はい!」


 そう言って駆け出した竜太君。うむ、素直になったな。などと感慨に耽っている場合じゃない。


 小石を投げてみた。ちょっと避けるが、またすぐ寄ってくる。


 何度か繰り返すと、小石は当たらないと高を括ったようだ。

 そのうち避けなくなった。

 まずいな。


 からすは無駄に頭が良いんだよ。本当に当てちまうと後が大変だ。

 危害を加えた相手はいつまでも覚えてて、見つかる度にガァガァ鳴かれて騒がれる。襲われるなんて話もあった。


 仕方が無い。


 俺は意を決して、木に登り始めた。

 烏は離れて高見の見物を決め込んでやがる。

 俺が落ちたら死肉を漁るつもりか?

 ふん。

 俺は死なねぇよ!


 これ以上は危険なギリギリの所で、子猫に向かって手を伸ばす。


「ちっちっち、ちっちっち」


 子猫はこっちを向いた。

 しかし躊躇している。


「ちっちっち、ちっちっち」


 諦めずに誘い続ける。

 ようやく少し動き出した。


「ちっちっち、ちっちっち」


 怖々と一歩を踏み出して、そして、

 パーッと俺の上を走って降りて逃げてった!


 背中に肉球の感触を残し、俺から逃げた子猫ちゃん。

 そりゃないぜセニョリータ。


 ふう。

 でも助かって良かった。

 納得いかないけど。


 と、ホッとした瞬間。


 バキッ

 枝が折れた!


「うわあああああ!」


 くっ!

 咄嗟に猫捻りで足を真下に向ける!


 五点着地でどこまでイケる?

 全身打撲よりは足に衝撃を集めた方が良いか?

 足で受けると内蔵をやっちまうか?


 俺は生き残る為に、

 体のどこをどのくらい壊すのか、

 必死に考えを巡らせた。

長々と失礼しました。次話からようやく異世界が舞台になります。

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