キオクソウシツ?3
私が知っている人なら…
さくらさんはそう言った。
「だって私、琴音ちゃんの交友関係全部把握してる訳じゃないもの。」
そう言って微笑む、さくらさんは本当に可愛かった。
「あの…」
さくらさんに訊きたい事があったけれど
「琴音さん」
白い服の女の人が食事を運んできた。
多分看護師なのだろう。
そう思った。
「な…んで」
さくらさんが、複雑な表情をした。
「それはこちらの台詞よ。貴女こそ何をしているの」
看護師さんは、私の前にテーブルをセッティングすると
その上に、食事を並べた。
「流石に、目が覚めたばかりだから、重いものは食べられないかと思ったから、お粥にしてもらったの。」
看護師さんは私に微笑む。
「私は、莉緒。琴音さんと、以前から知り合いだったの。だから、ここに運ばれてきて、吃驚したのよ。」
「私は…」
なんでこんな怪我をして…此処に居るんだろう。
背中が痛い。
「骨は折れていないみたいだから、直ぐ退院出来ると思うわ。記憶の方も一時的なものだから、直ぐにでも戻るって先生が言っていたから。」
「どのくらい…目を覚まさなかったんですか?」
そう訊いたら
「ええと…」
「2日位よ」
何故か、さくらさんが答えた。
「そ…そう2日…」
莉緒さんの様子がおかしい。
「さ、冷めない内に食べて」
そう言われ、動かない体に力を入れる。
背中に何とも言えないような痛みが走る。
「あ、ベッドの方を動かすわね」
そう言って電動リクライニングを起動した。
上半身が起き上がった。
自力じゃなくても相当痛みが走ったけれど
食べないと治りが遅くなるからと思い
スプーンを手に取る。
そして、手も怪我をしていることに気が付いた。
「琴音ちゃん、無理しなくてもいいのよ」
さくらさんは、そう言ったけれど
「きちんと食べないと、怪我も治らないから、一口だけでも食べたほうがいいわよ。」
莉緒さんはそう言って、落としかけたスプーンを握らせた。
「食べられないのなら、無理させる必要は無いんじゃないかしら」
さくらさんがそう言うけれど
「此処は病院よ?部外者の貴女が口を出すのは正しくはないと思うんだけど?」
莉緒さんは、そう言って譲らなかった。
「あの…食べるので…出て行ってもらえますか」
私は、そう口にした。
「あ、見られていると食べ辛いわね。ほら、貴女は帰ったら?」
莉緒さんは、さくらさんの背中を押す。
「え?ちょっと、私はまだ話したい事が…」
「病人に無理をさせる気?」
「…分かったわよ。琴音ちゃん、またね」
さくらさんは振り向く事なく
莉緒さんに押されるがまま、部屋から出て行った。
残されたのは、まだ湯気の立つお粥と私。
そっと口に運ぶ。
味は解らない。
咀嚼するよりも、ただ飲み込んだ。
「う…」
完全にお米の粒が残っている訳では無いけれど
飲み込むには、少し辛かった。
2日間何も口にして居なかったからなのか、それとも咀嚼しないまま飲み込んだからなのか
吐き気が込み上げる。
吐き出さないように、戻って来そうな物を飲み込む。
そして、呼吸を整える。
三十分ほどかけて、茶碗の中身を全部飲み込んだ。