キオクソウシツ?
白い壁、白い床、白いカーテン、白い天井、白い布団…
全て白いものに囲まれている場所で私は目覚めた。
此処は何処なのか、私は誰なのか、何歳で職業は何なのか…
何も覚えていなかった。
起き上がろうとして、気が付いた。
背中を激痛が走る。
腕に管が付いている。
管を目で追うと、その先は、液体が入った袋に繋がっていた。
点滴か…
自分の事は何も思い出せないのに、点滴は解った。
目を開けたまま、ぼんやりとしていると
ドアを叩く音がした。
返事をする前に、ドアが開く音がする。
そして、カーテンが開く。
可愛らしい女の子と目が合った。
彼女は動きを止めた。
真ん丸な目をして、私を見ていた。
「なるー?どうしたの?」
別の誰かが入ってきたようだ。
“なる”と呼ばれた人が、私から目を逸らし
「りか、看護師さんとお医者さん呼んで」
そう叫んだ。
カーテンの外側の人は、困惑しているようだ。
「なる??」
「早く!」
「わ…分かった」
部屋から離れるような音がした。
それから間もなくして
白い衣装を身に纏った男の人と女の人が入ってきた。
何か質問をされたけれど殆どの質問に答えられなかった。
そして、白い服の人達が部屋から出ていったと同時に
高校生くらいの男女が5人入ってきた。
ブラウンのジャケット、青いリボン、白いブラウス、ジャケットよりは薄いブラウンでチェックのプリーツスカートを身に纏っている女の子が3人
上下黒の所謂“学ラン”を着ている男の子が1人
黒いジャケット、グリーンのネクタイ、白いシャツ、黒いズボンを着ている男の子が1人
「目…覚めたんだね」
ベリーショートヘアの女の子が
目に涙を浮かべて、私を見てそう言った。
私は頷く事が出来なかった。
誰か判らない人に、気を許すわけにはいかない。
「…出て行って下さい」
声を振り絞るように出して
それだけを行った。
皆驚いたような表情をしたけれど
「ごめんね。目が覚めたばかりなのに…疲れさせたね」
“なる”と言う子がそう言うと、5人とも部屋から出て行った。
謝らせるような事を言ってしまったのだと思うと、とても心苦しいけど、私はそんな事を考えていられる程
余裕が無かった。
自分の事も判らないのに、あんなに沢山の人と何か話さないのだと思ったら急に苦しくなった。
…それから数十分経過した頃だった。
ノックも無しに、誰かが入ってくる。
「聞いたわよ…記憶喪失ですって…。でもまあ、一時的な物だから」
40代くらいだろうか…
パリッとした黒いスーツ姿の女性が、カーテンを開けて、そう言ってきた。
「全く、本当貴女って…」
甲高い声が耳障りだ。
何なんだろうこの人、勝手にズケズケ入って来て。
「すみません、起きたばかりで混乱しているので…帰ってもらえませんか…」
そう言うと、キッと睨みつけられた。
「そうね。今日の所は帰ってあげるわ。」
そう言って、ドタバタと部屋から出て行った。
何だったんだろ…。
あの人の顔を見たら、とても憂鬱な気持ちが沸いてきた。
似合いもしない真っ赤な口紅のせいか、キンキンとした声のせいか…
それとも本能的なものか判らないけど、あの人の事を、怖いと同時に嫌だと感じた。
関わらないほうが良いのだと感じた。