異世界で通訳することになった。
俺は城の大広間にいた。
さっきまでたしか俺は、リビングで昨日バイト終わりに買った、テレビゲームのソフトをやろうと、アイスを咥えながら、リモコンを触ろうとしていたはずだ。
「はて」
と言っている状態ではないが、落ち着くために一言呟き、周りを見渡した。
まず自分は魔法陣のようなものの上にいることがわかる。光っていてさっきまで眩しかったということを今思い出した。さっきまで眩しさも頭に入らなかったぐらいだったのかと少し苦笑いをした。
周りには騎士のような人達が、50人・・・だろうか?
格好はよくある中世ヨーロッパの騎士っぽい感じだ。鎖帷子ではないし、関節も良く曲がりそうだ。技術的に鎧はルネサンスと同じか、より後ぐらいの代物か?
その騎士達より前に、自分に一番近い場所にいる、他の人より豪華な赤い装飾を施した金の鎧を着た、年齢は若そうで好青年っぽい男が自分に近づき、自分に跪いた。
自信に満ち溢れて少し日焼けをした彼に、その格好がとても様になっていると思いながら、彼が次に何をするのかを俺はじっと見ていた。
「突然私どもの世界にお招きしてしまい申し訳ございません。
私どもの世界で貴方様にして頂きたいことがございます。」
なるほど。やはりドッキリでなければ異世界転移___というやつか?もしや超人とかを呼んだつもりだったのだろうか?
それはまずい。自分はただの大学生だ。
こういうのはホウレンソウ。バイトの店長にもよく言われた。早めに言っておくことだ。
「あー・・・私は武道は何もしておりません・・・勉学もそこまで・・・」
すると彼は少し驚いた後、すぐににかっと笑ってこう言った。
「いえ、貴方にして頂きたいことはただ一つです。」
「えーと・・・何でしょうか・・・」
難しいことでなければいいが・・・もしや異世界から前衛の数合わせで呼ばれたとか!?
「通訳です」
「つうやく!?」
一番槍でもされるのかと思っていたから驚いた。
「ええっと、他の国の言語がわからないんですか?ここは俺の世界と違う世界・・・ですよね?俺なんて違う世界なんだからさらに分からないんじゃ・・・」
「いえ、私どもはどうあがいても他の国の言語が理解できないのです。」
「ええ、この頃国交し始めたとかですか?」
「・・・私どもがまず何と戦っているかを、まず申し上げます。」
もしや他国との戦争の仲介役にしようとしているのか?
確かに、どうあがいても中立の立場のようなもんだしなあ、色々面倒くさそうだ。
「『カミ』です」
「ん?」
「私どもは『カミ』によって他国と言葉が通じなくなりました。・・・理解が出来ないのです。貴方はこの世界の存在では無いので、『カミ』の支配下では無い・・・ですので、今この世界の全ての言葉が通じるはずです」
「神がいるんですか?」
「・・・あいつらは自らのことを『カミ』と言っています。」
・・・異世界ということもまだ半信半疑なのに、神?
そう思った時、低く、威厳のある声が大広間に響いた。
「ロッソ、空を見せよう」
大勢の騎士がざっと速く道を開けた。
ゆったりと歩き、豪華な服を着た、威厳のある老人が、こちらに近づいてきた。
おそらく王様なのだろうなと思った。
「父上、ですが・・・!」
「・・・見せた方が早いだろう。」
王様っぽい人を父上と言ったから、彼は王子様・・・なのだろうか?
こちらへ、と案内されながら、階段を登った。
「申し訳ございません。昔ならばテレポートでしたが・・・魔力は温存しておりまして・・・」
と、彼は息切れせずに、へとへとになっている俺に、申し訳なさそうに口を開いた。
・・・よっぽどまずいんじゃないのか?中枢がこの有様って・・・
「ご覧ください。あちらです。」
騎士が扉を開けると、風が内部に入り込んできた。
異世界でも空の色は同じなんだな。雲も普通だ。
あえて違うところを言うとすれば、
神々しい光を纏った巨大な魔法陣が、
一つ空に浮かんでいるぐらいだった。