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屋台のお面屋さん

屋台のお面屋さん

作者: ウォーカー

 これは、神社のお祭にやってきた、ある男子中学生の話。


 その男子中学生は、クラスメイトたちと一緒に、神社のお祭に来ていた。

「やっぱりお祭りは楽しいな。次はどの屋台にしようかな。」

その男子中学生は、手に持ったたこ焼きを頬張りながら、

屋台の食べ物を見ていた。

その男子中学生が、ふらふらと屋台を眺めている間に、

一緒にお祭りに来ていたクラスメイトたちは、先に進んでいく。

「何やってんだ、早く来いよー!」

「相変わらずのろまだなぁ。」

少し離れたところから、クラスメイトたちが大声で呼んでいる。

「うるさいなぁ。後から追いつくから、放っておいてくれよ!」

その男子中学生は、クラスメイトたちにからかわれたことに腹を立てて、

ひとりで別行動をすることにした。


 その男子中学生は、クラスメイトたちの集団から外れて、

ひとりでお祭を楽しんでいた。

「屋台の焼きそばもたこ焼きも美味しいなぁ。

 なんだ、お祭りはひとりで来ても楽しいじゃないか。」

たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、果ては金魚すくいまで。

その男子中学生は、ひとりでお祭りを満喫していた。

そうして、そろそろクラスメイトたちと合流しようかという頃。

お祭りの端にある、一軒の屋台にたどり着いた。


 その屋台は、お面屋だった。

屋台には、背の高い真っ黒な壁が立ててあって、

その黒い壁一面にお面が並べて飾ってあった。

「いらっしゃい、いらっしゃい。

 本物と見分けがつかないくらい精巧なお面だよ・・。

 気に入ったら試着もしていっていいよ・・。」

真っ黒な法被を着た男が、黒いお面屋の前で呼び込みをしている。

黒い法被の男の言う通り、屋台に飾られているお面はとても精巧で、

犬や猫、狐や狸など、本物の動物の剥製のような精巧さだった。

「確かに良く出来てるけど、動物のお面なんて被ってもなぁ。

 人間の顔のお面でもあればおもしろいのに。」

その男子中学生は、動物のお面を見てつまらなそうに言った。

すると、それを聞いたのか、黒い法被の男が近寄って来た。

「お客さん、人間に化けたいのかい・・?」

「人間に化ける?そんなこと出来るの。」

「・・出来るよ。こっちに来てご覧。」

黒い法被を着た男が、屋台の裏面にまわって手招きをしている。

その男子中学生は、招かれるままに黒いお面屋の屋台の裏面にまわった。


 その黒いお面屋の屋台の裏面には、

表面と同じ様に、黒い壁にいくつかのお面が飾られていた。

しかし、飾られているお面は、表面にあるものとは全く違うものだった。

そこに飾られているお面は、人の顔のお面だった。

そのお面は、今にも瞬きしそうなほど精巧で、

まるで本物の人間の顔を飾ってあるように見えた。

「気持ち悪いな。・・・あれ?あのお面って。」

有名人などの顔のお面が並ぶ中で、その男子中学生は、

見覚えのある顔のお面が並んでいるのに気がついた。

それは、別行動をしているクラスメイトたちの顔のお面だった。

「あれっ?このお面って、僕のクラスメイトたちの顔じゃないか。

 どうしてクラスメイトたちの顔のお面がこの屋台に?」

その男子中学生が、クラスメイトの顔のお面を指差して言うと、

黒い法被の男が、黒い壁からそのお面を外してみせた。

「このお面は、さっき型を取ったばかりの出来たてだよ。

 よかったら、試着してみな・・。」

その男子中学生の顔に、クラスメイトの顔のお面が被せられる。

お面はまるで吸い付くようにぴったりと顔に被さった。

お面越しに向けられた鏡を見ると、顔にくっついたお面は、

本物の人間の顔そのもので、お面を被っているようには見えなかった。

その男子中学生が今被ったお面は、

顔にホクロがある、嫌いないじめっ子の顔のお面だった。

いじめっ子の顔そのものになった自分の姿を見て、

その男子中学生は、ちょっとした悪知恵が働いた。

いじめっ子の顔のお面を被ったまま、黒い法被の男に尋ねる。

「これ、試着したまま出かけてもいい?」

「・・ああ、構わないよ。でも最後には必ずお面を返しに来てくれよ・・。」

そうしてその男子中学生は、

クラスメイトのいじめっ子の顔のお面を被って、お祭りの中に戻っていった。


 精巧な人の顔のお面なんて被っていれば、嫌でも目立ちそうなものだが、

いじめっ子の顔のお面を被ったままでお祭りの人の前に出ても、

誰もその男子中学生を不審な目で見ることはなかった。

「すごいな、お面を被っているだなんて、誰も気がついていないみたいだ。」

その男子中学生は今、顔にホクロがあるいじめっ子の顔のお面を被っている。

「このお面を被ったまま、ちょっといたずらしてみよう。

 上手くいけば、あのいじめっ子に罪をなすりつけられるかも。」

その男子中学生は、たこ焼きの屋台に行くと、

屋台でたこ焼きを焼いている男に、顔がよく見えるようにして話しかけた。

「おじさん、僕の顔のホクロ、ちゃんと見えてる?」

突然話しかけられた屋台の男は、キョトンとして応える。

「ああ、ホクロがあるように見えるぞ。」

その男子中学生は、屋台の男の反応に満足すると、

いじめっ子の顔のお面を被ったまま、

屋台からたこ焼きをひとつ取って、つまみ食いした。

「たこ焼きひとつ、いただき!」

「あっ、こら!どろぼう!」

「もう食べちゃったもんね!」

「顔は覚えたぞ!学校や親に連絡するからな。」

その男子中学生は内心どきどきしながら、たこ焼きの屋台から逃げていった。


 そうしてその男子中学生は、

いじめっ子の顔のお面を被ったまま、お祭りでひとしきりいたずらを繰り返した。

それからお面屋に戻ると、いたずらっ子の顔のお面をお面屋に返した。

黒い法被の男は、返されたお面を受け取って話す。

「もうこのお面は良いのかい?他の顔のお面もあるよ・・。」

「お面の試着はもういいや。さよなら。」

そう言ってその男子中学生は、

クラスメイトたちと合流するために、お祭りの中に戻っていった。


 その男子中学生が、黒いお面屋からお祭りに戻っていってからしばらく。

お面屋の黒い法被の男は、

その男子中学生から返されたお面を、まだ手に持っていた。

そして、その男子中学生が試着していたお面を裏返すと、

お面の裏面にその男子中学生の顔の形がきれいに残っていた。

それを見て黒い法被の男は、満足そうに頷く。

「今回も良い型が取れそうだ。これでまた新しいお面が作れるね・・」

黒い法被の男はそうつぶやくと、新しいお面を作り始めた。


 その男子中学生は、黒いお面屋にお面を返した後、

何食わぬ顔でクラスメイトたちに合流していた。

「お前、戻ってくるのずいぶん遅かったけど、何してたんだ?」

「う、うん。ちょっとね。」

まさかいじめっ子本人に、

いじめっ子のお面を被っていたずらしていたとは言えず、

その男子中学生はあいまいな返事をした。

「夜も遅くなってきたし、そろそろ解散しましょう。」

クラス委員長の女子中学生の号令で、

その男子中学生とクラスメイトたちは解散することにした。

その男子中学生は、それからまっすぐ家に帰ると、

いたずらが上手くいった嬉しさで大喜びしたのだった。


 しかし、お祭りの次の日。

その男子中学生がお祭りでいたずらしていたことは、学校に通報されていた。

「どうしていたずらがバレたんだ?

 ちゃんといたずらっ子の顔のお面を被っていたのに。」

その男子中学生が首を傾げながら、呼び出しを受けて職員室に行くと、

そこには、なんとあのいじめっ子も同じく職員室に呼び出されていた。

ふたりは顔を合わせると、あっ!と声を上げて頭を寄せ合った。

「お前、まさかあのお面屋のお面を被っていたずらを?」

「ということは君も?」

「ふたりとも、考えてることは同じだったってことか。」

その男子中学生といじめっ子は、

お互いに相手の顔のお面を被って相手になりすまして、

いたずらし合っていたのだった。

お互いに濡れ衣を着せ合ったその男子中学生といじめっ子は、

頭をがっくりと下げると、ふたり揃って学校の先生のお説教を受けるのだった。



終わり。


 お祭りの時期ももう終わりなので、お祭りの話を書いておきたくて作りました。

複数の結末を考えていて、その中で一番オーソドックスなものを形にしました。

他の結末も機会があれば書いてみたいと思います。


お読み頂きありがとうございました。


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