ショートコメディ『上田くん』
上田くんは常に上にいる。テストの成績は常にトップだし、走るのだって誰にも負けない。常に高みを目指しているようなエリートなのだ。
そんな彼だって、上がいる筈だ。だってよく言うじゃないか。『上には上がいる』って。まあ、頂点には、下しかいないのだが。
つまるところ、私は、彼が『頂点』に立つ人間なのかを知りたいのだ。本当に一番上が存在するのか。どんなものにも、上と下が存在するならば、彼はどこまで上なのだろう。
そんな彼は帰宅部だ。どんな部にも所属していない。なぜだ。部活に所属しないで、その部の『頂点』に君臨できるのだろうか。信じられない。
ぜひとも彼に伺いたい。上には上がいるのか。そう思って、今にも下校しようと学生鞄を肩にかけた彼に、声をかけようとした。内気で、気が最弱な私が『頂点』に声をかけるだなんて、おこがましい……。うじうじしてしまう……。
「上田ぁ!! 今日もいい小春日和だな!!」
呼び捨てにした。
「ふっ、この僕に気軽に話しかけてくるのは、貴方ぐらいなものですよ。〇〇さん、この世界の頂点に君臨する上田になにが御用ですか?」
「自分で頂点て言っちゃった!!」
このメガネが。死ねな!
「いやー、上田くんのそのキャラヤバイな! 自尊心が強固そう!!」
「〇〇さん。大丈夫ですか? 心の声が丸聞こえですよ?」
メガネの縁をくいっとするな。このメガネが。いや、メガネは好きだけど。こいつは死ね。
「〇〇さん?」
「なに? 今、なんか言った?」
「し、死ねってい、言いましたけど」
誇大妄想な上田くんの声は震えていた。なんだ、その程度かよ上田くん。てめーは、全人類の頂点に君臨するエリートじゃなかったのかよ。拍子抜けだな。
「なにが拍子抜けなんですか?」
「……」
私って、もしかして、いつも心の声が丸聞こえなの? それって、めちゃくちゃイタい奴なんじゃ……。内向的なはずの私のアイデンティティが、どんどん崩れていく気がしてならない。
それって日常的に、暴言吐きまくってるってことじゃん! 内向的ではないクズとか救いようがないな!
「もしかして、聞こえちゃった?」
「さっきからずっと、です」
「……」
なんか、すごく悪いことしてしまった感じがする。誇大妄想が、自信をなくすなよ。私が、メガネ死ねって言ったくらいじゃないか。メガネ消えろって思ったくらいじゃないか。お前は、下を見て、愉悦に浸っていればいいんだよ。
「〇〇さん。僕のことを、そんな風に思っていたんですね。死ねだとか、メガネだとか、誇大妄想だとか」
「……」
私のしょうもない小言に構うな。お前は、全ての人類の頂点に君臨するエリートだろ。お前は、上だけを見てればいいんだ。……そういえば、上には上がいるのか訊きそびれた。頂点であれば、下しかいないが。
ていうか、さっきから私、上田くんのことを誇大妄想って言っちゃってるけどね!!