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エピローグ





 ――――この世界は不思議な事に、平和だ。



 言った事が実現する力。それはとても神秘的で、同時に恐ろしくもある。制限があるとはいえ、もしとてつもない力を有言実行できる者がいて、その人物が理性を失ったとしたら、世界はあっという間に破滅……は言い過ぎにしろ、均衡を失うのは想像に難くない。


 犯罪だってやり放題。法律でどれだけ縛ろうと、証拠隠滅もお手の物。やり方次第ではあるが、無敵と言っても過言じゃない。


 何より、強力な言霊を使える人間は思考力に長けているという説がある。俺はこれに関しては疑わしいと思っているけど、思考力がある程度は関連しているのは確か。だとしたら、ハイレベルな言霊を使える人間は高確率で悪知恵が働く。一般人は勿論、権力者にとってもこの上ない脅威だ。



 でも、それがこの世界の常識である以上、歴史の積み重ねによって脅威は隠れていくのが常。元いた世界でいう核兵器などがそれに該当する。ボタン一つで世界を滅ぼせる兵器を複数の国が所持していても、一般人は毎日を平和に過ごしている。複数の国が持っているからこそ――――って考え方も当然可能だが、それは日本に住んでいた俺にとっては受け入れ難い理屈だろう。



 そして、この世界に留まって幾ばくかの時が流れた事で、俺にも色々と考える時間が出来た。少しずつではあるが、この異世界は確かに言霊を上手に制御出来ている。少なくとも、特定の人物が言霊を使って秩序を崩壊させているような事実はない。過去には魔女狩りのような事も行われていたらしいし、圧政や支配、偏見や差別も全くない訳じゃないが、一般人レベルで生活を営む上で、言霊の存在は殊更邪魔にはなっていない。水晶の流通をコントロールしてる事、言霊の使用を制限している事、言霊使用者のデータを管理している事……要素を挙げればキリがないが、この世界の人々は様々な苦労と犠牲を重ね、共存の道を作り上げたに違いない。



 例えば、街の外を闊歩しているという異形の存在。俺は脳内で『ゲルニカ』と名付けた。特に根拠はなく、俺の中で異形のイメージがあの絵画だったってだけの話……だと思っていたけど、どうも俺自身、無意識下で違う解釈をしていたらしい。


 ゲルニカは言うまでもなくピカソの代表作の一つだけど、あれは反戦と抵抗の象徴として、戦争の悲痛さを伝える為に制作されたと言われている。


 つまり――――この世界の異形の存在とやらも、もしかしたら反戦を目的として『作られた存在』だったんじゃないだろうか?


 共存を最も円滑に進める方法は、共通の敵を作る事だ。すなわち『人類の敵』。誰かが言霊でそれを生み出し、心を一つにして打倒に当たるというマッチポンプ。かなりありがちな話だ。


 どうもこの世界の住人は、異形の存在に対する意識が低い。恐らく大して脅威にはなっていないんだろう。だとすれば、世界平和の為のツールとして異形の存在が生み出され、人間の制御下にあるとしても、全く不思議じゃない。



 ……なーんて事を日々考えるくらいには、今の俺の生活は退屈極まりない


 何しろ、この世界の文化レベルは余り高くはない。ネットは勿論テレビもないから、いつ何処で事件が起こったなんて知りようがない。せいぜい近所の夫婦喧嘩や子供のスリ行為が聞こえてくる程度。殺人事件なんて一切起こらないどころか、事件性のある出来事さえ全く耳に届いてこない。



 国王殺しの罪を被った俺は、マヤのテレポートによって国外へと脱出し、エルリロッドの国王から貰った謝礼金を使って悠々自適な田舎生活を送っていた。アジュリームという名前の島国らしい。出来るだけ日本に近い国を希望した結果、ここが新たな生活の舞台になった。

 

 この世界に留まる動機となったポメラとは、別れの日に再会の約束をして以降、一度も会っていない。もう半年になるか。


 幸い、マヤが定期的にやって来て彼女達の近況を話してくれるから、出国後の状況はほぼ全部把握している。



 ヴァンズ国王は俺の要求通り、元国王を殺した犯人は俺で、その死因を毒死だとあらためて国民に向かって発表した。伝説の職業である探偵の俺は元国王の知人だが、身元は一切不明。俺と歓談した日の夜に元国王が倒れ、飲み物に毒が混入されていたため、俺が犯人だと断定した――――という内容だった。


 その後、バイオが『それだけで犯人と決め付けるのは早計。そもそも知り合いとはいえ客人と国王を二人きりにした近衛兵の危機感のなさが原因』と反論を出し、俺をフォロー。ジェネシスは表向きは国家に楯突く組織だから、単なる逆張りという見方が大半だが、イケメンであるバイオには一部熱狂的な支持層がいる為、俺を擁護する声もそれなりにあがったらしい。


 王族の名誉を傷付けず、一部の批難も王族じゃなく兵士に向けられ、ヴァンズ国王の疑いの目は一切なくなり、そしてエミーラ王太后に関しては疑惑すら向けられない。その狙い通りに事は収まった。



 開祖を失ったエロイカ教はその後、ヴァンズ国王によって完膚無きまでに叩き潰されたそうだ。売春宿に務めていたふくよかな女性達には、全員漏れなくダイエット指令が下されたらしい。元国王の性癖の痕跡を跡形もなく消し去りたいんだろう。


 俺達によって捕らえられたエウデンボイは、監獄での日々を過ごしている。彼は特にムチムチ好きではなかった筈だけど、貧相な食事ばかりの毎日がそうさせたのか、今は肉感のある女性ばかりを求めているとか。人間が環境次第でどうにでも化ける典型例だ。



 表向きは街の支配者、その裏ではジェネシスと組んで俺の情報をヴァンズ国王に流していたレゾンはその後、手下どもの制止を振り切って旅に出たらしい。彼女なりに、俺に対する負い目みたいなのがあったのかもしれない。俺だけ国を出なきゃいけなくなったのが我慢出来なかったんだろう。単に一人になりたかっただけかもしれないが……



 ポメラも先日、街を出たという。当初の目標だったエロイカ教討伐は果たされ、父親も無事解放されたらしいが、今度は実家に帰っていた母親がイケメンばかりで構成されたホストス教にハマってしまった新事実が発覚。人生を考え直したいと、両親を置いて武者修行の冒険に出かけたという。


 一応、俺がこの世界に残ったのは彼女がきっかけだったんだけどな……まあ、今生の別れって事もないだろう。マヤに頼めばヒューマン・テレポートでいつでも会えるし。


 

 リノさんは――――元いた世界に戻った。


 俺が国外に脱出した翌日、リノさんも自分の身体に戻ると決めた。ワルプさんの快諾のもとで。


 俺が罪を被った以上、リノさんがこの世界から出て行く必要はなかったんだが……彼女としてはもうこの世界に留まる理由も、未練もなかったんだろう。


 結局、リノさんが本来の姿になったところは一度も見る事はなかった(宿で見たのはワルプさんだったし)。



 つまり、一緒に事件を調査した三人全員がもう城下町にはいない。ある意味、自然な事かもしれない。国王にとって、そしてエルリロッド国にとって、真相を知る人間は一人でも少ない方が良いだろう。



 こうして目を瞑れば、今でも思い出せる。あの三人と過ごした日々を――――



 ……そうでもなかった。


 よくよく考えたら、一緒に行動したのは数日だしな。みんなで一緒に成し遂げたって感じもしないし。印象深いのは最後のエウデンボイとの戦いくらいか。


 なんか不思議な関係だな。友達と呼ぶには浅い関係だし、仲間というほど共通の目的に向かっていた実感もない。勿論、仕事仲間でもない。同志というほど志を同じくした記憶もない。


 行きずりの関係、ってとこか。これが一番しっくり来る。



 一応、唯一今も関係が続いているマヤは――――


「ちーっす! 来てやったよー。さあ早く酒出して! この家で一番高い酒出して!」


 ……タカりと化していた。


 まあ、定期的に情報を貰ってる身だから、酒を奢るくらいは仕方がない。どうせ家では殆ど飲まないしな。ほぼ客人用……というよりマヤ専用だ。いや、決して近所付き合いがないとか孤立してるとかじゃないんだが。


「ホント、いつ来ても一人だよねー。探偵君って友達作るの下手そうだし、一生このままかもね」


「だから違うっつってるだろ! 俺は某国を追われてる身だから親しい友人とか作れないんだよ!」


 ちなみに、マヤは自分の事は一切語らない。安売りはしない質らしい。


 彼女が何者なのかは未だによくわかっていない。容姿はかなり似てるし、多分バイオの妹なのは確かだと思うけど、それでは説明が付かない事が一つある。


 エウデンボイとの最終決戦で、俺が元いた世界の水筒と同じ性質になる言霊を使用した際、マヤはいち早くそれに気付いた。


 つまり――――俺やリノさんが元いた世界の水筒について知っていた事になる。そうじゃないと、俺の説明なしで気付ける筈がない。


 でも、バイオの妹だったら異世界人って事もないだろう。だとしたら、俺の元いた世界の知識をかなり広く知っていたと考える以外にない。水筒だけピンポイントで知ってるなんてあり得ないからな。


 そこから導き出される答えは……


「でも、そんなだと助手も雇えないんじゃないの? そもそも事件自体なさそうな場所だけどさ」


「そうなんだよ。この前久々に声が掛かったと思ったら、朝食のパンを弟に取られたとか、そんな微笑ましい……」


 助手?


 今確かに彼女はそう言った。


 ここアジュリームの公用語は、流石に半年も生活しているから日常会話が出来る程度は覚えた。でもマヤ以外には使う機会のないエルリロッド国の公用語に関しては、未だに翻訳言霊を使っている。


 だから、今の助手って言葉も、俺の脳内で自動翻訳されたものではある。でも――――例え助手って言葉を使っていなくても、恐らくパートナー的な言葉を用いた筈。探偵にパートナーがいるのが当たり前って知識を、どうしてマヤが持っている?


 水筒の知識は、まだ日常的な範疇に入る。もしかしたらリノさんとの会話の中で得たかもしれない。


 でも『探偵は助手が付きもの』なんて知識は、日常会話ではまず得られない。そして、俺がこの世界に来てから、リノさんとマヤがそんな会話をしていた記憶は全くない。俺のいないところで話していたとしても、それが出来たのはせいぜい俺が城で捕まっていた時くらい。あの切羽詰まった状況で、特に何の関連もない助手についての話が出るとは思えない。


 とはいえ、勿論可能性がゼロだと断定出来るほどの根拠じゃない。もし単にリノさんから聞いていたってだけなら、特に引っかかる事でもないけど……


「そんなんじゃダメだよ。この世界の探偵は、伝説でなくちゃいけないんだから」


 ……どうも、そんな感じがしない。


 俺を助けに牢獄に跳んできた時もそうだった。明らかにマヤは、俺という存在――――じゃなく、探偵という存在を特別視している。


「君は何者なんだ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」 


「前にも言ったでしょ? わたしは自分を安売りしないの。だから教えない」


 ぐ……なんて匂わせ女。俺の世界にいたら確実に同性から嫌われるタイプだ。


 そういえば、牢獄で俺に『自分が俺を国王に売った』って作り話をした時もそうだ。彼女はあの時『わたしがさっきした作り話、忘れないでね』と言っていた。でも未だにその真意は全くわからない。


 あの作り話に何か重大な意味があったようには到底思えない。


 だとしたら……

 

「どうしても知りたいなら、推理すれば? 容疑者4869人の中から真犯人を見つけた名探偵なんだからさ」


「……お前」


「あっふぁっふぁー」


 容疑者4869人の話は、俺とヴァンズ国王、そしてあの場にいた兵士しか知らない筈。そこまで綿密な情報収集を、俺に対して行っていたっていうのか?


 そして、わざとらし過ぎる妙な笑い方。あの場面、あの時の会話を俺に印象付ける為としか思えないそれを、今ここで敢えてやる意味は――――


「……あの話は本当だったのか?」


 俺は当時、ヴァンズ国王とエウデンボイが親密な関係だと思っていた。だからエロイカ教共々俺を潰すつもりだというマヤの話は嘘だと断定した。


 でも今はその前提が崩れている。ヴァンズ国王は、父親に尽力していた義理でエウデンボイとエロイカ教を見逃していただけだった。


 いや……ヴァンズ国王が心変わりした原因はエミーラ王太后だった筈。彼女が俺をこの世界から追い出す為、俺を犯人に仕立て上げる案を授けたと言っていたんだから。


 待て。


 そのエミーラ王太后が相談したのは……バイオだ。


 でも、バイオはイケメンと人間味ある人柄以外に取り柄のないポンコツ。そんな彼を支えているのが――――


「わかった?」


「な……なんて回りくどいやり方だ……」


 俺を追い詰めたのは、結局こいつだったのかよ!


「わたしはちゃーんとヒントをあげたんだから、文句は言いっこなしだよ。それに、最終的には探偵君も自分でそう決断したんだから、まーいいじゃない」


 この女……性格悪いのは知ってたけど、ここまでとは……


「探偵君は最良の選択をした。おかげでエルリロッド国は混乱なく次の国王を迎え入れる事が出来た。万々歳でしょ?」


「納得いかない……」


 掌の上で転がされた気分だ。


 なんて女だよ……まるで底が見えない。


「よく頑張ってくれたけど、まだまだ伝説の探偵には程遠いみたいだね。そこで一つ提案。探偵君、この世界に『探偵ギルド』を作る気はない?」


「……何それ。探偵事務所と何が違うんだ?」


「まあ、ほぼ同じなんだろうけどね。こっちの世界だと、ギルドの方が住民がピンと来るんだよ。事務所だったら依頼人は来ないと思うよ」


「随分と、俺のいた世界の探偵事情に詳しいな」


 せめて一太刀――――


「まーね」


 それすら許してくれない、無邪気な笑顔。この女が何者なのか、そろそろ本腰入れて推理する必要がありそうだ。


 冒険者ギルドってのは、確か冒険者が仕事を得る場所だった。なら探偵ギルドは探偵が事件を得る場所なんだろう。余り派手に目立ちすぎると、エルリロッドの国民に俺の生存がバレちまうから、あくまで地味に。俺以外の探偵を育成する必要もあるだろう。


 正直、目的もないままダラダラ生きるのには飽きてきた頃合いだ。この世界で本格的に第二の人生を歩み出すには、悪くない提案かもしれない。


 そもそも、リノさんがいない今、元の世界に戻るには彼女と同じ召喚の言霊を使える人間を探す必要があるし。


「でも、ギルドを作るにしても金が要るだろう。生憎俺は日々の生活で精一杯なんだが」


「あ、ちょーっと待っててね」


 テレポートで瞬時に消えた。慣れたとはいえ、急に人が消えるのはやっぱ不気味だ。


「お待たせー」


 かと思ったら、一分と経たずに戻って来た。家のヘソクリでも持って来たのか?


「あれ……? ここは一体……? 私……もしかして天国に……? 不相応な報酬を貰ったバチが当たった……?」


「な、なんなんだよマヤ! オレは今、ちょうど古代人の隠し財宝を見つけたばっかで……」


 ……マヤの真後ろから、妙に聞き覚えのある声が二つ。


 どこからどう見てもポメラとレゾンだ。


「そういう訳で、顔見知りのスポンサーを二人連れて来ました」


 どうやら、仲間未満の関係性にはまだ続きがあったらしい。


「って、おいおい! よく見りゃトイいるじゃねーか!」


「え……! トイさんも天国に……!?」


 いや死んでない。仮に死んだら間違いなく天国逝きだろうが。



 そういえば、異世界が大好きな子供達が言ってたな。


 異世界では大体三~四人の仲間を得て、そこで色んな事件に遭遇するのがセオリーだって。


 だとしたら、この再会は運命なのかもしれないな。



 そして、その運命を俺に押しつけたのが……


「突然だけど、貴女達が旅や冒険で稼いだお金で探偵ギルドを作ろうと思うんだけど、どう?」


「「へ?」」


 ポメラとレゾンは同時に向き合い、同時に顔を引きつらせる。


 これは……


「悪いようにはしない。俺と新しい仕事場を」


 取り敢えず乗っておいた方が良さそうだ。一から金を貯めるとなると相当時間かかりそうだし。初期費用は出世払いって事で納得して貰おう。


「いや、何がなんだか全然わからねーんだけど……探偵ギルド? それって何するギルドなんだ?」


「その……仕事場との事ですけど、探偵ギルドを作ってお金は得られるのでしょうか……?」


 まあ、当然の疑問だ。勢いで頷いてくれるかもと期待したけど、流石にそこまでアホじゃないらしい。


「仕事はそれ自体が報酬だと思わない? 自分の特別な能力を発揮する場を得る喜びに勝る報酬はないでしょ?」


 流石にそれは苦しいだろ、マヤ……


「んー……まあ良いか。トイには迷惑かけたまんまだったし」


「私には身に余る報酬でしたので、お世話になったトイさんにご恩返しが出来るのなら……」


 え……いいの? っていうか、二人揃ってそんなチョロくて大丈夫か? ちょっと別の意味で心配になってきたぞ。


「それじゃ善は急げ、ってね。早速色々と手配して来る!」


 余りにも強引に、マヤは全てを決めてしまった。


 この女には、物事を凄まじい勢いで推し進める力がある。それは――――もしかしたら探偵に一番必要な力かもしれない。現実の探偵じゃなく、名探偵と呼ばれる為に必要な力。


 すなわち、物語の中の探偵達。


「……リノがね。探偵君の事をよろしくって」


「え?」


「ま、そういう事。だから、わたしがしっかり導いてあげるね。伝説の探偵になれるように」


 いや、俺は別にそんな大それたものを目指すつもりは……って、もう行きやがった。



 でも、リノさんがそんな事を言ってたのか。だとしたら嬉しい。


 恐らくもう二度と会う事もないだろう。それだけに感慨深い。


 リノさんと接していた時間の多くは、彼女を絶対的に信じるという言霊によって支配されていた。言霊の効果が切れた後も、その時の影響が残っていたような気がする。


 一度は普通の状態で向き合ってみたかった。まあ……老婆の姿じゃなく女の子の姿だと、若干好感度は下がりそうだけど。


「……なんかよくわかんねーんだけど、探偵ギルドって要するにトイをサポートすりゃいいのか?」


 久々の再会だったけど、レゾンは何ひとつ変わってない。ほぼ二つ返事で了承した事から察するに、彼氏もいないんだろう。


「ああ。いずれは俺以外にも探偵になって貰う人材を募る事になるけど、最初は俺が解決する事件を見つけて、調査をサポートするって組織になる。場合によっては護衛も必要だな」


「それなら私に任せて下さい……! この半年で色んな言霊が使えるようになりました……!」


 冒険の途中で、使える言霊が増えたのか。


 だとしたら……思考力だけじゃなく、例えば好奇心なんかも言霊に影響してそうだな。この件もいずれ解明するとしよう。


「でも……探偵さんってどういうお仕事をするんですか……? 人が殺された時、その犯人を捜すとか……?」


「そうだな。でもそれだけじゃない。例えばいなくなった身内の捜索とか、浮気調査とか、そういう依頼も請け負うんだ」


 それが現実の探偵の仕事。異世界だろうと、俺の探偵感は変わらない。自分で思っておいて、探偵感って何だよって感じだが。


「だったら……!」


「ああ。オレも多分ポメラと同じだ。最初の依頼はオレ達が出すぜ。初期費用を満額で出すんだから、それが報酬代わりでいいだろ?」


 こいつら、前から妙に意思の疎通が出来てるよな。前に決闘したからか?


「それは勿論構わない。依頼内容を聞こう」


 快諾した俺に対し、ポメラとレゾンは目も合わせず言葉を揃えた。


「リノさんに会わせて下さい……!」

「リノをもう一回ここに連れて来てくれ!」


 ……厳密には揃ってはいないけど、内容は同じだ。


 それにしても意外だ。どうやらこいつらは思った以上に友情を育んでいたらしい。俺が蚊帳の外だっただけか。


 まあ、断る理由はない。初陣としては難題だけど、それくらいの方が気合いも入る。


「あくまで、リノさんの今の生活を邪魔しない。一方通行じゃなく、向こうの世界にちゃんと戻れる事を前提とした依頼なら、受けよう」


 当然、と言わんばかりに、二人は同時に気持ち良いほど強く頷いた。


 


 前の世界では、異世界について色んな事を子供達から教わった。


 もし機会があれば、今度は俺が彼等に教えよう。



 異世界は――――



 君達のいる世界と何も変わらない。


 人と人との繋がりが、未来や希望を作っていく、そういう世界だ。



 そして。





 密室殺人の容疑者がやたら多い。







『異世界の密室殺人は容疑者が4869人いる』



 Fin.





ご一読ありがとうございました。

拙いお話ではありますが、ほんの少しの間でも記憶に留めて頂ければ幸いです。

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