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83 Exactly

「事件の真相はわかったけど、探偵君はこれからどうするの? 今のままだと、探偵君が犯人になる意外に落とし所はなさそうじゃない?」


 一通り説明を終えた事で、先程までの独演会モードの雰囲気は消え、マヤが普段通りの空気感で話し出す。


 確かに彼女の言う通りだ。既にヴァンズ国王は国民に向けて俺が犯人だと宣言している。それを直ぐに撤回すれば、彼の嫌う『王族の汚名』に繋がるだろう。


「まあ、わたしとしてはリノが犯人じゃなかった時点で別に何でも良いけどね。探偵君が無実の罪でこの世界からトバされようと」


「笑顔で嫌な事言うなよ……で、実際のところはどうなんですか? 国王陛下」


 ここから先は、真相究明の後始末。事件の着地点を何処にするかを決める修羅場だ。俺にとっては、ここからが本番と言ってもいい。自分の身の安全を守るって意味でも。


「……バイオの妹の言う通りだ。余はもう後には退けぬ。貴公に全ての罪を被せ、元の世界に戻って貰う。リノを元の姿に戻せば、彼女は貴公の世界に転移するのだろう? そこでもう一度、リノに言霊で転移して貰う。そうすれば貴公は入れ替わりで元の世界に戻れる筈だ」


「随分と身勝手な話ですね」


「謝礼は弾む。確かにこの世界で貴公は謂われのない大罪を背負う事になるが、元の世界に戻ればノーダメージであろう。悪い取引とは思わぬが」


「生憎、暫くこの世界に留まると決めていましてね。予定変更する気はないんですよ」


 ……まさか一国の王を相手にバチバチやり合う事になるとは。勿論、権力を行使されたら手も足も出ない。既に大義名分も握られている。つまり――――


「仕切り直しは許されない。この場で決着を付けなければ、貴方に勝ち目はありませんね。探偵の青年」


 その通り。


 そしてようやくしゃしゃり出て来たか……エウデンボイ。


 彼の言うように、一旦仕切り直せばヴァンズ国王は最高権力と武力をもって俺を籠絡しようとする。でもそれらは、今この場には存在しない。ここで彼を納得させる落とし所を見つけなければならない。


 でも、それだけじゃダメだ。


 仮にここで『俺を犯人扱いしない』という口約束をしたとしても、それが守られる保証はない。彼は真面目で極力嘘をつかない人間だけど、それはあくまで性格の範疇。国王として必要ならば、嘘も裏切りも平気で操るだろう。


 よって俺は、単に一件落着とするだけじゃなく、ヴァンズ国王が俺に手出し出来ない弱味を握るか、彼の判断を縛る材料を何か一つ発掘しなくちゃならない。


 もしヴァンズ国王とエウデンボイが完全に一枚岩だったらアウトだった。恐らく何も弱味は握れなかっただろう。


 でも幸い、この二人は明らかに連携がとれていない。そこに活路を見出すしかない。


「……なあ。一つ良いか?」


 熟考モードに入ろうとした刹那、挙手したのは――――レゾンだった。


「国王殺害の罪、オレに被せる……っていうのはどうだ?」


 ……何?


 おいおい、何寝ぼけた事を……


「オレは国王に憧れてた。それは結構な数の奴らが気付いてると思う。だから、国王がその……良くない事業に手を出してたのを知って、イメージと違ったからカッとなって殺した、って事に出来るんじゃねーかな……って思ってさ」


「何言ってるんですか……!? レゾンさんがどうして罪を被らなくちゃいけないんですか……!?」


「おっと、勘違いすんなよ。処刑される気はねーよ。オレは元々偽名だし、親もいねーし守る物も何もねー。そこのテレポート使いから国外に連れ出して貰って、名前を変えて第二の人生を始めれば、何も問題ねーだろ? それでたんまり謝礼が貰えるのなら、結構美味しい話だって思っただけだよ」


 反射的に大声をあげたポメラに対するレゾンの回答は、一応理解の出来る内容ではあった。


 彼女はこの城下町にもレゾンという名前にも何の未練もないんだろう。謝礼の金額がどの程度かにもよるけど、もし一生遊んで暮らせるくらいの額なら、別の国で新しい人生を歩むのも悪くない。


 俺はポメラと約束しているから、国外追放されるつもりはない。一財産と引き替えにやっていない罪を被るつもりもない。でもそれは俺の価値観。レゾンとは違う。


「オレがトイの名前を使って、国王殺害の後も城の調査隊をかき回してた、って事にすれば、アンタの名誉もそこまで傷付かないだろ。どうだ?」


「ふむ……」


 ヴァンズ国王は迷っているみたいだ。


 レゾン犯人説を採用する場合、彼はレゾンに騙された頼りない新国王として、国民から不安視される存在になるだろう。


 でも王家の名に傷は付かない。挽回のチャンスもある。決して痛手にはならない。


 首を縦に振る可能性も十分にある提案だけど――――


「騙されてはいけませんよ、陛下」


 邪魔が入るのもまた、十分に想定された。


「ここに陛下をお呼びしたのは、他でもありません。実は我々が先代より預かっていた貴重な資金が先日盗まれましてね。どうもその犯人が、この一味のようなのです」


 エウデンボイ。


 やはり立ち塞がるか。


「……どういう事だ?」


「四、五日ほど前でしたか。そこのレゾンと隣の少女、あと……陛下の召使いのリノ。その三名が私の前に突然現れましてね。そこでは何でもない雑談をしただけですが、結構時間を取られまして。その後に帰宅したところ、大事に保管していた資金が何者かに盗まれていたのですよ。状況的に、彼女達が協力して盗んだのは明白です」


「本当なのか?」


 ヴァンズ国王の鋭い目がリノさんに向けられる。彼女の立場上、嘘の報告は出来ないだろう。


 だが――――


「本当だよ。わたしが頼んで足止めさせて、その隙にわたしが盗んだんだ」


 答えたのはリノさんじゃなくマヤだった。


「貴公には聞いていない。余はリノに問うておる」


「わたしだって、国王様に嘘はつけないよ。兄と組織がお世話になってる身なんだから」


 マヤ……どういうつもりだ?


 勿論、彼女の立場からして俺達の仲間って訳じゃない。既に俺は真相を語ったから、もう彼女への借りは返している。今はお互いフラットな間柄だ。つまり……俺達を売っても何の不思議もない。


 でも、このマヤの証言は自分自身も追い詰めている。というか、自ら主犯を名乗り出ている。


 恐らく何か考えがあっての事だろう。この女が考えなしに、リノさんを庇う為だけに発言するとは思えない。ただ……その考えがまだ読めない。


「何故、盗もうと思った? いや――――そもそも何故知っていた?」


「プール金の事ですか? そりゃ、調べてたからに決まってますよ。だって先代の国王様が残した"恥"じゃないですか。万が一、その事が国民にバレたら大変ですよ?」


「だから、私から盗んだというのかな? それは余りに荒唐無稽と言わざるを得ない。そもそも盗まれた金は、私と懇意にしていた先代が好意で残してくれた物。無論、先代のポケットマネーだ。それが何故、王家の恥になるのか理解に苦しむよ」


 ……ま、そう来るだろうな。


 そして当然、マヤが証拠を突きつける流れになる。エウデンボイの部屋に侵入した際に見つけた記帳と元国王直筆の手紙。筆跡を鑑定すれば、問答無用の証拠になる。 


 ただし、それらが盗まれているのはエウデンボイも承知している。だとしたら、それらを証拠にされるのも当然予想の範疇だ。


「生憎、こっちはもう証拠を掴んでるんだよねー。エロイカ教の実態が売春宿なのも、その運営をあんたがやってるのも。そして、元々の言い出しっぺが先代国王なのもね」


 マヤは当然、そう答える。ヴァンズ国王は――――特に目立った反応はない。まあ彼が知らなかったとは思えないしな。


 先代を継承して、ヴァンズ国王も売春宿の経営に関わっている……って事はないだろう。親から性癖を譲り受けてでもいない限り、全くメリットがない。



『マジかよ。美人でもか? すっげーエロい身体の超絶美形の女でもか?』



 ……国王と女に関する話をした事があったけど、彼はごくノーマルな性癖だと思われる。少なくともムチムチ体型を特別視している様子はない。


 なら、ヴァンズ国王にとってエロイカ教とエウデンボイは厄介者以外の何者でもない。先代の恥を彼らが握っているようなものだ。バラされれば必然的に王家の名に傷が付く。


 とはいえ、エウデンボイも王族相手にケンカを売る真似はしないだろう。そうなると、秘密を共有する代わりに売春宿経営は黙認する……それが落とし所になってくる。


 情報漏洩、流出は絶対に許されない。


「はて……証拠とは一体何なのでしょうな。実物を目の前に出して貰えないと、所詮は机上の空論。ただの虚言という可能性がある。ですよね、陛下」


「……うむ」


 証拠は握り潰される。例えマヤが今ここで出したとしても。


 マヤも気付いている筈だ。あの証拠は、少なくともこの場では使えない。仮に筆跡の鑑定を既に行っていたとしても、息子である国王が『違う』と言えば、それが真実になる。


 どうするつもりだ、マヤ……


「わたしの手元には今、売春宿の記帳と先代国王直筆の手紙があるんだけど? 勿論、手紙には『自分が作った売春宿をちゃんと運営するように』って先代の筆跡で書いてる。これ以上の証拠はなくない?」


 正攻法で来たか!


 となると、逆に何か考えがありそうだ。


「ならば、良い機会だ。ここに御子息たるヴァンズ陛下がおられる。無論、御父上の筆跡は誰より把握なされているのだから、これ以上適切な鑑定人はいないだろう。陛下、よろしいですかな?」


「無論だ。父の筆跡など見れば直ぐわかる」


 この展開は当然予想出来た筈だ。国王が素直に筆跡を認めない事も。


 さあ、見せて貰おうかマヤ。奥の手を――――


「国王様の手を患わせるまでもないよ。もっと確実な方法があるから。ね、トイ」


「……」



 は?



 俺……ですか……?



 もしかして丸投げですかーーーーーーーーッ!?



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