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「共犯者……って、国王に会いに行く気?」


 俺の発案は、マヤにとって相当意外だったらしい。でも恐らくそれは、頭に全くない事だったからじゃない。


「そこまでの覚悟が俺にあるなんて思わなかったかい?」


 マヤは聡明な女性だ。リノさん犯人説の真偽を確かめるには、現国王から話を聞くしかないとわかっている筈。答え合わせが出来るのは当事者の一人である彼しかいないんだから。


 勿論、自分が父親殺しに関わっているとは口が裂けても言わないだろう。だから真実を話して貰うには、言霊を使って嘘を封じる必要がある。その上、城の警備をかいくぐって国王に会いにいかなければならない。


 マヤはテレポートが使えるけど、ここから城内へは直接行けない。城の傍まで行き、城内に侵入したのち再度テレポートを使用する必要がある。門番の隙を突くか、変装して入るか……いずれにせよ、リスクはある。


 そして今、俺は王城から逃亡している身。万が一捕まれば極刑は免れない。


 マヤ一人で国王の元へ行くのは、そう難しくはない。ただ嘘を封じるのはかなり難しい。まず触れるのが容易じゃないし、国王に気付かれないよう言霊で嘘を封じるのも相当知恵を絞る必要がある。


 何しろ、マヤが単身乗り込んだ時点で怪しさMAX。最大級の警戒心を持たれるのは必至で、そんな中で相手をコントロールする類いの言霊を使うのは不可能に近い。


 だから、マヤは仕方なく国王じゃなく俺の所へ来た。進展は望めないとわかっていても、居ても立ってもいられず。


「正直、ないと思ってたよ。昨日、リノに『証拠はない』って言ってたしね。証拠とか裏付けとか、そういうのはもう眼中にないと思ってた」


「実際、リノさんは自供してるからな。俺の話した仮説と、リノさんの自供が一致している以上、物的証拠は必要ない。俺は彼女から依頼されて再調査をしたんだから」


 現国王の時と同じだ。依頼人が納得する真相を提供すれば、その真相が真実か否かは不問。推理ってのは納品物であって、芸術やテストの回答とは違う。美しさも正解も必要ない。


「だったら、どうして……」


「俺はリノさんを信用していない」


 ハッキリと言い切る。とっくにリノさんの言霊が効果を失っている証だ。


 一体いつまで、俺はリノさんを義務的に信じていて、いつからその必要がなくなったのか――――それは定かじゃない。ただ少なくとも彼女の本来の姿を見た辺りまでは、俺はリノさんを無条件で信じていただろう。あの明らかに怪しい状況で、それでもリノさんが犯人じゃないと思えたのは、そういう事だ。


「マヤ、意見を聞かせてくれ。どうして現国王は、リノさんが入れ替わったままの状態なのを黙認していると思う?」


 この点は正直不可解だ。


 リノさんは、元国王の魔の手から逃れる為に、マヤの力を借りてワルプさんと入れ替わった。そこまではいい。


 でもその後、リノさんと現国王が結託して元国王を殺害したとすれば、現国王にとってリノさんが入れ替わったままの状態なのは決して心穏やかじゃない筈だ。


 万が一、リノさんが良心の呵責に苛まれ『やっぱり真実を国民に話す』と思い立ったとしたら、老婆と少女のどちらを口封じするかで迷う事になる。どちらが本物のリノさんか、わからないからだ。しれっと元に戻っている可能性もある。


 あくまで『リノさんと現国王が共犯』という仮説を真実とした場合、現国王が絶対に避けなければならないのは――――真相の漏洩。ならリノさんは真っ先に口封じされてもおかしくない立場だ。


 そして、ワルプさんも同様。どっちがリノさんかわからないのなら、どっちも始末してしまばいい……って発想に行き着くだろう。父を殺すようなゲスな人間なら。


 でも実際には、現国王はリノさんもワルプさんも生かしたままにしている。この情けは一体なんだ? 殺せない弱味でも握られているのか、それとも――――


「国王が共犯者じゃないから、だよ。だからリノの身体が入れ替わっていても、国王には別に関係ない」


「俺もそう思う」


 つまり、共犯説は説得力に欠ける。そうなってくると、今度はどうして現国王が俺に罪をなすり付ける路線に急遽変更したのか、それがわからなくなる。


 だから彼に話を聞きに行くのが手っ取り早い。本当の事を言わせる言霊を使えれば、尚更。


 でもマヤも俺も警戒されるのは間違いないだろうから、そんな言霊を使うのは無理だろう。


 なら、やるべき事は簡単だ。


「だから彼に会いに行く。ただし、彼が城の外にいる時。それも単独で動いている時だ。出来れば脅迫が可能なくらいの戦力で」


「国王を脅迫する気?」


 ドン引きされてしまったか。


 でも、日本には存在しなかった『国王』ってのは、俺にとってはいつまで経っても現実感のない存在で、そこまで敬う気にもなれない。ましてこっちは裏切られた身。敬意を表するつもりもない。

 

「……面白い。面白いよそれ! 気に入ったからそのプランで行こうよ!」


 引いてるんじゃなかったのかよ!


 こいつも大概、感性がおかしな事になってるな……さっきまでの大人しい態度がすっかり吹き飛んだ。


「でも現実問題、国王が一人で外出なんて考え難くない? 外出自体はするにしてもさ」


「心配するな。その点については考えがある」


「へえ。楽しみだね。今度はどんな愉快なアイディアを聞かせてくれるんだろう」


 どうやら、マヤは俺がリノさん犯人説を本気で提唱している訳じゃないと睨んだらしい。明らかにさっきまでとは気分が違っている。


 彼女自身、リノさんを信じていたけど、どう考えてもリノさんが怪しくて、苦しい状態が続いていたんだろう。なら大丈夫だ。


「昨日、エロイカ教から盗んだ金を俺に寄越せ」


「……え。何それ。なんで? 嫌だよ」


 今度は完全にドン引きしていた。なんて金好きな絶世の美女。内面と容姿のギャップがエグい。


「エウデンボイが、その金を盗られた事に気付いているかどうかはわからないけど、いずれにしても定期的な確認くらいはするだろうから、いずれは気付く。その時、彼は犯人を誰だと断定すると思う?」


「それは……資金の件は誰にも話してないだろうし、だったら怪しむのは『前の国王がバラしてるかもしれない相手』かな。その資金の存在に辿り着ける可能性があるのは」


 お見事。その通りだ。


「でも、一人だけ率先して話しているかもしれない人物がいる」


「今の国王だね」


 そう。現国王に対してだけは、『元国王から資金援助を受けていた』と自らバラすメリットがある。父親も協力していた事業なんだから、息子も引き続き手を貸して欲しい、っていう脅迫を行えるからだ。


 ここでさっきの話に繋がってくる。


「既に現国王には資金の存在を教えていた可能性がある。もしそうなら、当然疑う事になるだろう」


「わたしみたいにお金が欲しいからじゃなくて、王族が風俗店の経営に関わっていた証拠を隠滅する為……そう考えたら辻褄が合うね」


「ああ。だから、エウデンボイは今、現国王と会いたがっている筈。仮にまだ盗難に気付いていないとしても、いずれはそうなる。だから、こうすれば良い」


 一筋の光が見えた――――ような気がした。


「あの金を入れていた袋をエウデンボイに送りつけて、『金は預かっている』とだけ記した手紙を添える。こうすれば、エウデンボイは現国王に連絡する筈だ。会いたいと」


「袋……そっか、それなら仮に盗られたの気付いてなくてもそこで気付くよね。『ヴァンズより』って入れないのはリアリティ重視?」


「ああ。自ら証拠品を残すほど間抜けじゃないだろうからな、あの国王」


 名前を記す必要などなく、エウデンボイは国王の仕業だと思うだろう。マヤが資金の件を調査していると勘付いていない限り。


 仮に勘付いていたら、マヤかジェネシスに連絡を取ってくるのは必至。まあその時はスルーすれば良い。現国王とエウデンボイの関係が悪ければ『ジェネシスを使って金の在処を調べさせていた』と勝手に解釈するだろうし、逆に蜜月なら『対策を練る為に国王に報告しないと』ってなるだろう。どっちにしても現国王とコンタクトを取る方向で動く筈だ。


 方針は定まった。


 後は、どういうメンバーで国王と対峙するかだ。犯人を自称しているリノさんは流石に連れていけない。


 でも――――


「そこで聞いてる二人。ちょっと手伝って欲しい」


「……気配が読めるの?」


「いや。でもいるでしょ」


 仮に扉の前で立ち聞きしてなかったら、この上なくダサい発言だけど……


「マジかよ……なんでわかったんだ?」


「トイさんって超能力者なんでしょうか……!」


 まあ、いるよな。いない訳がない。あれだけリノさんを気にかけていたポメラとレゾンが、俺とマヤの会話を気にならない訳がないんだ。


「話はちゃんと聞いてたな? これからエウデンボイと国王を罠に掛けて、国王を誘い出す。その時に俺の護衛を頼みたい」


「了解! だよな、あんな結末じゃオレは納得しねーよ!」


「わかりました……! 私、トイさんとリノさんを信じます……!」 


『脅迫が可能なくらいの戦力』は、多少心許ないけどこれでクリアだ。


 後は――――


「探偵さん。リノの自供を覆す為ならわたしも協力するよ。でも……」


「でも、何?」


「お金はやらなくて良くない? 使うの袋だけなら袋だけで良くない?」


 ……マヤくらい、国王もみんなも正直になってくれるのを願おう。



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