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39 諸般の事情によりサービスシーンはカットされました

 俺がリノさんを信じる理由は、探偵にあるまじき内容だ。論理的とはとても言い難い。


 それでも俺は、この理由を支持する。そして余程の事がない限り意見を変える事もないだろう。柔軟性がない探偵に価値なんてないけど、それはあくまで元いた世界の話。この世界の探偵には関係ない。


 この世界で伝説の職業などと呼ばれている探偵は――――



「覚えてるかい。初めて俺と会った時の事」


「……覚えてる。水晶を運ぶよう仰せつかって、陛下の部屋に行って、そこで……」


「俺は助手として貴女を指名した。そして、貴女は当初断った」



『好みの顔と違うんで、チェンジでお願いできますかの』



 彼女は確かにそう言った。


 単なる冗談だったのかもしれない。本当にそうだったのかもしれない。でも確かにそう言った。俺の誘いを断った。


「貴女が真犯人なら、例え冗談でもこんな事は言わない。自分が捜査状況をある程度コントロール出来る立場になれるのに、わざわざそれを拒否する言動をして、その可能性を自ら小さくする必要なんて何処にもない」


 ……これはとてもロジックとは言えない。人間、誰だって大した理由もなく冗談を言う。メリットのない嘘をつく。そこに理由や妥当性を求めるのは非論理的だ。人間を知らないとさえ言えるだろう。人間だけが唯一、非論理的な事を平気でする生き物だ。


 彼女が真犯人だったとしても、それくらいの冗談は言う。その後、たった一言「冗談じゃ」と言えば、ほんのちょっとだけ怪しまれる可能性を増やすだけで済む。そして、そんな細かい事を怪しむのは、どうしようもなく捻くれてしまい人間を信じられなくなった、どうしようもない奴くらいなものだ。



 それでも俺は、彼女がそんな無駄に不利益を生む冗談は言わないと信じた。彼女の賢さを。清廉とした人格を。生き方を。


「だからリノさんは真犯人じゃない。故に貴女は俺達に被害が出るような行動には出ない。よって貴女のその変身は俺達に脅威となるものではない。従って――――」


 結論。


「この件は不問とする。以上」


 この世界で伝説の職業などと呼ばれている探偵は――――俺の知る限り、今のところ俺一人。


 だからこの世界の探偵はこれで良い。


 江戸川乱歩に鼻で笑われようと、コナン・ドイルに呆れられようと、これで良いんだ。


「……」


 反応に困っているリノさん(少女)に、こっちが戸惑う。割と恥ずかしい事を言ったつもりなんだけど、せめて何か――――


「面倒臭……あの時のあんな適当な一言、いちいちそんな深刻に捉える?」


 ……予想外のリアクションだ!


 明らかにさっきまでの表情と違う。純朴そうな少女だったのに、今は若干はすっぱな……何処にでもいる女子高生っぽい感じだ。


 だから言葉遣いもそれっぽい翻訳になってしまった。


「でも、不問ってんならあーしの事はこれ以上追及しないんだよね?」


「あ、ああ。そりゃ事情を話して貰えるならそれが一番だけど、そのつもりはないみたいだし」


「……うん。これはちょっと話せない。話しても良い事はないから」


 案の定、ってやつか。でも話せない事を話してくれただけでも上出来だ。これで、明日からも助手として、依頼人として彼女を見る事が出来るだろう。


「で、今後は常時その姿なの?」


「んーん。明日にはまたいつものお婆ちゃん。この姿は今だけ。本当、最悪のタイミングで駆けつけて来ちゃってさ。トイってばウザい」


 ……喋り方がすっかりギャル化している。俺の脳内で何故かそういう認定になったらしい。いや、確かに表情だけならそれっぽいけど。


「出来れば、こんな味気ない正体判明よりも、入浴中に婆さんだと思って話しかけたら今の姿の貴女だった……みたいな展開が望ましかったけどね」


 言われっぱなしも癪だし、ちょっと大人の男っぽい余裕も見せておきたい。


 尤も――――


「本当に?」


 ……っと。


 これは……見透かされてるな。


「あーしはトイから性欲を感じた事、一回もない。勿論、あの姿のあーしに欲情する訳ないけど、他の女の子やエロイカ教の教祖との会話の時も、女の子の話題の時に色気付いた事、全然なかった」


 やはり彼女は聡明だ。何より洞察力に優れている。探偵の助手としては申し分ない。もしかしたら俺の探偵職以上に適性があるのかも。


「もう枯れてるのとかと思ってた」


「中々酷い事を言うね……でも、あながち間違ってもいない」


 確かに、俺には性欲と呼べるものはもうないのかもしれない。実際、あったかどうかも怪しい。いや生物学的に男なんだからあるに決まってるんだけど、それを今までの人生で得た失望が上塗りしてしまっている。


 別に、誰かに話すだけの価値がある過去でもない。同情を誘えるような内容でもないし、ネタに出来るほど面白くもない。


「少し昔話をしよう。ここじゃない、別の世界の話だ」


 だからこれは――――俺自身に語る行為。俺という人間の再確認。


 申し訳ないけど、リノさんにはそのモチベーションになって貰おう。流石に一人で自分語りは無理がある。


「あーしは黙ってそれを聞いてなきゃいけないの?」


「……質問は適宜受け付けます」


 手厳しいけど、許可は下りたらしい。特に不満を訴える素振りはない。


 それじゃ、何処から話そうか――――



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