表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/90

34 元王妃の真実

 王の死に関わっている――――それは何気に不可解な物言いだ。


 レゾンがジェネシスに何らかの疑いを持っていて、それを根拠にジェネシスを疑っているのなら、『奴らが王を殺したかもしれない』となる筈。でも彼女の言い方だと、関わっている事は確信しているけど直接的に手を下した訳ではない……そんなふうに聞こえる。


「レゾン。ジェネシスについて詳しく教えて貰えないか。簡単にはリノさんから聞いてるけど、具体的にはどんな活動をしてる集団なんだ?」


 言霊のデータを独占している王家を敵視し、自分達こそが具現化実績を管理するに相応しいと訴えている連中。そうリノさんは言っていた。当然、国家の長たる国王にも敵意を抱いていただろう。


 けど、それが直接的な殺人の動機になるとは到底思えない。国王を殺したからといって、言霊のデータを得られる訳じゃない。新しい国王が就くだけだ。


 それに、テロ組織がそんなデカい事をやらかしたら、犯行声明を出し自分達を正当化する主張をする筈。それがないのなら、少なくとも政治的動機に基づく犯行じゃないだろう。


「連中の目的は『言霊の支配』だ。言霊を自分達だけが使える力にするのが最終目標だっつってたぜ」


 データだけじゃなく、言霊の使用自体を独占したい訳か。まあそういう勢力がいても不思議じゃないし、寧ろ普通だろう。限界も代償もあるとはいえ、言った事が具現化するなんて尋常じゃない力、独占したいと考える輩が出て来て当然だ。だからこそ、国家がかなり厳しめに管理しているんだろう。冒険者ギルドも、もしかしたら国営かそれに近い組織かもしれない。


「それよりも、先程の其方の発言は本当かえ?」


「あん? 何がだよババア……様」


「今はあーしの呼称はどうでもよいわ! 本当にジェネシスが陛下の命を奪った蛮行に関与したのかと聞いておる!」

 

 元国王を慕っていたリノさんが目の色を変えるのも必然だ。彼女が今も俺の傍にいる意義そのものなんだから。


「……ああ。間違いねぇよ」


「何故そう言い切れるのじゃ? 証拠はあるのかえ?」


「そうです……! 証拠がないのに人を疑うのは良くない事……! 私も確かな証言を得るまで父を信じていました……! 信じたかった……最後まで……!」


 何しに会話に割り込んで来たのかよくわからないポメラは兎も角、俺も輪に加わってレゾンに詰め寄りたい心境だ。


 酒の席か何かで本人達が関与を仄めかしたんだろうか。それなら、確証を得る為にレゾンがジェネシスと手を組んで内部事情を把握しやすくした、って解釈で辻褄は合う。


 でも、ちょっとしっくり来ない。中途半端過ぎる。


 本当に関与しているのなら、犯行声明として大々的に一般市民に向けて発表する方がテロ組織としての体面を保てるし、完全犯罪を目論むのなら絶対に漏らすべきじゃない。


 それでも、ジェネシスだけによる犯行なら、酒が入って気持ち良くなった幹部の一人がうっかり口走るくらいはあるかもしれない。でも『関わってる』って言葉を使っている以上、主犯は他にいるとレゾンは睨んでいる。なら中途半端な吐露は主犯への迷惑行為にしかならない。


「証拠……って聞かれたら、証拠と言えるほどじゃないかもしれねぇ。でも、オレ様にとっちゃ証拠も同然だ」


 酒場では一人称はオレになってたけど、日中は変わらずオレ様なんだな。ここでわざわざ支配者気取りしなくてもいいのに。


「王の妻……元王妃に愛人がいるのは知ってるだろ?」


「……それがどうかしたかの」


「その愛人が、ジェネシスの一員……というか司令官だ」



 ……はい?



「いやちょっと待て。それは流石にないだろ? 幾らなんでも……」


 テロリストの司令官と王太后が愛人関係……? そんなのあり得る訳がない。


 そりゃ勿論、身分を隠して近付こうとするくらいはあるだろう。王族に取り入れば、王家の情報は思うがままに得られる。そんな美味しい話はない。だからこそ王族は潔癖な人間関係が義務づけられる。万が一テロリストにつけ込まれたら国家存続の危機だ。


「オレ様だって信じられなかったよ。でも、この目で見ちまったモンは信じるしかねぇんだ」


「何を見たというのじゃ」


 リノさんは俺よりも驚いていないように見える。もしかして……そういう可能性もあると既に感じていたのか?


「まだ王が死んだって発表される前、ジェネシスの拠点に一度だけ王妃が来た。当然お忍びだけどな」


 ……マジかよ。この国ヤベーな。


 幾らなんでもそっくりさんや影武者って事はないだろう。国王ならまだしも王妃に影武者を用意するのは考え難いし、『王妃の愛人』を偽る理由も特にないだろう。


「その時のオレ様はジェネシスから接待を受けてたんだ。そこで王妃の姿を見て、当時はまあ……なんつーか、イラつきはしたけど夫婦関係が冷え切ってるだけって思えば逆にチャンス――――じゃねー! 今のは違うからな!」


「そういう色ボケネタはいいから早く続き話して」


「あ、ああ……その後、王が死んだって聞いて、あいつらが王の死に関わっているって直感したんだよ。だから後日、連中に協力するって話を持ちかけたんだ」


「真相を探る為に、じゃな」


「そうだよ。でも全然尻尾を出しやがらねぇ。手詰まりで気落ちしてたところに、お前達が現れたって訳だ」


 レゾンが王への愛情を他人に話していたとは考え難い。いや初対面の俺に話したくらいだから、酒の席で口にしていた可能性もない事はないけど……一応聞いてみるか。


「レゾン。元国王への気持ちを俺以外に話した事は?」


「な……バカお前……!」


 この反応だけでも、ないのはわかった。彼女にとっては他の二人にそれがバレるのは不本意だったらしいけど、いずれリノさんから嗅ぎ付けられるに決まってるし、信用を得る意味でもここでバラしてしまった方がいいだろう。


「……どういう事じゃ? 陛下への気持ち? 其方、まさか陛下を……」


「ち、違ぇーよ! バカ言ってんじゃねぇ! オレ様が王に憧れる訳ねぇだろ! ましてや男として見てたとか絶対ねーし!」


 なんという乙女……


 当然、リノさんにもバレバレだ。


「フン。そういう事じゃったか。其方、口は悪いが趣味は良いの」


「あん? ……まさかテメェ……お前も?」


「陛下はあーしにとって光じゃった。あの方ほど立派な人物はおらぬ。故に、あーしは陛下の無念を晴らしたいのじゃ。あの方が命を落とした本当の理由を知りたいのじゃ」


「マジかよ……お前随分年下趣味なんだな。いやでも、話がわかるじゃねーか。だよな、王は最高だよな!」


「当然じゃ。最高である事に何の疑いがあろうか」


「凄い……! 凄いです……! 歴史的和解……! 私、こんなにいがみ合っていた二人が仲良くする日がくるなんて夢にも思いませんでした……!」


 俺はこの流れ普通に予想してた。っていうかポメラはいちいち大げさ過ぎる。


 にしても、とんでもない事実……かどうかは慎重に判断するとして、驚きの情報が舞い込んできたな。


 レゾンの言葉を鵜呑みにするならば、王太后とジェネシスはズブズブの関係にあった訳だ。ジェネシスに王家と城内の情報がダダ漏れだった可能性さえある。


 そもそも、何故王太后はそんな人物を愛人にした? 司令官が身分を隠していたのか? でもそれなら拠点に招かないよな。バレるリスクを無駄に負うだけだし。


 ……いや、とっくに答えは出ている。理由は一つしか考えられない。


 国王暗殺計画。そして元王妃の視点で言えば夫殺害計画か。


 普通に考えたら、彼女が主犯となってジェネシスに協力を仰いだ――――としか思えない。


「ジェネシスの司令官の名前は?」


「なんつーか、色気があるんだよな。嫌らしい意味じゃなくて、気品の中にある男のカッコ良さっつーか」


「その通りじゃ。陛下は所作の全てがしなやかじゃった。それが品でもあり――――」


 こいつら……すっかり女子会モードだな。年配者とマッチョの女子会が悪いって訳じゃないが、今は控えて貰わないと困る。


「ポメラ。レゾンは酒が入ると素直で良い女になるんだ。一度見せてやりたいくらいだ」


「そうなんですか……! 私も見てみたい……! お酔いしたレゾンさんを見てみたいです……!」


「なっ!? 何話してくれてんだお前! フザけんなよ!」


 友達の言う事を無視するからだ。


「で、ジェネシスの司令官の名前は?」


「あん? バイオって言ってたぜ。まぁ本名じゃねぇだろうけどな」


 バイオか……なんとなく毒々しい名前に聞こえるのは何故だろう。


「そのバイオと会う事は出来ないか? 一回話を聞いてみたいんだけど」


「まぁ、オレ様の紹介なら面会くらいは出来るだろうよ。でもオレ様は反対だ。昨日言っただろ? 『消されるぞ』って。アレは……奴からって意味だ」


「そんなにヤバい奴なのか……?」


「肉体的な強さはオレ様の方が上だ。でも奴は言霊がヤベェ。狙った奴の近くに雷落としたり出来る」


 直接落雷させるのは殺人に等しいけど、近くならセーフって訳か。まあそれでも使い方次第では回避不可能な一撃必殺の技になり得るけど。


 にしても、雷なんて自然現象を意のままに操れるって凄まじいよな。もしかして思考力最高レベルなのか?


「お前がそんなに強くないのは見ればわかるからな。友達を危険な目に遭わせるのは本意じゃねぇ」


「あーしも其方だけで直接対面するのは反対じゃ。エロイカ教とは違って、ジェネシスは何度も非道な事件を起こしておる。そやつはまだしも、バイオ某は危険じゃ」


 強者二人の助言となると、無碍には出来ない。俺としても、こんな中途半端なところで死にたくはないしな。


 なら、別の方向で情報収集するしかないか。でもその前に、事件の事を整理しておこう。


 国王は他殺か自殺か……これは他殺の線が濃厚だ。だからこそこうして、延長で捜査してるんだし。


 だったら――――何故、毒殺だったのか?


 毒殺なのは間違いない。毒の発生源が水筒の中なのか、被害者の体内だったのかはわからないけど、毒の症状で死亡したのは確実だ。医者の見解を疑っても仕方がない。


 問題は、どうして毒殺の必要があったのか。刃物で刺したり首を絞めたりじゃ問題があったのか。


 俺はなんとなく、その答えを掴んでいた。


「レゾン。もう一つ聞きたいんだけど」


「なんだ?」


 恐らく、理由は――――ここにある。



「バイオって奴、テレポートは使える?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ