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03 有言実行が物理的に成り立つ世界

 階段を下ると、吊下げ灯に照らされた赤絨毯が延々と伸びている空間――――廊下に出た。廊下とはいっても国道並に幅が広い。流石は城。


 階段は更に下へと続いているが、イケメンだけどヒゲが濃いヴァンズ国王は廊下の方に出た。目的地は一階じゃないらしい。


「左だ。現場は直進して直ぐの所にある」


 親切にも、国王は何かと声をかけてくれる。もっと高圧的でもおかしくない身分なのに。


 年齢は俺より上だろうけど、それほど離れてはいないように見受けられる。恐らく30代だろうか。顔面高濃度の人間は年齢がイマイチ掴み辛い。薄い顔が持ち味の日本人としては羨ましいところもある。


 ……ん、前方に兵士らしき人発見。扉を挟んで2人で立っている。どうやらあの部屋が現場らしい。


「父の知人の商人だ。父に代わって私が相手をしていた。この部屋も見せてやりたい」


 兵士は無言で会釈し、扉の前からどけようと――――


「必要ない。《ここを通る》。トイ、余の手を握るがよい」


「へ……?」


 唐突に何? 父親の知り合いの証として兵士の前で友好の握手をしてみせるとか、そんな感じ?


「早くしろ」


「は、はい」


 取り敢えず、言われるがままに握手。


 そして――――次の瞬間、信じられない光景を見た。


 あの綺麗に整ったクドい顔が、壁にめり込んでいく……!


「貴公も来い」


 って、俺も……!?


 何がどうなってるんだ!?


「……っどわぁ!」


 一瞬壁に塞がれた視界が、今度はさっきと全く別の空間に変わる。また転移したのかと思った刹那、目の前には豪華絢爛としか言いようのない部屋が広がった。


 特に目を惹いたのは、複雑な模様と上品な色使いで刺繍された超巨大タペストリー。どうやらこの世界でも、この『なんか良くわからんけど生い茂った草みたくゴチャゴチャしててなんとなく綺麗な模様』は高級な雰囲気を醸し出していると見なされるらしい。


 その他にも、人間よりもデカい絵画が部屋の壁に等間隔で埋め込まれている。天井が高いから、何処ぞの美術館のような外観だ。



 ここは元国王の部屋で間違いなさそうだ。当然のようにウチの事務所よりも広いけど、別室に繋がる扉は見当たらない。トイレもなさそうだ。


 ……そういえば、この世界ではトイレはどうなってるんだろう。


 文化水準が不明だから垂直落下タイプなのか水洗なのかわからん。洋式なんて贅沢は言わないから、せめて水洗であって欲しい……


「その様子から察するに、"この力"は貴公の世界にはないようだな」


「この力……今の壁抜けの事ですよね。はい、少なくとも私は体験した事がありません」


 フラフープより少し小さいリングを壁に付けて、その中が素通り出来るようになる道具なら知ってるけど、それはあくまでもマンガやアニメの世界の産物。俺のいた世界にそんな物を作る技術はない。


 って事は、もしかしてこの異世界は地球よりも文化水準が上なのか?


 子供たちが言ってた異世界は基本的に前時代的な世界観で、しかも何故かヨーロッパ風で、車も家電もないのが一般的らしいけど……


「今のは『思考言語』という力だ。国どころか住む世界が違う余と貴公がこうして会話出来ているのも、思考言語によって余が自動通訳をしているからなのだよ」


 思考……言語? 思考を言語化しているのか?


 確かにそれなら日本語がこのコッテリとしたイケメンに通じている理屈もわからなくもないが……



 いや待て、それだと思っている事が全部筒抜けなんじゃないか!?


 それに、壁抜けとの因果関係も不明だ。思考を言語に出来るからといって、物理的な干渉を無効化する力にはならない。


「ちょうど良い。貴公に推理して貰おう。思考言語とはどのような力なのかを。探偵であれば、これだけの手がかりから正解を導き出せるのではないか?」


 えーと……現代の探偵って別に推理とか全然しないんだよね。素行調査もペット捜しも子供捜しも推理力一切必要ないし。


 誰だよ、昔この世界で伝説になった探偵。まさかシャーロック・ホームズが実在してて、別世界で無双したとか言い出すんじゃないだろな。



 まあ……その伝説化した探偵がいなかったら、俺がこうして異世界に招かれる事もなかった訳だし、そいつを恨むのはお門違いだ。それより依頼人の要求に答えよう。それがプロの探偵の責務だ。



 壁抜けと通訳に共通するものはなんだ? この二つに明確な類似点は……正直全然思いつかない。あえて言えば、どちらも使用者が意図的に自分にとって都合の良い状況を生み出しているってところか。


 仮に思考言語を『特定の事象を自分に都合の良いように変換する能力』とした場合、『壁のある状態』を『壁のない状態』に変換し、『俺の日本語』を『この国の言語』、『国王の言語』を『日本語』に変換したと解釈すれば一応の辻褄は合う。


 でもこれだと思考言語って名前と能力の内容が一致しない。



 思考言語か……思考言語、思考言語ね……んー、思考する言語、思考した言語、思考すべき言語……なんか違う。思考された言語、思考のような言語――――


 あれ、これじゃないか? 思考のような言語。なんかそれっぽいぞ。


 よし。口に出しながら考えを纏めてみよう。


「思考とは、考えや思いを巡らせ、現状や過去、未来のあらゆる事象を模索しながら課題を解決して行く精神活動です。それは無限に自由で、あらゆる発想を含みます。いわば推理の源泉です」


 人間が頭の中で描く景色は、例えそこになくても好き勝手に想像が出来る。それは空想とも言うし、幻想や虚像とも言う。


 それをそのまま言葉にすれば、きっと馬鹿にされてしまう。でも、一見突拍子もないように思える空想が一定の論理や根拠を持てば、それはアイディアと呼ばれるようになる。


 この二つを繋ぐのが思考だ。


 だとしたら、思考のような言語とは――――


「空想を具現化する言語。言葉にする事で、心の中で思った事を実現する能力」


「素晴らしい!」


 果たして今のが推理と呼べるのかどうかは甚だ疑問だが……どうやら俺は認められたらしい。端正な濃い顔の国王に。


「貴公の世界ではどうかわからないが、この世界では『言葉』が強い力を持っている。心の中を言葉にする事で力が得られる。その力が一定水準に達した時、それは現実となる」


 なんか昭和時代の精神論を聞いてるみたいな気分だけど、実際には全然違う。



《ここを通る》



 さっき彼はこう言った直後、本当にその場の壁を抜け、この部屋の中に入った。自分の発言を現実にしてみせた。しかも、俺も一緒にだ。



 つまり――――滅茶苦茶ヤバい能力じゃねーか!



 言った事が現実になる……!? そんな能力があったら無敵だろ! そりゃ日本語だって余裕で通じるわ!



 もしかしてこの国王、神様なんじゃないのか……?


 異世界の神。そう考えると、俺を召喚したのも納得だ。


 神様が国王に扮して国を治めているのか……?


「思考言語を使えるのは余だけではない。この世界に住む者なら誰でも使える」


 ……へ?


 この世界、神様ばっかりなの? 登場人物全員神様? 何その空前絶後のスケール……


 いや待て、冷静になれ。そんな訳ないだろ。


 そもそも思考言語ってのが万能なら、俺を呼ばなくても何だって解決出来る。でも違うって事は――――


「ただし、相当な制限や規制があるんですね」


「その通りだ。思った事を口にしたからといって、全てが現実になる訳ではない。具現化出来る事項は『個々の思考力』と『具現化実績』によって決まる」


 個々の思考力。


 具現化実績。


 成程、なんとなく想像はつく。



 恐らく―――― 


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