表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/90

13 忘れていた訳じゃない。ビビっただけだ。

「随分カッコつけておるようじゃが……ジェネシスとエロイカ教に会いに行くという話はどうした?」


 ぐっ、痛いところを……ノリと勢いで誤魔化せると思ったんだが。


 自分に出来る事がある程度わかった今、そいつ等とは余り関わりたくないってのが本音だ。



 さっきまでの検証で、6段の言霊まで使用出来るのはわかった。6段っていうと相当凄い事が出来るようなイメージだけど、意外とそうでもない。例えば触った物を時限爆弾に変えたり、水を酒に変えたり……ってのはどうも出来ないらしい。この手の物質変換は相当難しいみたいだ。


 ってことはつまり、水を毒に変える言霊もかなりハイレベルな思考力が要求される。もし連中の中に犯人がいた場合、そいつは過激思想の持ち主で、かつ思考力が高い人間――――どう考えてもヤバい奴だ。言霊以上にその人間性がヤバい。


 世の創作物の中の探偵は、殺人事件の犯人と平気で向き合っているけど、その神経がわからない。いつ殺されるかわかったもんじゃないってのに……


 それはそれとして、確固たる理由がもう一つある。


「俺の元いた世界には警察って組織があってね。犯罪を取り締まる連中なんだけど」


「なんじゃ急に」


「その組織の基本的な姿勢は『まずは疑え』。ほんの少しでも、いや全く疑わしい所がない人物でも、取り敢えず疑ってかかる。そういう連中の方針が俺は嫌いで、だから探偵になったんだ」


 実際は――――なりたくてもなれなかった。

 その事に後ろめたさや羞恥心はない。

 ただ、警察は嫌いになった。


「だから、その反体制派の連中を積極的に疑う理由がない限りは、接触はしない。現場近辺の調査でその理由が出てきたら、その時は腹を括るよ」


「腹を括ると言っとる時点で尻込みしてるのが丸わかりじゃの」


 ツッコミが手厳しい。


 っていうかリノさん、絶対思考力低くないよな……とても年寄りとは思えないくらい頭の回転がしっかりしてる。


 言霊が使えないとは到底思えない。敢えて使っていないだけか……? 宗教上の理由とかで。

 

 エロイカ教なんてしょーもない宗教団体がいるくらいだ。言霊を使用禁止にしている宗教があっても不思議じゃないけど……


「ま、其方がそのような方針なら、あーしも従うまで。一旦城に戻るとしようかの」


 幸い、リノさんは素直に俺の提案を受け入れてくれた。


 城に戻る理由は、現場検証だけじゃない。言霊について昨日より少し知識を得た事で、壁抜けやテレポート以外に国王殺しに使える言霊がないか思い浮かぶかもしれないと思ったからだ。今の俺なら核心に迫れるかもしれない。



 それに――――昨日の今日だ、まさかそんなに早く俺が戻ってくるとは思っていないだろう。


 もし城の中に犯人がいた場合、そこでボロを出すかもしれない。そんな期待もある。



 テレポートでも使えれば一瞬で城まで戻れるんだけど、残念ながらこれも6段程度じゃ無理らしい。勿論、冒険者ギルドの言霊一覧表にも載っていない。 


 国王が言っていたテレポートの中で一番使い手が多いビルディング・テレポートですら34人。国内じゃなく世界で、だ。つまり100mを9秒台で走れるくらいレアな力って事になる。



 ……待てよ?


 100mを9秒台で走るのは無理でも、9秒後に100m先に辿り着く方法はある。文明の利器を頼れば良い。


 それと同じように……


「リノさん。水晶の残量はどれくらい?」


「おおよそ40くらいじゃな。正確には純水晶が15、紫水晶が6、青水晶と紅水晶と緑水晶が4、黄水晶がと黒水晶が3じゃ」


 大分使ったな……それでもまだ多少余裕はあるけど。


 この中で今使おうとしてる言霊に適応しているのは……


「紅水晶を一つ頂戴」


 身体能力の向上と相性が良いんだよな。これなら城まで短時間で行けるかもしれない。


「何に使うのじゃ?」


「馬車に触れて、身体能力アップ……って言うより最適化か。上手く行けば馬の脚力と車輪の性能向上、あと馬車の軽量化が実現出来ると思うんだ」


 タイムリミットがある訳じゃないけど、この先もしかしたら移動速度を上げる必要がある時が来るかもしれない。その時の為の検証でもある。


 それじゃ、城に戻るか――――





「……」


 城に着いてからも、御者の顔色はずっと優れないままだった。


 幸い、馬車の能力向上はほぼ俺の思惑通りに上手く行き、通常の四分の一以下の時間で着く事が出来た。馬はフルパワーで走っている訳じゃないのに、凄まじい速度で馬車が移動する状況はシュール極まりなかったけど、目を瞑れば特に問題はなかった。御者には気の毒だったけど……


「先に陛下に挨拶しておいた方が良いかな?」


「そうじゃな。この時間なら玉座の間におるじゃろう。ただし、まずは執事の確認を取ってからじゃな」


「そっちは任せるよ。俺は先に城の周りを見ておきたい。10分後に城門の前で落ち合おう」


 一つ首肯して、リノさんは城の中へ入っていった。後ろから見ても、歩く姿勢は隙がない。腰も全然曲がってないし猫背でもない。膝を庇ってる様子もない。シルエットだけ見たら到底婆さんとは思えないだろう。



 それじゃ、今の内に聞き込みでもしておくか。リノさんがいると兵士に国王の評判とか聞けそうにないし。


 お、向こうから見回りの兵士がやって来るぞ。彼にしよう。


 モンスター的な存在がいるって割には城郭の中は平和そのものなのか、よそ見しながら見回りしてるらしく、未だに俺の存在に気付いていない。美術館や夜の学校にいる警備員みたいに緊張感ない顔してるから話しかけやすそうだ。


 ただし、普通に話しかけても意味がない。既に『元』がついているとはいえ、国王の事を悪く言う兵士なんていないだろう。デメリットしかないし、最悪職を失う。本音を話してくれるとは到底思えない。


 そこで言霊の出番だ。


 とはいえ、あの兵士に触れて『本当の事しか話さないようになる』と発言したら丸わかり。幾ら国王の客人って立場でも、こんな怪しい真似は出来ない。


 でも―――― 


「む! 貴様何者だ!?」


「どうもどうも、初めまして。国王陛下と懇意にさせて頂いているトイと申します。陛下から私に関するお話がありませんでしたか?」


「おお。貴方がトイか。確かに陛下からのお達しが来ている。好きにさせよと、そう窺っている」 


 俺が元国王殺害事件を調査している事は、依頼人の現国王とリノさんしか知らない。当然この兵士も知らないだろう。


 それでも、名乗った途端に俺への敵意や警戒心を完全に消してしまっているのは如何なものか……もし俺が国王を誑かしているとか、トイという人物を装った別人とかだったらどうすんだよ。つい最近国王が崩御してる状況なんだから、全く可能性がない訳じゃないぞ?


 まあでも、この単純さなら大丈夫だろう。


「どうぞお見知りおきを」


 右手で握手を求める。特に何の躊躇もなく、兵士はそれに応えた。


「こちらこそ。陛下とは親しいのかな? 客人が尋ねてくる事は稀にあるが、このようなお達しは初めてなものでな」


「はい。お互い、《本当の事しか話さない》と誓い合った仲です。今回も、少しでも陛下のお力になれればと思い、僭越ながら馳せ参じた次第で」


 これで良し。左手に握った水晶も消えた。


 ただ、ここからは俺も本当の事しか言えなくなる。持続時間がどのくらいなのかはわからないけど、なるべく質問されないようにしないとな……


「ところで、亡くなられた前国王陛下が誰かに恨まれているという話を聞いた事がありませんか?」

 

「いや、ないな。陛下は実に立派な御方だった。国民からの支持も厚く、無論我々にとっても本気で命を預けられるような方だった。こんなに早く召されるとはな……無念だ」


 どうやら街中での評判と見事に一致しているらしい。それがわかったのは収穫だ。


 ただ、犯人の手がかりを得るのは難しそうだ。


「ありがとうございます。私はこれから謁見の予定がありますので、これで失礼します」


「うむ。くれぐれも失礼のないようにな」


 なんとか穏便に事が運んだ。


 この方法はリスクが高いから、もう止めておこう。


「こんな所におったのか、全く……」


 っと、リノさんもう戻ってきたのか。


「残念ながら陛下は急用で城から離れておるそうだ。現場は自由に見て良いと許可を得ておる。行くかえ?」


「ああ、一刻も早く行きたい。そして密室殺人の謎を解きたい。この手で事件を解決して、探偵になって良かったと心から思いたい」


「……やる気があるのはいいが、国王陛下の無念を晴らすという大義を忘れるでないぞ」


 しまった……! リノさんの好感度が明らかに下がったぞオイ!


 情報を得る為の手段とはいえ、無謀な事をしてしまった……やるんじゃなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ