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12 爆破系の能力が悪役イメージなのは大体あの人のせい

「それじゃ、行っきまーす」


 段位2段、炎の魔法剣――――は剣がないから、代わりに《手に持った物に炎をまとわせる》を実行。

 対象物はリノさんが持っていたメモ用の紙だ。

 この世界にはメモ帳がないらしく、製本された白紙の自由帳みたいなのがそれに使われているらしい。


 その一頁を握りながら告げた言霊は、即座に合否が判定された。


 右手で掴んだ紙の切れ端が、あっという間に燃える。

 ただし、本来なら直ぐ灰になる筈なのに、炎を纏ったままの状態が保持されている。


 これが言霊の力か。

 自然の摂理さえも超越し、言葉を忠実に再現している。

 

「お見事。2段は合格じゃな」


「なんか試験受けてるみたいで釈然としない……」


 取り敢えず、俺は2段の言霊に関しては使いこなせるらしい。

 でも、正直それくらいは出来る自信はあった。

 というか、さっき失った自信を回復させる為に敢えて低い段位を選んだと言っても過言じゃない。


 俺のメンタルは決して強くはない。

 特に自分自身のプライドに関しては妙に高いところがあって、そこを傷付けられると極度に凹むと自分を評価している。

 28にもなって情けないとは思いつつ、中々克服出来ない部分だ。


 反面、対応力やいざって時の胆力には結構自身がある。

 ってか、それがないと探偵はやっていけない。

 現代の探偵に必要な能力の最たるものだ。


「それじゃ、次は5段を試してみてはどうじゃ。触れた物を爆破する言霊」


「な、なんかイメージ良くない能力なんだけど……」


 如何にも敵役が使いそうな力だ。


「正確には『自分自身の一部を爆破する言霊』じゃな。自爆に近いニュアンスじゃが、局部破壊ならそこまで問題はなかろう」


「言霊で直接殺すのは無理なんですよね」


「うむ。自分以外に何らかの効果を及ぼすのもな。じゃが触れている物は自分の身体の一部と見なされる故、上手に使えば他人を言霊で攻撃するのは可能じゃ」


 面倒だけど、まあ理屈はわかる。

 上手く行くとは思えないが……一応試してみるか。


 結果――――右手に持った紙が爆発した。


 マジかよ……俺ってそうなのか。

 悪役が似合う奴だったのか。


 でも、この言霊は強烈だな。

 かなり心強い。


 にしても……8段の破壊とは何が違うんだ?


「破壊は文字通り、触れた物を完全に破壊するんじゃよ。しかも音すら立てずに。爆破は常に大きな音が出るのが問題じゃ。それに……」


 リノさんが俺の持っている紙に視線を向ける。


 そう――――紙はまだ原型を留めている。


 爆破されて燃えてはいるけど、粉々にはなっていない。

 別に手加減したって感覚はないのに。

 

「爆破という言葉では破壊力までは決定出来んのじゃろう。かといって《粉々に爆破せよ》では難易度が大幅に変わるからの。恐らく使用不可能じゃ」


「そこそこのダメージは与えられる、くらいの感覚でいた方がよさそうだな」


 どっちかって言うと、音で驚かす事の方が使い道がありそうだ。


 その後も試行を重ねた結果、俺は6段の言霊までなら使えると判明した。

 6段か……もっと突き抜けたかったのが本音だ。

 それでも、身を守るには十分過ぎるくらい色んな言霊が使えそうだから良いけど……


 ……なんかリノさんがニヤニヤしてるからこれ以上ウダウダ考えるのは止めよう。


「ところで、リノさんは言霊使えるの?」


「ん? いや、あーしは使わないの。腕力で十分じゃ」


 確かに、あの一撃でゴロツキを粉砕したパンチはヤバかった。

 あんな凶器を拳に宿してるのなら、言霊なんて使うまでもなさそうだ。

 通に仕事して生活してる人にとって、水晶の消費による出費は結構キツいだろうからな。


「力になれずに済まぬの」


「あ、いや、そういう意味で聞いたんじゃないよ。ちょっとした好奇心。それより、ここからが本番だよ」


 慌てて話を変えた事がモロバレなのは恥ずかしいけど、この際仕方がない。

 それに、実際ここからが重要だ。


 危険人物と遭遇した時、自分にやれる事があるのはわかった。

 あとは――――この言霊を事件解決に活かす事を考えなくちゃならない。


「まずは情報解析スキルだな。指紋採取……は仮に出来てもデータがないから意味ないな。DNA鑑定も同じく」


「む……なんか一部意味がわからん言葉が混じっとるな」


 こっちの言葉にはない、翻訳が不可能な言葉はそのまま発音されてるっぽい。

 まあ、そこは仕方ない。

 ネット上の翻訳サイトもそんな感じだし。


「となると……触れた物の情報を引き出すってのが理想だな。自分自身の解析って事になるか」


「局部破壊と同じじゃな」


 破壊、は上手くいかなかった。

 でも情報解析くらいなら、きっといける筈。


「《この触れている物の情報を解析》」


 さあ、どうだ――――



[分類は紙類。所持者はリノ]

 


 おっ、音声で解析結果を教えてくれるのか。

 成功だ……と素直に喜べない自分がいる。

 思っていたよりずっと得られる情報が少ない。


 どうやら、言霊の解析では『最低限の識別』と『所有者の名前』はわかるらしい。

 これだけだと、事実上役立つのは所有者の名前くらいだな。

 外見だけじゃ何なのかわからない物なら、識別にも意味があるだろうけど……


「でも、凶器がわかれば即犯人がわかるのは大きいか。あと血痕も」


 現場に犯人の血痕があれば、その血を流した人物を特定出来るのは大きい。


 ただ――――今回の事件には現場に凶器も血痕もない。

 そこが問題だ。


 あの手がかりの全くない密室殺人の犯人をどうすれば炙り出せるのか。


 考えろ。

 こんな便利な能力があるんだ、もっと何か凄い事が出来る筈だ。


 例えば……


「……リノさん。ちょっと変な事聞いて良い?」


「構わんぞ」


「時間って巻き戻せると思う? 勿論、全世界の時間を巻き戻す、なんてのは絶対無理だ。でも、一部の空間のみの時間を巻き戻した映像を見られないかなって思って」


 もしそれが出来れば、監視カメラと同じ意味を持つ事になる。

 しかもこの場合、予め設置していなくても過去の映像を見られる。

 可能なら、今回の事件も解決したも同然だけど――――


「無理じゃろ。試してみてもよいが、余りにも能力の効果が大き過ぎるし、『自分自身にしか効果を発揮しない』という制限を回避する方法も思いつかんの」


「だよね……」


 自分でも、試すまでもなく不可能だと思った。

 時間を巻き戻すなんて能力、超然とし過ぎている。


 でも……待てよ。

 巻き戻すのは無理でも、記憶を呼び起こすのならイケるんじゃないか?

 例えば、その部屋に置いてあった何かの視界(目がないだろうけど)を映像化する、みたいな。


 そんなファンタジックな事が果たして可能かどうか――――


「《この石が今まで見てきた風景を映し出して欲しい》」


 路傍の石を再び握り、今度はこんな言霊を発してみた。

 問題は、この目などない石に視覚って概念があるかどうかだけど――――


「無理じゃな」


 ダメだった。

 そりゃそうか。

 視界は勿論、脳のない物質を触って過去の記憶を探るのも無理難題だよな。


 でも――――だったら、脳のある生物だったら?


 あの現場には人がいた。

 少なくとも二人。


 一人は犯人。

 そしてもう一人は、被害者である元国王だ。


 もし、その元国王の遺体に触れて、生前の視界や記憶を映し出せたら?

 蘇生は無理でも、それくらいは出来るかもしれない。


 とはいえ、それは死者に対する冒涜。

 まして元国王にそれをするのは不可能だろう。

 まず目の前のリノさんがガチでキレそうだ。


 何より、道徳的観点でそんな行為は完全にNG。

 別の方法を模索するしかなさそうだ――――

 

「どうするのじゃ?」


 次の行動が決まったのを見計らったかのように、リノさんはそう聞いてくる。

 やっぱりこの人は俺が見込んだ助手だ。


 取り敢えず、知名度に関しては後で冒険者ギルドに行って強めの言霊を使ってみせよう。

 それがダメ押しになる筈。


 使えそうな言霊もこれである程度は把握出来た。

 と、なると――――


「現場……っていうより、一旦城に戻る。そっちで聞き込みをしておかないとね」


 今までずっと、架空の探偵を否定し続けてきた。

 物語の中の、格好良くてクールで、常にご都合主義のど真ん中にいるあの連中を白い目で見てきた。


 まだ、それを妬みだとは認められない。

 初めて手がけるこの殺人事件を解決した時、その答えはきっと出る。



 異世界での密室殺人の真相を暴く――――それは俺自身の心の内を暴く戦いでもあった。



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