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11 昇段は自己責任でお願いします

「敵から認識されなくなる、って言霊なんだ」


 少し得意げに種明かし。

 なんの事はない、某国民的アニメの某ひみつ道具をヒントに考えた言霊だ。


 自然界でもそうだけど、身を守る為に必要な能力として『回避力』は一番重要視される部分。

 その中でも特に、擬態に代表される『やり過ごす能力』は、身体能力が余り高くない生物にとっては命綱ですらある。


 今の俺にはピッタリの能力だ。


「相手の認識から外れる能力じゃと……? そんな能力の使い手、あーしは一人も知らんぞい」


 驚いたような、怪訝そうな、兎に角眉間に深い皺を刻んだ顔で、リノさんは持参していた手荷物の中から何かを取り出していた。


「それは?」


「冒険者ギルドで貰っておいた、言霊一覧表じゃよ。初心者でも使いやすい言霊の前例が記載されとる」


 言霊一覧表――――というお品書きのようなそれは、大きさも分厚さもファミレスのメニューくらいだった。

 そこには、一覧表というだけあって様々な文字が箇条書きで書かれている……けど、全く読めない。

 字を読めるようになるには別途言霊を使う必要がある。


 本来なら、勉強してこの世界の文字を読み書き出来るようになるのがベストなんだろうけど、流石に一朝一夕では無理だ。

 それこそ、この世界に永住する覚悟が出来れば別だけど、今は言霊の力を借りよう。


「《この国の文字を日本語化して》」


 水晶を手にそう告げると、途端にさっきまで訳のわからない象形文字的な物が全部、馴染み深い日本語と化した。

 一瞬で識字が完璧に……なんつードーピングだ。


 さて、一覧表とやらはどんな言霊になっているのか――――





・我が拳よ岩をも砕かん


・我の全身を鋼鉄よりも固くそれでいてしなやかに


・我の脚よ限界を超えて疾くあれ


・我が愛剣より出でし炎龍





 ……何この中途半端な中二的表現の数々。

 もっと凝ってるなら多少は見応えあるのに、どれもこれも凡庸で単にダサい。


「言霊は声に出さんと効力が発揮されんからの。男どもの間では、如何にカッコ良く言うかが重要視されておるようじゃ」


「これカッコいいか……?」


「その辺はセンスの問題じゃろ。あーしには理解出来ん世界じゃ」


 俺にも出来ん。

 いや、どうせ声に出すならカッコ良くってところはわからないでもないけどさ。


 それより――――


「この例文の横にある【10級】ってのは、難易度的なもの?」


「そうじゃな。【10級】が一番簡単に使える言霊じゃ。思考力ゼロのアホでも使える」


 拳強化は【10級】。

 全身硬化は【5級】。

 速度上昇は【4級】。

 炎の魔法剣は……【2段】か。


 これ、習字か将棋の段位だよな。

 言葉だけじゃなく字も俺の頭の中の言葉に翻訳されてるんだろうし、多分将棋だろう。

 暇な時によくテレビでやってる将棋見てたし。


「取り敢えず、ここに書かれてあるのを幾つか使ってみれば、其方の思考力がこの世界でどの程度の位置かわかるじゃろうと思ってな。貰ってきたんじゃが」


「ありがとうございます。助かります」


 思わず敬語でお礼を言ってしまった。

 でも、それくらい感激した。

 他人に思いやって貰ったのって何時以来だろう……


 でもこれはありがたい。

 自分を相対的に捉えるのは大事だからな。

 それが、この異世界そのものを知る事にも繋がる。


「しかし、先程の認識から外れる能力を使いこなす当たり、其方には相当な思考力がありそうな気がするぞい。前例がないからわからんが、かなり便利な能力じゃからな」


「あ、いや。実は条件を相当厳しくしてたから、多分そうでもないと思う」


「む?」


「正確には『恐怖を感じた瞬間に一瞬だけ敵から認識されなくなる』って言霊だったんだ、さっきのは」


 無差別にどんな相手からも認識されなくなる、なんてのは流石に難易度高過ぎると思われる。

 まだ試してないからわからないけど、もし自分の思考力に合っていない高難易度の言霊を使用して失敗した場合、それでも水晶が消失してしまう恐れがあった。

 無駄遣いを防ぐ為にも、また多少複雑な条件でも可能かどうか確かめる為、敢えてこんなまだるっこしい言霊を使ってみたんだ。


 それに、これは結構実戦向きでもある。


 強い敵であればあるほど、俺の恐怖心は煽られる。

 そして、気配を察知したりできる達人ほど、急に認識が出来なくなるとその違和感が強くなる。


 よって、この『恐怖を感じた瞬間に一瞬だけ敵から認識されなくなる』って言霊は、手強い敵ほど有効。

 逆に何も考えないで生きてるような奴には、余り意味がないだろう。

 何も考えず武器を振り回されたら、認識されようがされまいがアウトだし。


「なんと……」

 

 そう説明した結果、リノさんは絶句してしまった。

 感心されたのなら嬉しいけど、果たしてどんな受け取られ方をしたのやら……


「どうやら、伝説の職業とやらに偽りはないようじゃな。正直、眉唾と思っておったのじゃが」


「あれ? 探偵ってもっと神格化されてると思ってたけど、意外とそうでもない?」


「その昔、驚異的なまでに優れた実績を挙げた人物が探偵と名乗っていたのは事実じゃ。ただ、探偵が凄いと一般人の間で言われるようになったのは割と最近じゃな。ブームという奴かもしれんの」


 ブーム……?

 俺がこの異世界に来る少し前に?


 そんな偶然があるのか?

 

「ま、それより今は言霊じゃろ。水晶もたんまりある事じゃし、いきなり高段位の言霊を試してみても良いんじゃないかの?」


 そのリノさんの発言は、失敗した際にも水晶が消費される事の裏付けになった。

 じゃなけりゃ、ここで『水晶も沢山ある事だし』なんて言う意味ないからな。


「そうだね……ところでこの段位って誰が決めてるの? 冒険者ギルドの偉い人?」


「全国言霊協議会の連中じゃな。冒険者ギルドの幹部も数名その中に入っておった」


 あ、やっぱそういう組織ってあるんだな。

 なんでもかんでも組織化したくなるのはこの世界も同じか。


「了解。それじゃ、まずはこれを使ってみよう」


 お品書き――――もとい、言霊一覧表に『我が身体に触れている一部を破壊せよ』と書かれている項目を指さす。

 何らかに触れている時点で、それも自分の身体の一部だと認識される性質を使った言霊の一つ。

 要は、自分の身体の一部を破壊する『局部破壊』だ。


 メカニズムでは自傷行為に該当するからか、段位は凄まじく高く【8段】。

 確か9段が最高位だったから、それに限りなく近い難易度って事になる。


「それじゃ適当な物を……この石で良いか」


 足元に転がっていた、何の編綴もない石。

 片手で握れば全形が包めるくらいの小ささで、まあ普通に固い。

 自力でこれを破壊するなんて絶対に無理だ。


「それじゃ早速。《触れている物を破壊せよ》」


 ……何も起きない。

 水晶は――――消えていない。

 でも露骨に色が曇った。


「失敗じゃの。水晶の純度が急激に下がっとる」


「流石に自分を買い被り過ぎたかな」


 一応苦笑してみせたけど、心の中では若干落胆している。

 そりゃ、この国で最高峰の思考力……って訳にはいかないだろうけど、ちょっとは期待するじゃん。

 仕方ないよ、人間だもの。


「悔しがっとるな。良い良い、男子たるものそうでなくては」


「べ、別に悔しがってないし!」


 婆さんを指名しておいてなんだけど、子供扱いされるのはちょっと気に食わない。

 というか、図星を指されて動揺したってのが本当のところなんだろう。

 我ながらみっともない。


「早く次のを試そう。時間は有意義に使わないとね」


 誤魔化すように咳払いしつつ、俺は他の言霊の前例を見繕う事にした。



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