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10 水晶とは二酸化ケイ素が結晶して不純物とロマンが混ざった物

 この世界にも太陽に該当する光のエネルギーは存在していて、それは多分恒星と思われる。なんか上空に四つくらい輝いている星らしき物が見えるけど、多分それぞれからこの星で生物が生きるのに必要な環境を整えてくれるソーラーパワーを提供しているんだろう。


 俺がこうして異世界でも生きていられるのは、あの星々のお陰かもしれない。だからといって別に手を合わせはしないけど。

 

 その代わりに――――


「それじゃ、お手合わせ願います」


「本当にいいのじゃな?」


「うっす。これも事件調査には必要な事だし」


 城下町の郊外には、公園らしき出入り自由な広い敷地があった。流石に整地作業を行った芝生のような場所はないけど、子供が外で遊ぶには十分過ぎるスペースがある。


 この世界の子供達がどんな遊びに興じているのかにも関心がない訳じゃないが、今はそれよりもやるべき事がある。だから奥の人気のない所で、リノさんとこうして向き合っている。



 俺は彼女と――――戦う。



 言霊を使って。


 俺にどんな言霊が使えるのか、使えないのか、そのテストだ。


 今後、元国王を殺害した犯人に関して調べる場合、武力派の連中と嫌でも対峙しなくちゃならない。なら自分の身を自分で守れるかどうかの試行は重要だ。というか命に関わる。


 冒険者ギルドでの一件を見る限り、リノさんはガチで強い。彼女いわく、あれは言霊を使った訳じゃないらしい。それ以上は話してくれなかったけど、恐らく武術の達人か何かなんだろう。あの容赦のなさは素人には出せない。


 助手として俺に協力してくれるリノさんがどれくらいの強さなのかは知っておきたい。でも、仮に彼女がとんでもなく強かったとしても、それに守られるばかりじゃ情けなさ過ぎる……かどうかは兎も角、自分に出来る事と出来ない事の境界はしっかり見定めたい。



 午前中に改めて冒険者ギルドを訪れて、幾つかわかった事がある。


 国王も言っていたけど、この国では言霊を使用したら、それを報告する義務がある。報告の窓口になっている機関は幾つもあって、冒険者ギルドもその一つだ。別に冒険者でもない俺でも受け付けてくれるらしい。



 もし言霊を使って、それを報告しなかったとしても、誰も見てなければバレる事はない。ただし、誰かが目撃していて、それを窓口に報告した場合、報告義務違反で罰金が科せられる。常習者になると禁固刑に処される事もあるそうな。結構重い罪だ。


 それでも、具現化実績の実態を完全に把握するのは難しいらしく、国民の報告に基づいて予測している各言霊使用に必要な思考力の水準と、現実との間には多少の齟齬があるという。大したズレじゃないそうだが。



 また、冒険者ギルドでは、戦闘に使用する言霊のガイドラインってのが設けられている。要は『こういう言霊なら思考力があんまりない人でも使えますよ』ってのを教えてくれるって訳だ。チラッと見た感じでは肉体強化や武器強化の例が多かった。まあ如何にもって感じだな。


 思考力の余りない連中は、特に深く考えずにその紹介されている言霊をそのまま使う(というか他の言霊は使えない)。その結果、比較的安全でトラブルの原因になるような言霊は使われず、フォーマット化される。


 そうなれば――――管理し易くなる。

 

『言った事が実現する』なんて恐ろしい能力を野放しに出来る筈もなく、そうやってコントロールしてるんだろう。

 


 ただ、俺はそんな事情なんて知ったこっちゃない。既存の言霊で有効な内容のものがあれば、先陣の知恵としてありがたく使わせて貰うけど、それよりも自分にとって最も都合の良い能力が欲しい。



 俺は別に敵を倒す為に言霊を使うんじゃない。身を守る為、捜査の為に使うんだ。攻撃は最大の防御、なんて一元的な価値観に囚われたりはしない。あらゆる局面で有効な能力を使いこなせるようになれば、それがベストだ。


「ま、それにはまず色んなシチュエーションを想定しないと。まずは……」


「敵と一対一で向き合う事態じゃな」


「……はい」


 どうもリノさんには俺の思惑が見透かされている気がする。


 この人は底が知れない。だからなのか、つい彼女には敬語を使ってしまう時がある。


 それは意識せずに出た尊敬の念。だから特に矯正する必要はないだろう。


「取り敢えず、リノさんは普通に攻撃してくれていいから」


「ふむ。伝説の職業の力、見せて貰おうかの」


 そう宣言された二秒後、俺の身体は宙を舞っていた。


 なまじ意識があるだけに、とんでもなく気持ちの悪い浮遊感を味わった。


 っていうか――――速ぇぇぇぇ!?


「ふぎゃっ」


 背中で堅い荒れ地に着陸。まるで尻尾を踏まれた猫みたいな声をあげてしまった。



 俺は今、何をされたんだ? 気が付いたら後ろに吹っ飛んでたぞ……


「あ、あの……」


「服を掴んで放り投げただけじゃが」


 マジかよ……思いっきり配慮されてるじゃん。もし彼女が武器を持っていたら、完全に斬られたか突かれてたかで死亡していただろう。


 やっぱり事前にテストしておいて良かった。ケンカの経験が全くない訳じゃないのに、いざとなったら何も声が出ない。そもそもリノさんの動きが速過ぎて全然反応出来なかった。



 これから事情聴取する相手が、みんなリノさん並って事はないかもしれない。でもこれくらい強い奴にいきなり襲われたら『言霊が使えるからどうとでもなる』なんて極甘もいいとこだった。


「敵と会うのなら、事前に言霊で身体を強化しておくべきじゃな。持続力の問題もあるがの」


「肉体強化ってどれくらいもつものなのかわかる?」


「そうじゃな……一般的なレベルの傭兵の剣を腕で防げるくらいの強化となると、拳大の青水晶一個で三十秒といったところじゃ」


 短いな! それじゃ事前に使うのはかなり厳しい。青水晶はそんなに高くなかった筈だから、大きめのを用意しておけばいいかもしれないけど……



 これも冒険者ギルドで知ったけど、水晶には様々な色があって、それぞれ相性の良い言霊、悪い言霊があるらしい。


 例えば、青水晶は身の守りとの相性が良く、水晶の消費が最小限で済む。黒水晶は他者を攻撃する能力に対して効率が良いそうな。


 

 俺が王様から貰ったのは純水晶って言って、どんな種類の言霊でも最小限の消費量で使用可能な万能タイプ。高く売れるだけの事はある。


 どの色の水晶であっても純度が低ければ安く、ただし『握力10kgアップ』などの低レベルな言霊にしか使用出来ない。持続時間も水晶の純度と大きさに比例するみたいだ。



 さて……高純度の青水晶を幾つか用意しておく必要があるのはわかった。でもそれより、試してみたい言霊がある。


 純水晶を一つ使って試してみよう。まだストックには余裕があるし。


「――――」


「ん、何か言ったかえ?」


 年配者の耳はあまり良くない。小声だったとはいえ、俺の言霊は聞こえなかったようだな。


「それじゃリノさん、もう一回お願い」


「よかろう。今度は上手く受け身を取るん――――」


 言葉の途中、リノさんが視界から消えた。


「じゃぞ」


 そして次の瞬間、再び俺の身体は宙を舞う――――事なく、その場に留まる事が出来た。


 リノさんは俺に触れられなかった。正確には、触れようとした直前にその動きが止まった。


「今のは……言霊の効果かの? 其方、何を言ったのじゃ?」


 声が若干低くなったのは、俺への評価が変わったのを意味する……といいな。


 何にせよ、水晶もしっかり消えたし、この言霊は使えるみたいだ。これは大きな収穫と言って良いだろう。


「ええい、勿体振らずに教えんかい!」


「はいはい。今のは――――」


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