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2.私は勇者様が嫌いです

 私はアンジェリーナ。

 東の国の先王の娘にして、現王の妹です。


 数年前、魔王に脅かされたこの世界に女神が勇者を遣わせてくださいました。

 お陰で、魔王は倒され・世界に平和が戻ったのですが……。


 私は、勇者ユーキが嫌いです。

 何故、あんな男と結婚しなければならないのか。


 嫌いな理由ですか?

 魔王討伐の旅への同行者を女性限定にしたからです。


 各国から勇者様の旅の同行者を最低一名出す事になり、我が国からは最強の騎士(勿論、男性)を同行させる事にしました。

 他国からは、其々王女達が参加する事になりました。

 彼女達が最も強いからだそうです。


 最初、勇者様は、「自分には関係無い世界の為に命がけで戦ってやるんだから、王族を出すのが筋だろう(要約)」とおっしゃいました。

 ですが、その騎士は王族です。私や陛下の従兄弟です。

 そう伝えましたら、「辛い旅になるだろうから潤いが欲しいんだ。他の国を見習ってくれよ(要約)」とおっしゃったのです。


 他国の王女と違い、我が国の王女は一人を除いて皆、戦う力を持ちません。

 唯一の例外はまだ子供でしたので、「潤いなんて、五人いれば充分でしょう? 女顔の従兄弟で我慢して下さい(要約)」とお願いしました。


 それで、彼女達に、我儘だの協調性が無いだの責められましたけれど、我が国は悪くありませんわよね?



 世界が平和になり、勇者様は褒美として元魔王領に建国を許されました。

 そして、和平の為に各国から王女を娶る事になった訳です。


 彼女達は、私が、労せずして勇者様の妻と言う立場を手に入れようとするのが気に入らなかったようです。



 結婚式前日。

 私は、他国の王女達に囲まれました。

 因みに、身一つで嫁いで来るよう言われましたので、連れて来た侍女は居りませんし、着替えすらありません。


「お兄ちゃんを好きでもないくせに妻になろうだなんて、許せないのです!」


 そう言ったのは、ドワーフの国である土の国の王女アーシア様。

 旅の間も今も未成年の少女です。


「そうです。それどころか、お兄さんを嫌っていますよね?!」


 次に口を開いたのは、エルフの国である森の国の王女ウィンディア様。

 具体的なお年は存じませんが、勇者様より年上の筈です。


「ん。貴女はお兄に相応しく無い。でも、心を入れ替えれば認めても良い」


 この方は、北の国の王女スノーリア様。

 目が悪いのか、眼鏡をかけておりますわ。


「ユーキの素晴らしさが解らないなんて、どうかしているよ」


 南の国のフィアリア様は、大きな胸を強調するかのように腕を組んで、私を睨んで居ました。

 魔王を倒す使命を成し遂げ、世界を救ってくださった事は、確かに素晴らしいですわ。

 ですが、それと惚れるかどうかは別問題です。


「後日、惰弱な貴女を、鍛え直してあげるわ」


 最後に、神に遣わされた勇者様が最初に降り立った地である西の国の王女ライティナ様がそう言いました。


「ご意見ありがとうございました。前向きに検討させて頂きます」


 私がそう答えますと、漸く囲みを解いてくださいました。



 そして、翌日。

 私の為に用意された花嫁衣装が、何者かによってズタズタにされていました。


 私は先ず、魔王軍の残党かと疑いましたが、彼等がこれをする事によって何のメリットがあるのか解らなかったので、その考えは捨てました。

 次に、反勇者の思想の持ち主の仕業ではないかと思いました。

 勇者様の夢である世界平和を妨害する為の工作。

 魔法軍の残党の仕業と考えるより、よほど現実的でしょう。


 私が思考を巡らせている間に、衛兵が上司、又は、勇者様に報告に向かった筈です。


「不審人物を見ませんでしたか?」

「え~……。その~……」


 別の衛兵に尋ねると、歯切れの悪い返答が返って来ました。

 不審では無い人物ならば、見たのでしょうか?


 暫く待ちましたが、何時まで経っても報告を受けたであろう筈の衛兵の上司も勇者様も現れませんでした。

 それどころか、メイクなどの手伝いをする者達まで姿を見せません。

 これは、もしかして、勇者様の仕業でしょうか?

 それとも、そう思わせる為の反勇者派の工作なのでしょうか?



「何だ、その格好は?」


 ズタズタにされた花嫁衣装を何とか身に着けて現れた私に、勇者様は表情を歪めてそんな問いかけをしました。

 私は、勇者様の落ち着き具合に、確信しました。

 反勇者派の仕業では無いと。


 報告を受けていなければ、私を愛していないとは言え、警備を出し抜かれた事に慌てる筈です。

 私が被害を受けただけでは無いのです。

 勇者様が犯人に喧嘩を売られたのです。

 犯人の企みがこれだけで済む筈が無い。結婚式やパレードで襲撃してくるかもしれない。

 そう考えて然るべき事件です。


 ですが、勇者様は落ち着き払っています。

 まるで、犯人が誰なのか判っているかのように。

 そして、その人物がこれ以上の問題を起こさないと解っているかのように。


 それとも、事件の事は報告を受けているから、落ち着いているのでしょうか?

 それも無いでしょう。

 報告を受けて居れば、代わりのドレスの手配を命じたりする筈です。

 私がそれを身に着けずに現れたのですから、先ずは何らかの妨害がされたと『敵』に対する警戒を引き上げるのが普通でしょう。


 それとも勇者様は、私の自作自演だとでも思っているのでしょうか?


「勇者様が私の為に用意して下さった花嫁衣装ですわ」

「そんな無様な格好で結婚式に出るつもりなの? 貴女は恥ずかしく無い様だけれど、ユーキに恥をかかせるのは許さないわ」


 ライティナ様。貴女の愛する勇者様に何者かが喧嘩を売ったと言う事なのですけど、その人物は許すのでしょうか?

 それとも、私の趣味で衣装をズタズタにしたとでも思っているのでしょうか?


「ん。貴女には、お兄の妻になる自覚が無さ過ぎる。お兄の害になるなら、ただじゃおかない」


 スノーリア様。何者かが和平を駄目にさせようと害為した訳なのですけれど、妻以外の方でしたらどうでも良いのですね。

 それとも、私の好みがズタズタの衣装だからと自分でそうしたとでも思っているのでしょうか?


「お兄ちゃんの事が嫌いだからって、お兄ちゃんが用意したドレスを駄目にするなんて、最低なのです!」


 アーシア様がそう言うと、皆様同意なさいました。

 証拠も無しに言いがかりをつける様な方々が、世界平和を目指す国王の妃になるのですか。

 勇者様の語る理想は、やはり、ただの夢物語ですわね。


「勇者様も、そう思っていらっしゃるのですか?」


 そう尋ねると、勇者様は大きな溜め息を吐きました。


「もう良い。帰れ」


 私は耳を疑いました。


「帰れとは、何方(どちら)に?」


 震える声で尋ねます。


「決まっているだろう。家にだよ」

「……解りました」


 実家に帰らせて頂きます。



 部屋を出てドアを閉めようとした時、勇者様達の話が聞こえました。


「幾ら美人でも、あそこまで頭悪い奴はな~」

「ですよね。お兄さんに釣り合わな過ぎです」

「よほど、人材不足なんだろうね。あれが一番マシな王女とかさ」

「良い王女が居ないなら、優秀な養子を取れば良いのに。そんな事も解らないのね。東の国の王は」

「ん。それに、今時女騎士とかが居ないなんて、古い」

「お兄ちゃんがあの女を好きにならなくて、安心したのです」

「当り前だろう」


 私は静かに扉を閉め、出口に向かいました。



 私は港に向かう為に、パレードを行う通りを駆けました。

 別に、この姿を見て、一人でも良いから勇者様の人となりに疑問を持って欲しいと言う思いからではありません。

 ただ単に、走りたいほど嬉しかったのです。

 勇者ユーキと結婚せずに済んで。


 私は、現在客人扱いです。

 理由は判りませんが、引越しして来た事になっていないのです。

 つまり、今日まで滞在していた離宮は、私の家ではありません。

 当然、後宮も私の家ではありません。


 ありがとう。花嫁衣装をズタズタにして下さった誰かさん。

 貴方のお陰で、ユーキが「家に帰れ」と言ってくれました。


 もしかしたら、ユーキが世界平和の為に新たな共通の敵を作り出そうと、私が実家に帰るようドレスを裂いたり・兄を侮辱したりした可能性もありますね。

 そこまで酷い性格では無いと良いのですが。女神への信仰の為にも。

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