1.晴れの日の曇り
2022.01.23 消し忘れていた余計な字を削除
世界を救った勇者が建国後、各国から王女を娶る事となった結婚式当日。
式の後のパレードを見る為に沿道に集まった人々は、目の前の光景を唖然として見詰めて居ました。
結婚式が行われている筈の時間帯。
式場である教会の方向から、ズタズタになった花嫁衣装を身に着けた女性が走って来たのです。
「あれって、東の国の王女じゃないか?」
顔を見て、誰かがそう呟きました。
何故、勇者の妃の一人となる女性が、酷い有り様のドレスを身に着けているのでしょうか?
誰かに純潔を奪われたのではないかと思った者も少なからずいましたが、それは、つまり、勇者の手配した警備に手抜かりがあったと言う事。
仮に、彼の王女が狙われたのではなくドレスの破壊だけが目的だったのだとしても、それでも、勇者の手落ちには違いありません。
しかも、彼女がこんな恰好でこんな場所を走れていると言う事は、誰も彼女が出て行くのを止めなかった・或いは、気付かなかった事になります。
どんな警備なんでしょうか?
もしかして、勇者が追い出したのでしょうか?
純潔を失った女と結婚出来ない、と?
自らが敷いた警備の不手際でありながら?
勇者が各国の王女と婚姻する事になった理由の一つは、勇者が掲げる世界平和の為です。
それなのに、彼の王女を国へ返すと言う事は、その目標は口先だけだったのでしょうか?
それとも、彼の言う『世界』に、東の国は入って居ないと言う事でしょうか?
やがて、立派な馬車がやって来ました。
人々は、勇者が東の国の王女を連れ戻しに来たのかと思いましたが、停まった馬車から降りて来たのは、東の国の大使でした。
彼が王女を馬車に乗せると、馬車はそのまま港の方へと去って行きました。
不安を覚えた民衆を余所に、その後のパレードは何の説明も無く予定通りに行われました。
幸せそうな各国の王女達と勇者の笑顔。
東の国の王女の姿がそこに無い事を問題に思っていない様に見えて、人々は、勇者が東の国の王女を追い帰したのだと確信しました。
折角魔王が倒されて世界が平和になったのに、また戦乱の世になるのでしょうか?
そう思った人々は、心からの祝福を送る気にはなれませんでした。