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寝室に戻れば、妻が心配そうに迎え入れてくれた。
「あなた、ナハトは」
「夜の王の子と親しいそうだ。首都には行かず、ここから離れたくないと」
妻はやっぱり、と息をついた。
「生まれた時から、いいえ、お腹にいる時から、いずれこうなるのではないかと思っていたのです。あの子は自然に愛されているのですわ。不思議なことが沢山起きた。……ああ、でも、まだあの子は10歳なのに」
家庭教師達が言うには、教えた覚えのないことや、自分達でも知らないようなことを知っている時があるという。きっと、夜の王の子に教えてもらったのだろう。ナハトには上の兄達と同じく最上級の家庭教師をつけてある。その彼らが知らないことというのは、即ち人の身に余ることだ。ナハトはもう、人から離れ始めている。俗世の常識ではもう彼を縛ることは出来ない。縛りつけようとしたところで、こちらの思いも寄らぬ方法でするりと抜け出していくのだろう。
「どうにもならないことというのはあるものだ。会えなくなるわけじゃない。……ナハトの行く末を、祈ろう」
私達の手の届かないところに行ってしまう。守ってあげられなくなる。過去自然に愛された人間達の行く末は様々だ。彼らには彼らなりの道理があるという。ならもう、人の世に生きる我々は、ただ祈ることしか出来ない。