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「ナハト、来たのね。寝なくて良いの?」
「夕方寝ていた」
くすくすと笑いながら声をかけてきた彼女ににやりと笑って返す。
「ふふ、じゃあナハト、今日は何して遊ぶ?」
夜の娘はライラと名乗った。月明かりの下、たまに月明かりのない新月の夜でも、ライラと語らい、教え、教えられ、遊んだ。夜に森に行けばいつだってライラは迎えてくれた。夜のことで彼女に知らないものはなく、梟の声の読み解き方、星の瞬きの意味、木々の動き方、風との適切な距離、何だって教えてくれた。代わりにライラが知りたがった事はこちらも全て答えた。剣の操り方、お茶のマナー、食事のマナー、使用人や親類・他貴族との適切な距離、人の目から見た地理、社会の様子。ライラに教えるため、これまでより勉強や稽古に熱を入れて取り組んだ。ライラと会う時間が何よりも楽しかった。お互いに全てを教え尽くし、お互いに出来ることは相手も全て出来るようになり、それでもまだ離れがたくいつまでも一緒に居た。ライラの金の瞳が楽しそうに煌めく瞬間を見るのが何よりも好きだった。未来もずっとそうありたいと思う。
「首都に戻らずに領地に留まろうと思うんだ。私は三男だから、きっと大丈夫だと思う」
「わあ、じゃあ、まだ一緒に居られるのね! 嬉しい! でも、もし駄目だったら?」
「抜け出す。そして、家には帰らない。父上達には申し訳ないが、まあこっそり力を貸せばいい」
「悪い子ね。いつからそんな子に?」
「風の乗り方を教えてくれたのは君だろう?」
ライラは私が教える前から邸を抜け出してきてたじゃないと笑った。2人とも、離れることなど考えていなかった。
「夜の王に会ったのか」
父に領地に残りたいと告げた後に返された言葉に瞬いた。
「夜の王には、会ったことはない」
「では何故残りたいと? 度々邸を抜け出し森に行っていることは分かっている。かの王に会っていたのではないのか?」
ライラのことを告げるか、悩んだ。ライラは夜の娘だと言っていたが、その存在は知られていない。そのまま告げるのは良くない気がして、夜の子どもと仲がいいとだけ告げた。
「かの王に子どもが居たのか……」
眉間に皺を寄せて父は黙り込んだ。父が思考するのを、大人しく待つ。時間は夕方で、夜の気配が刻々と濃くなっていく。窓の外にライラの気配が来たのを感じた。
「お前は昔から、自然に愛されている子どもだった。森に初めて行った時も、そうだったのか?」
「何がそうなのかは分からないけれど、歓迎するとは言われた」
「そうか。ここに残り、どうするのだ。お前はこれからどうしたい?」
「父上や兄上の手伝いをします。首都に行かなければならない父上達に代わり、領地のことを」
「私達が首都からあれこれ指示を出したとして、それを聞くのか? 夜の王達にとって都合が悪いことだったらどうする」
「そういうのは、聞かないと思う」
「受け入れられないと言ったら?」
「家を出ます」
父はため息をついた。
「しばし待て。お前の処遇を考える」