それが日常
雑なノイズが聞こえてくる。
頭のなかは空っぽで、体は満身創痍になっている。
それでも足を止めてはいけない。
階段を上り、屋上までたどり着く。
扉を開けると、辺りは暗く深夜だった。
奥のフェンスには大切な人がお腹を抱えて倒れ込んでいる。
血を流しながら、苦しそうに、息を切らして。
普通だったら駆け寄って助けるのが相場だろう。
しかし、今は違う。
近くにより、手の届く距離になると、その人は話しかけてきた。
『助けて……助けて……』
こちらを見ながら涙ながらに訴えてくる。
その顔は嘘偽りのない、顔だった。
なのに、助けない。
自分の手には銃が握られている。
『M1911ガバメント』、サプレッサー付きの代物だ。
それを更に改造してオートマチック性能を付けた。
拳銃にしては威力が通常より高く、今打てば、即死は免れないだろう。
スライドを引き銃口を向ける。
『あ……ああ……』
絶望した顔。
もう助からないと悟った瞬間。
未だに見慣れない光景だ。
『助けて……タスケテ……』
いつの間にか顔の半分が真っ黒に染まっていた。
これが殺さなければならない理由。
知らないうちに黒化が進んでいたらしい。
『さよなら、お疲れ様でした』
『嫌だ…止めてくれぇぇ!』
すでに黒化された手を伸ばし、掴もうとした。
3発。
それで運命は終わった。
軽い音を立てながら。
人の命は簡単に終わってしまう。
『……』
静寂が再び訪れた。
近くには死体が在るだけ。
体を調べてみると、爪先から胸半分が真っ黒に染まっていた。
これ以上進んでいれば、やがて暴走しただろう。
これが末路。
黒化に犯されてしまった人間の末路。
ヘリコプターの音が聞こえ、ライトが照らされる。
ロープが降り、武装をしてた男が数名出てきた。
『後処理は任せたよ』
『了解しました』
ロープに捕まり、引き上げられる。
席に着くと、自然とため息が出てしまった。
いや、これは安堵のため息だろう。
今日も生き残ることができた。
ヘリコプターが揺れながら、帰宅をした。