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2話

 目覚めるとそこは自室のベットの上だった。

 目覚まし時計の音が鳴っているのでもう朝だということは分かるが、桜子の頭には昨晩の記憶がまるまるない。

 夕食を食べた覚えもお風呂に入った覚えもなかった。


 「夢…?」


 口に出しては見たものの夢だったら昨晩のことを覚えていないわけがない。



 「はぁ…」

 「何?あんたが溜め息する程の悩みでもあるの?しかもまだ朝だよ?ホームルームすら始まってないよ?」


 正直学校を休むのも一つの手だったが周りに無駄な心配をかけさせまいとした桜子の思いはこの一息で意味がなくなった。


 「ごめんなさいね美奈。ちょっと疲れてるだけだから。」

 「何か困ったこととかあったら遠慮なく頼ってね?ひょっとして男絡み?」

 「そんなわけないでしょ。」


 あながち間違ってはいないが、即刻否定した。


 「そういえば今日転校生が来るとか噂聞いたよ。男でイケメンらしいよ!」

 「転校生?高校でも転校する人とかいるんだ。しかもこんな時期に。」

 「そうだねーやっと梅雨もあけたのに夏休みまでまだ1ヶ月もあるこの時期に。」


 愛想笑いをしたと同時に始業のチャイムが鳴ったがこのクラスに転校生などは来なかった。


 「桜子、隣のクラスに転校生来てたよ!しかもなかなかのクールガイだぜっ!お、噂をすればってやつだね、廊下見て見て。」


 廊下を見るとそこには昨日の少年がいた。

 よく良く見てみると確かにカッコイイ気もしたが、その顔は悲しそうな顔をしていた。

 まじまじと少年の顔を見ていると視線に気がついたのか桜子の存在に気がついた。

 想定外だったのか桜子を横目でチラチラ見ながら少年は、挙動不審に廊下を歩き始め、やがて教室の中に足を踏み入れた。

 転校してきたばかり少年が自分以外の教室に入って来たことに皆驚いたのかざわめき始めた。

 少し歩き方がぎこちない少年は桜子の机の前で足を止め、前かがみになった。

 少年は桜子の耳に口を近づけて一言言って来た道を戻っていった。


 「あんた転校生と知り合い?」

 「知り合い…というか昨日ちょっとね。」

 「ふーん。で何言われたの?」

 「昼休みに屋上に来いだって。」


 すると美奈は桜子の肩を両手でがっしり掴んだ。


 「あんたにも春が来たね!」



 昼休みに屋上に向かう途中、階段に立ち入り禁止と書かれた張り紙が視界に入った。

 昨日のことを他の誰かに聞かれないためにあえてここを選んだのかと思い、気にせずに階段を登った。

 階段を登りきると明らかに蹴り飛ばされたと思われる扉が屋上に転がっていた。

 立ち入り禁止しているくらいだから鍵くらいはしてあるとは思っていたがさすがに方法が荒っぽい。

 屋上に出てふと空を見ると一面雲に覆われていた。

 空を見たままボーッとしていると横でノックする音がした。


 「早速ですまないが昨日の事どれぐらい覚えている?」


 扉を破壊したと思われる少年は壁を背もたれにして座り込んでいた。


 「そ、それよりもこれどうするんですか!こんなに曲がっちゃったらさすがにバレますよ?」

 「うるさい。まさか鍵がかかってるなんて思わなかったんだよ。いいさどうせこの町はあと三日だ。」


 この町はあと三日、少年は確かにそう言った。


 「ど、どういうことですか!あと三日って…」

 「先にこっちの質問に答えろ。話はそれからだ。」


 桜子は少年に覚えている範囲で昨日の出来事について語った。


 「俺に助けられたことは覚えているけどそこから今日の朝までの記憶はないと、なら呼んだかいはあったな。」


 少年は立ち上がり、説明を始めた。


 「え、じゃ、じゃあ昨日の怪物…ライズにこの町が襲われるってことですか?」

 「あぁ。しかもそのことを誰も認識出来ないまま、あんたみたいにやつらを認識することができる人間の方が特殊なんだよ。まぁあと三日有意義に過ごしてくれ。」


 そう言って少年は立ち去ろうとしたのでその腕を握って足を止めさせた。


 「待ってくださ…い?」


 桜子が握った腕は硬かった。

 男の人の腕だからとかそういうものではなく人間の腕の硬さではない、別の何かだった。

 一体この腕は何だと考えていると少年が口を開いた。


 「これ、義手。やつらを倒すため専用の義手だ。でまだ何か聞きたいことでも?」

 「き、昨日みたいにあなたがやっつけてくれないんですか?この町を救っていただけないのですか?」

 「無理だ。さっきも言ったけどやつらは別の世界とこっちの世界をリンクさせて俺達を喰らう。俺から攻撃は仕掛けられないから誰かを…昨日ならあんたを餌にしてやつらを狩っただけだ。言い忘れてたけどこのことは誰にも話すなよ?ライズは見なくても一度認識したら見えちまう。恐怖して死ぬのはお前だけで…すまん。言い方悪かったな。でも俺にもどうしようもないんだよっ!」

 少年は壁に穴を開けた。

 全て理解した。

 さっき見た悲しそうな顔の原因はきっとこれだ。

 少年は正義のヒーローにはなれない。

 悪を倒した時にはもう手遅れ、全員喰われ一人そのことを悔やみ続けるのだろう。


 「で、でもそれなら今すぐ自衛隊とか国民全員にライズのことを知ってもらえれば…」

 「残念だがそれは不可能だ。自衛隊にもそれを狩る専門のグループがあるとか噂では聞いたことあるが、国民全員は無理なんだ。かつてそれをやって一つの国が滅んだ。認識出来る人間を増やすのは駄目なんだ。これに関してはこれ以上は何も言えない。すまない…」

 「こちらこそすいません。そんなこと出来たら最初からやってますよね…」


 これ以上は何も聞かないことにした。

 少年は冷酷な人間でも何でもない…ただこの世界を救うために頑張っているという事実だけで桜子は充分だった。


 「前、前もあんたみたいな事例があった。そいつは命乞いをして来た。助けてくれと。せめて自分だけでも守って欲しいと…けれど俺の相方はそれを許さなかった。結果そいつは俺の相方に殺された。」

 「いいんです。私はあと三日それだけ過ごせれば充分です。」


 少年は少し驚いたのか目を丸くした。


 「怖くないのか?」

 「怖いに決まってます。あんなのにもう一回襲われるって考えただけでもう…でも、」

 「じゃあ!」

 「でもあなたの方が私よりも辛いからです。救いたくても誰も救えない、自分だけ助かるなんて私には耐えられません。罪悪感で潰れちゃいます。」

 「変なヤツだな。」


 そういって少年は始めて笑みを見せた。

 桜子は知らなくて当然だが少年がこんな自然な笑顔をしたのは幼い時以来、少年は桜子、いや人間に少し心を開いた。


 「俺は紫音だ。」

 「雨木桜子と申します。あと三日間よろしくお願いしますね。」


 雲に覆われていた空が少し晴れたような気がした。

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