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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
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第5話 自分で自分を殺したい

 

 

「あぁあ死にたァいッッ――!!

 さもなければこの出会いを最初からやり直したい。

 無 か っ た こ と に し た い!」


 未だなんていう名前なのかも判明していない某街の橋の下。

 一人の男が恥辱にまみれて悶絶し、死にたいと願いながら悲鳴をあげていた。


 俺である。ええ、もちろん。


「剣から聞けってそういうことかァアア!!なんか達人的なもんを期待されてるのかと思ったら言葉通りの意味だったァッ――!喋るんだ、普通に!!?」


『フッ……まぁまぁ。よいではないか我が主よ。私も堅苦しい奴よりは、貴様のように思考が分かりやすいやつの方がやりやすい』


「あ、もうなんか下に見られてるゥ!使う側のはずなのに既にフォローされるポジに回ってるよ?!誉めてないよねそれ!」


『そもそも剣の扱いに関しては、主は完璧に素人なのだから、その扱いも仕方あるまい。少なくとも当面しばらくは、剣を振るだけで当たる相手以外には私のフォローが必須のはずだ。まぁ、私も普通ならば欠陥品だそうだからな。使い手に関して文句は言わんさ。せいぜい仲良くやろうか、マスター』


「ん。あ、ご丁寧にどうも。よろしくお願いします。――――って違う!」


 つい雰囲気に流されて剣に向かって頭を下げてしまうが、俺が言いたいのはそういうことじゃない!


『なんだ?不満なのか』


「いや、剣の扱いに関してはそりゃ確かにド素人だから口を出されるのに文句はない!・・・むしろありがたい!しかし!自分の剣に持ち主がバカでもまぁいいかと思われるのは別だ!確かにバカかもしれんがあれは違う!異世界に来たショックとか不安で自分を冷静に見れてなかっただけだ!忘れろ!・・・お願い!」


『マスターが言うのならそうしても構わんが。別によいだろうあのぐらい。・・・ふっ、人間なのだ、嬉しければ羽目を外したい時もあるだろう』


「は、鼻で笑いやがった!お前のその『わかってるから』みたいな態度が気に入らねえ!最初に声を掛けてきたとき自分がどんっだけ冷たい声出してたかわかってんのか!一生トラウマが残るレベルだぞ!」


『やれやれ……細かいことを気にする男だ。気に障ったなら謝ろう。人の機微については鋭敏に察せるようには作られていないものでな。許せ』


「ぬぅ、まだ大分上から目線な気がするが……。……いつまでも言い合ってても仕方ないからいいか、まぁ。・・・はぁ…………ああ、よろしく頼むわ」


『うむ』


 尊大な剣に友好条約が認められた。

 一応自分の使い手として敬う、というか引き立ててくれる意思はあるらしい。


 主とさえ認められないよりは幾分マシな扱いなんだろう。


『マスターが居なければ薄暗い倉庫の中で埃を被っていたかも知れない事を思えば、こうして外に出て話ができるのは僥倖以外の何物でもない。何はともあれ、それが嬉しい。貴方には感謝している。ありがとう、マスター』


 と思ったら何故だか急に感謝された。

 婆さんに席を譲ったら警察署で表彰されたぐらいの唐突さである。


「あ?よせよ知り合ったばっかりなのに。まだ俺がどんな奴かなんてわからないだろうし、俺だってお前がどんな奴かはまだわからない。やたらと偉そうな癖に、これっぽっちも大したことない事で感謝するおかしな奴だと思われてんだぞお前。今んとこ」


 そんな事で感謝されては背筋が痒くてしょうがないので、手を振って否定する。 


「そもそも俺はまず、自分にそんなとんでも能力が本当にあるのかさえ信じきれてないからな!感謝を口に出すならせめて、二人でなんかでかいことやらかして、俺が心の底からお前が相棒で良かったと思うぐらいになってからにしろよ。触れるってだけで有り難がられるなんて、こっちからした逆に有り難みも糞もないってもんだ」


『………………なるほど』


 これから長い付き合いになりそうだから、ここはビシッと言いたいことを言ってやると、驚いたように呟いて黙りこむエルギヌス。


「なんだ?何か他に言いたいことでもあるのか?」


『いや……驚いただけだが、そうか。……私は思いのほか、得難い主を得たのかもしれぬと思った。主となる者が如何様な者でもこの意思ある限りは尽くすつもりではあったが、反りが合わねばその甲斐もない。貴様は何も考えていないようで、私の知らない何かをよく知っている気がする。もう一度言おう。貴方がマスターになってくれて良かった』


「う、うぉおおお!?だからよせって!さ、最初にハードルを上げられると後が怖い。じんましん出そう!・・・あのな?俺はお前のことをまだ便利グッズぐらいにしか思ってなかったんだから、お前もそのぐらい気楽にやろうぜ?な?」


『ああ、せいぜい励むさ』


 表情はわからないが、小さく笑われた気がする。


 まったく、何を考えているものかと剣の刃をじっくり眺めてみるが、当然のことながら何も読み取れない。

 占い師じゃないんだからそりゃそうだ。


 とか思っていたら、エルギヌスがひとりでに剣の形を失い、炎へと戻っていく。


「……あ、あれ?お前って勝手に出たり消えたりできるの?」


『マスターが強く望まない限りは、自由意思で形態を解除できる。…………が、今は少し思うところがあってな』


 手持ち無沙汰になったので拳を開く。

 炎はどうせすぐに消えるんだろうと思っていたら、違った。


 俺の前で集まって、ある形を作り上げていく。


「お?・・・おおぉ!?もしかしてお前って……」


「その通り、人間の姿を取ることもできる」


 炎が集まって作ったのは、人間の少女の姿だった。

 俺の前には今、見たこともないような美少女がぴんと背筋を伸ばし、不敵な微笑を浮かべて佇んでいた。



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