第4話 班長「訴訟も辞さない」
「うむうむ、よきかなよきかな。えーそれでは!無事交渉もまとまったところで私はこの辺りで。エルギヌスの事は滅多な事じゃ傷一つつかないタフな奴なので、ご自由に使い倒してやってください。――――では!」
「……いやいや?ちょっと待って待ってゴッド。プリーズ!ヘイユー、プリーズヘルプミー!」
なにやら早速後ろ手に手を振り、俺をこの場に残して唐突に帰ろうとする神様を慌てて止める。
気が速すぎるだろ。流石に。
「何か?」
「いや、『何か?』じゃないでしょ、俺を異世界に送り込んだ張本人の神様よ。あいや待たれい!この世界の説明とかあの剣の使い方とか、もうちょっと色々やって欲しいことがあるんですが。そもそも剣って言うけど消えちゃったし」
「ああ!それなら心配には及びませぬよ。既に貴方とエルギヌスは契約を結んでいます。念じるだけで神界の宝物庫からいつでもその手の中に召喚可能です。使い方やこの世界の事などは直接本人、いや本剣に聞いていただきたい。いやほら実は私ね?研究スケジュールをほっぽりだして貴方とコンタクトしに行ったので早く帰らないと部下が激おこっぽいのです。――では!
アッーヤバイ!セスジガゾクゾクスルー!!」
「ちょっ!?」
悲鳴っぽい独り言を言いながら瞬時に足元から消えてしまう神様。
取り残されて手を伸ばしたまま途方に暮れる俺。
この瞬間、俺の異世界ぼっちサバイバルが決定したらしい。
「……………え?マジでこれから異世界で俺一人?・・・部下よりまず俺がおこだよ?ムカ着火インフェルノォォーーウ!だよ?」
返事がない。
俺の心がしかばねになりそうだ。
とてつもない不安と絶望感が襲ってきてるんですが。
「こ、言葉とか通じるの?今晩どこで寝ればいいの?」
やばい。
考え出したら不安要素にキリがない。
少しの間立ち尽くしていると頭の中でまた声がした。
『うぼあー、忘れてた!あっぶねー!これ!はい!路銀!とりあえずの生活費として使って下さい!』
いきなり何もない空間から手が伸びてきて、小さな巾着袋を手の中に押し付けてくる。
不意をつかれた俺が咄嗟に受け取ってしまうと、本当にそれっきり声はしなくなった。
「神様……色々せっかちというか、杜撰過ぎやしませんか」
なにか目から汁が溢れそうな気持ちになりながら、それでもとりあえずは間違いなくありがたいものを貰ったので、袋の口を緩めて中を確認する。
「…………oh……!」
中には金銀青銅さまざまな硬貨が入っていた。
紙幣はない。ないが多分そういう世界なんだろうきっと。
俺は神様を信じてる。信じる者は救われる。
当然価値はわからないが、さすがに子供のお小遣い程度の額をこれから異世界で生活していく経費として支給されたなら、俺は泣きながら反逆を企てる。
コードギアス反逆のウエスギになる。
「とりあえずこれで、最悪夜は野宿でも買い食いしながら異世界観光ぐらいはできるか。えーじゃあやっぱ当面の問題はあれだな。・・・うん。…………ち、チートの確、認?」
なんていうかこう、言葉にも引きつった感じで自信がない。
神様が言った内容が、嘘偽りジョーク等の成分が含まれない心からの真実だとはどうしても思えないのだが。
かといってそれが間違いだったなら俺は間違いなく、ただの特技のない、駆逐艦娘全員をスカートで見分けられる程度だけの能力しか持たない凡人だ。
どうにかして農民として清く正しく生きていく方法を探すしかない。
これから進む方向を決めるためにも、俺が本当にチート主人公(笑)なのか確かめる必要がある。
「念ずるだけで呼び出せるって言ってたな……!」
妙な緊張にごくりと唾を飲むが、まぁ当然と言えば当然かもしれない。
この儀式の結果如何で、俺が一生あれだ(意味不明)。
コネも能力もない社会的底辺のび太くん道をさ迷うか、それが決まると言っても過言ではないのだから!!(迫真)
「……………よし。出てこい、・・・あの・・・・・剣!」
神様が言っていた名前もうろ覚えだったので、大ざっぱすぎる非固有名詞で呼び出したところ。
・・・意外にも、それはあっさりと現れた。
「――――お?おわぁあああッ!!?」
軽く握りながら突きだした俺の右手から青い炎とスパークしまくる火花が勢いよく噴き出し、瞬く間に渦となって燃え上がる。
その映像に呼び出した張本人がビビりまくっているが、実際熱いということはなく、炎が拳の間を通って上下に噴出しても大丈夫だった。
炎は一度大きく延び上がったあと、のたうつように縮んで俺の手の中に収まった。
そしてそこには、俺の右手には、確かに。
先程見た、一振りの剣が握られていた。
「お、おおおぉおおぉ!?・・・や、ヤバい!今のは流石にカッコ良くないですか俺!?いや凄い!ジッサイ凄い!ハラショー!」
興奮のあまり剣を上下にブンブン振りながら、誰に言うでもなく自画自賛。
危ない人?え?
剣を持ってる以外、ぼっちには日常の風景ですが???
偉い人の考えるコト、僕にはヨクワカラナイ。
「本当に……っ、マジで出来ちまった……!いいのか?喜んでいいのかコレ?いや良いんだよな!喜んでいいんだイヤッホーい!」
『マスターよ、貴様……何をやっている?』
「……………へ?」
頭の中で突然他人の声がするという、かなり最近のデジャブを感じる現象に、沸いていた頭の温度が急速に急降下して手元まで帰ってきた。
剣を振り上げ腰に手を当てその場でくるくる回る、という他人に見られたら自殺ものの行為を他人に見られていた可能性が高まり、手の中の刃物が急に自殺用具に思えてくる。
恐る恐る周囲を見回しても、誰もいなかった。
けれど、ほっとため息をつく気分には……なれなかった。
「噂で聞いたんですけど、異世界では人を殺しても土に埋めれば罪はノーカンって本当ですか班長?『本当だよ!(裏声)』よっしゃ、ノーカンノーカンノーカン脳菅」
極度の混乱と焦燥という悪質なステータス異常に陥り、不穏な呪文をまくしたてながら、怪しい段ボールが目の前を横切った兵士のようにぐるぐると際限なく周囲を見回す。
だが、居ない。
声の主が。最優先殲滅滅殺目標が。
「イナイ、エモノイナイ、ドコイッタ◯ス」
『…………どこを見ているマスター。私は貴様の手の中だ』
どこからかプレデター的なものが乗り移ったテンションだった俺は、犯人の自供を聞いてネクストコナンズヒントの扉みたいに首をぎしぎし軋ませながら手へと視線を向けた。
そこには当然、さっきわらしべ長者的に手にいれた剣が現在も握られている。
「・・・ま、まさか……!まさかそんなァ……っ!?」
『ああ、そのまさかなんだろうさ主よ。私は貴様の剣だ。神剣エルギヌスには己の使い道を誤らせぬよう、喋る取り扱い説明書が付属している。そう、あの頭の螺子が幾本飛んでいる制作者から聞き及んではいなかったか?』
聞いてねェェーーーよ!!
・・・・聞いてたらあんなことするかァ!!
ああ……これがいわゆる怜悧な声というものなのだろうか。
やたらすっぱりさっくりバッサリざっしゅりと、まるで竜宮レナお嬢さんの振り回す鉈みたいに異様なほどのキレ味を感じさせる女性の声は、確かに俺の手元から聞こえてくる。……ような気がする。
実際は頭の中に直接響いているのだが、喋っている本人も認めているようだし、やっぱりこいつがそうなのだろう。
つまり俺が手にしたエルギヌスという剣は会話が可能な、別の言い方をするとファンタジーによくある“意思を持った剣”ということだ。
そしてその主となる俺は、早速自分の剣の前で持ち主としての威厳を見せるどころか、醜態を晒してしまったというわけだ。
フッ………。もう嫌だ、やめたい。
前略神様、この契約にクーリングオフは適用できますか?