第3話 やめさせてもらいます
「これまでまったく気付いてこられなかったようですが。貴方にはこの世界における通常の人間の、数億倍という馬鹿げた魔力内蔵量があります。あなた方流の言い方をするならばえむぴぃというのでしたかな?」
「……………………………は?」
神妙な顔で告げられた内容を真剣に吟味した結果、顔面が崩壊した。
いやごめん元々かもしんない。
「異常……というより、そうですな。もはや歩く天災のレベルだと言っても過言ではないでしょう。正直言って私の剣を振るうまでもなく、普通に魔法を使ったところで街を一つ二つ、いとも簡単に吹き飛ばせるでしょうな。どうしてそんな能力が身に付いたのか興味の尽きぬところではありますが……」
「い、いや…………冗談、ですよね?」
「ええ。そうですね。むしろ私の方が貴方の存在に『冗談ですよね?』と問い返したいところなのですよ」
何故かSANチェックの必要を感じる完璧に無垢な笑顔を向けられた。
「貴方がとらっくとやらのせいで死んだ際に、よく内包された魔力が暴走し、次元断裂を引き起こして世界が崩壊しなかったものです。土下寝して復元を頼んだ冥界の神も非常に苦労したらしく、内包された魔力全ては集めきれなかったようです。まあそれもすぐに、復活した貴方の体内で再生成されたようですが。『・・・邪神か何か復元しているんじゃないだろうな?』と疲れた声で言われました。彼もやはり、人間がこれほどの魔力を持っていることが、最後まで信じられなかったようですね」
「あー…………………これ、笑うとこですか?」
いや、もう。わかってる。
質問するのが怖い。
「ええ、ええ。それはもう。爆笑ものですね。もちろん私の話の内容自体は大真面目で、貴方という存在が、ですが。あなたを見つけてから、異世界、この場合は貴方の世界の神々に許可を取る際。私もいくつかの質問をして、仰天いたしました。『何故彼ほどの人材が普通に生活しておまけに死亡しているのか』と。そして答えを得て納得しました。割れるような頭痛も覚えましたが。貴方の世界には魔法という技能が全く存在していないのですね」
「えーと……うん、まぁ。・・・少なくとも俺の知り合いに使える奴は居ないと思います」
ゲームと妄想の中以外では。
「どうやら貴方の世界、地球とやらは、己の力の及ぶ範囲の魔法を全て消滅させるという、大変に稀少な能力の結界を有しているようです。魔法が発達しなかったのはそのせいですね」
「どんな幻想殺しだよ……くっそマジか。
幻滅しました那珂ちゃんのファン辞めます」
「地球の鉱石も持ち帰って研究したいところではありますが、私はそれよりも貴方に興味が尽きません。なぜ人間がこれほどの魔力を持ちえたのか。もし真っ当に魔法を扱えればどうなるのか。そうなった際、この力が世界に与える影響はどれほどのものか。非常に興味深い。狂おしいほどに。ですがそれを私の興味本位で研究するには、貴方という存在の持つ魔力の大きさは、人間世界にとってあまりにも危険すぎます。もし一度暴走すれば、魔王の跳梁すら遥かに凌ぐ災害を引き起こすでしょう」
「他所の家の話だ、きっと。うん。」
「そこで考えたのですが、私の欠陥試作品と貴方の能力の相性がとても良い。貴方ならあの剣、エルギヌスを使いこなせるのではないかと。いくら彼奴が魔力をバカ食いすると言えども、貴方の前では通常の魔具と変わりません。むしろ莫大すぎる魔力を暴走させないため、適度に消費する捌け口として丁度良いのではないかと。これぞお互いにwin-winの関係という奴ですな。そこで提案なのですが」
「アー、なんだろう。どうしてかな?その……………凄く嫌な予感が」
「如何でしょうか紫藤殿。貴方がこの世界で生きていく為に、きっとエルギヌスは役に立ちます。どうか私からの贈り物として、何も言わず受け取っては頂けまいか!人助け、いや神助けだと思って!ね?お願い!」
「あ、やっぱりそういう展開になるのね……」
貰えるもんなら病気以外は貰っとけ、なんて言う人もいるが、タダより怖いものはないとも言う。
何よりあの剣がかなりヤバい品だと聞いているだけに素直に頷けない。
「いやあの、本当に害はないんですか……?調子に乗って使ってみたら一瞬でATフィールドが崩壊したとか、そういうのってやっぱ、ね?もの凄く嫌じゃないですか…………!」
「もちろんその辺りの確認はしております。エルギヌスには安全の為に、まず己を扱うに足る魔力の持ち主かどうかを確かめる機能を付加しており、資格の無い者には触れることすら叶いません。具体的に言うと最初に触れたときに一定の、エルギヌスを振るうのに余裕を持って行使できる程度の魔力をその者が供給できない場合、魔力の結界で手を弾かれます。さらにエルギヌスは自動転移して姿を消します。ね?安全でしょ?」
いや知らんけども。
安全なのか?まぁ大丈夫なんだろう多分。
「理屈はまぁ、わかりましたけど。たまたま故障してて、俺が触ったときはその機能が働いてなかった可能性とか」
「先程まず私自らが試してみましたが、間違いなく選別機能は働いています」
試したんかい。神様でも試せるんかい。
やっぱそこはかとなくなんか、不安じゃ。
「……………何かの間違いじゃないんですよね?」
「幸か不幸か貴方は何の支障もなくエルギヌスを手にできました。証明としてはそれが全てです。ちなみに残念ながらお付き合い頂けない場合、この世界の安全も考えて貴方の体は本来あるべき土に還ります」
「脅迫じゃねーか!!」
「滅相もない。取引と言って頂きたいものです。さてどうなさいますか?夢いっぱいの異世界でチート主人公として新たな人生を始めるか、それともバッドエンドのひき肉ルートを受け入れるか。いーですよチート主人公!美少女奴隷とか軽く買って、たくさんはべらしちゃったりなんかしてウシシシシ」
通販の口上か。あと人の人生の結末を普通にバッドエンド言うなし。
ていうか神様としてそれで良いんですかアンタ。
「そもそもチートとか抜きでその選択肢なら一択じゃねーか!もうツッコミ疲れたわ。いい加減にしろ。ああもう………!……………わかりましたよ!」
神様にここまで言われては、というか俺の未来のためにありがたく受け取るしか道がない。
・・・えーそんなわけで。
こうして俺、上杉紫藤の微妙に意味不明なチート能力人生がスタートを切るのだった。