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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
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第28話 怪物王女

 

 真っ白い小さな手が、化物の頭……正確にはフードのある人間の服装としての頭部分を握りつぶした。

 これもフードを被って顔を隠していた子供が後ろからのしかかる様に飛びかかって、化物の体を潰す。

 勢いでフードが取れて、子供の頭があらわになった。

 それは燃え尽きた灰のような白い髪と陶磁器のような白い肌、そして鮮血のような真紅の瞳を持つ、信じられないほど美しい少女だった。

 驚きに声を上げるのも忘れ、ただその奇妙な光景を凝視するしかない俺。


 とはいえ化物は、それでどうにかなるようなものじゃなかったらしい。

 踏みつけた泥が跳ねるように、男のシルエットをしていたものからどす黒い何かが溢れ出てくる。


「なんだ、これ……?」


 モンスターにさえ見えない異質な何か。

 化物と呼ぶことさえ躊躇われる、液体と気体の間を行ったり来たりしているような、異常な・・・物質?


「ほう、喰われずに済んだか、運のいい奴よな。……いや待て、お前は……?」


 俺にとっては明らかにヤバいと感じられる相手に盛大にプレスをかけたというのに、少女の口元は嗜虐的に笑っていた。

 口元からのぞく八重歯が印象的に写る。

 が、その小さな体を囲い込むように黒い何かが吹き上がり、俺にそうしたように少女を捕まえようとしていた。


「ふん、貴様ごときに食らえる無月ではないわ」

 

 不愉快そうに言いながら不敵に八重歯を見せて笑った少女は、その小さな体から何かを放つ。

 暗器とかそういうものじゃない。

 目に見えない何か、少女の体から放出される力が狭い路地裏に吹き荒れる。

 恐らくそれは、魔力というものなのだろう。

 ビリビリと、呼吸さえも難しくなるほどの嵐が、俺の体を打つ。


「斬月!」


 叫びながら少女が腕を振るった。

 化物の体の一部が引きちぎられながら吹き飛び、霧になって消える。

 まるで巨大な怪物の爪に抉られたように。


 体が黒い霧になるその光景は、死んだゴブリンが魔力に還る瞬間によく似ていた。

 ということは、こいつもやはりモンスターなのだろうか。 


 俺の疑問をよそに、少女と化物の闘争は続く。

 飛び掛かる化物を何度か、少女の俺には見えない技が弾き返す。

 だが化物に致命的なダメージが入っているようにも見えない。


「ふむ、魔力の塊を当てれば散滅すると踏んでいたのだが、効果は十分ではない、か?……ならば!」


「うわ、なッ!?」


 少女が鋭い爪で己の手首を掻き切った。

 浅く、などというレベルを遥かに超えてどくどくと鮮血が吹き出す。

 だが自分の血を操っているというのか、少女の手首から流れ出した血が浮き上がってその手の中に集まっていく。


「強壮たる我が錬血よ、眼前の愚かな餌を食らい尽くせ!」


 少女が吼えるように叫ぶと、手の中の血が紅い玉になって渦巻き、そこに化物の黒い体が引きずり込まれるように吸い込まれていく。

 その光景は派手ではあるが、謎の影に抱いた恐怖を思えば想像したよりもあっけない決着だった。

 残ったのは少女の手の中に収まった、血が凝固したようなマッチ箱ほどの黒い結晶だ。


「他愛もない。外道の法とはこんなものか。いや、所詮は端の雑魚に過ぎんか」


 冷たい目で手の中の結晶を見て、少女はそう呟いた。

 そこで気付いたが、切ったはずの少女の手首は既に血が止まり、それどころか傷口さえも塞がっている。

 せいぜい、赤く腫れ上がったように肉が盛り上がって見えるぐらいだがそれもみるみるうちに回復し、すぐに真っ白な元の肌色に戻っていった。


「さて」


 少女の瞳がこちらを見る。

 美しい瞳だが、深紅の瞳は見つめられるだけで不安になる。

 頭の底まで見透かされて、いや暴かれているような気分だ。

 蛇に睨まれた蛙とはこの事か。


「貴様……何者だ?」


「え?」


 それはこっちが貴方に聞きたいんですけど!

 まさか転生者と答えるわけにもいかず、ひきつった曖昧な答えを返す。


「何者とい、言われても……?」


「自分の力に気付いていない?いや、嘘だな。下手な芝居は止しておくことだ。貴様からは強力な神の加護を感じる。これほどの力、主神クラスの名の有る神格の加護のはずだ。どこぞの神に確かに入れ知恵されているはずだぞ」


 少女の言葉に心臓が跳ねた。

 俺の境遇を見抜いている?まさか……。

 

「潜在力こそ凄まじいが、とはいえ所詮はまだ羽も生えきらぬひよこの脆弱さよな。だがいずれ邪魔になってもうざったい。いささか都合の悪いところも見られた……ここで殺すか?」


 真っ直ぐな視線に射すくめられたように体が動かない。

 剣呑な言葉に逃げるべきだとは思うものの、それすら思い付かなかった先程と違って、今度は金縛りにあったように指一本動かせないのだ。

 声も出せない。

 こ、これじゃ、エルを呼ぶことも……!


「――――何があった、マスター!」


 静かな静かな絶望を……青い炎が焼き払う。

 手の中に炎が収まり、それは一本の剣へと形を変えた。

 炎と共に自分の中の勇気まで帰還したみたいに、凍りついていた体が動くようになる。


「え、エル?どうして……!?」


「我々は一心同体だ!主に危機が迫る気配有らば千里先からでも駆けつける。それが交わした契約だ」


 あんまり答えになってないけど、なんか涙が出そうなほど嬉しいんですけど!

 勇者が助けに来たヒロインというのはきっとこんな気持ちなんだろうな!

 ポジションがまるっきり逆だけどな!


「よくわからんけど、なんか殺されそうかもしれない!」


「曖昧すぎる!?」


 シリアス空気が一転、ツッコミを入れられてしまうけどしょうがない。

 だって俺もまったく展開についていけてないのだから。


「ほう、随分と美味そうな助っ人がついているではないか。この莫大な神気、その剣、神剣か……?それも極上の一振りに相違あるまい」


 一睨みでエルの事を察してしまう少女。

 おいおいおいおいマジで何者だこの娘、隠しチートのつもりが見た瞬間看破される異世界転生とか聞いたことねーぞ!


「エルさんエルさん?ぶっちゃけ俺は何が起きてるのかさっぱりなんだけど、あの娘……なんなんだ?」


「どうして今来たばかりの私が当事者に状況説明を求められるのか。やれやれだ、未熟な使い手を持つと苦労する……む?」


「食いでがある、と言いたいところだがな神剣よ。私を狩ると息巻くにはいささか使い手が役不足過ぎるのではないか?」

 

 にぃ、と少女が薄く笑うと、肌を無数の針でなぞられるような禍々しい気配が路地に満ちる。

 エルが何かを察したらしく、苦笑いというには苦々しすぎる感じの怒りを抑えたような声で聞いてきた。


「……お、おいマスター……?何だこれはどういうことだ?な、何をどうすれば、こんななんでもない地方都市の路地裏で、正真正銘の吸血鬼に行き遭う事ができるのだ?貴様疫病神にでも憑かれているのか一度教会でお祓いしてもらえ!」


「憑かれてるどころかその人神様の加護もらってるらしいですよ!って……な、何!?吸血鬼ィ!?」


 ドラゴンさんと並んでファンタジーお約束の強敵筆頭さんじゃないですかやだー!

 いや……え?ギャグっぽく言ってるけど割とシャレにならんよなこの状況?


「それもそんじょそこらの雑魚吸血鬼など束になっても相手にならん高位の気配がするんだが、こ、これはさすがにすまんマスター、貴様死ぬかもしれん……」


「え?ちょ、軽くない?じょ、冗談だよな?」


「信じて送り出した新人冒険者が、最初の街でいきなり魔王に名刺渡されているような理不尽な状況なのだ!な、なんだこれは!私にどうしろと言うのだ!」


「俺だって好きでエンカウントしたわけじゃねー!ど、どうなってんだこの世界はよォ!?」


 さして興味もなさそうに俺たちのやりとりを眺めていた少女が、付き合いきれないと言わんばかりに一歩踏み出す。


「茶番はそれで終わりか?ならばそろそろ往くぞ、神剣とその討ち手よ!せいぜい足掻いて私を楽しませてみせろ!」


 こうして唐突に、森を歩いてたら野生のバルバトスに遭遇したぐらい唐突に、かなりヤバい感じのボス戦が幕を開けた。

 俺はいったいどこで選択肢を間違ってしまったのだろう?

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