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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
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第2話 神様「チョリース」

 

 道端の落し物一つに不思議な踊りをさせられた俺は

「・・・今の一部始終を誰かに見られてたら死ねるな」と。

 冷静さが戻ってきて急に恥ずかしくなってきた。


 しかし、大丈夫なのだろうか。

 俺の頭がおかしくなったのではないのなら、今の夢みたいなのはそれでもやはり、実際に俺の体に起こった出来事で間違いないはずなのだ。 

 光が消えた右手を、ごくりと唾を飲んでじっと観察する。



 と、それはまたまた唐突に起こった。

 俺の正気度を削りに来ている。絶対。


 ねえ世界ちゃん?最近冷たいけど、俺、なんかした?


『始めまして異世界の方ー。私この世界で知恵の神をやっている者です』


 突然、頭の中に声が聞こえたのである。

 周囲を見回しても、それが当然のことであるかのように誰もいない。


 正直、マジで頭がおかしくなったのかと最初は絶望した。

 しかも相手が神様名乗ってたししょうがない。


「だ、誰もいない……。げ、幻聴か?あー、そっかぁ。なるほどなぁ。やっぱ俺、頭か心の病気なんじゃ――」


『いや、違うんですよ。まぁいきなりの事だから、そう思うのも無理ないんでしょうけど、ね?』


「ぎゃ、ぎゃああああぁ!?や、やっぱり誰かいるゥ――!?」


 虚無の悲しみに暮れているところにまた声がして、ぶわぁっと背筋が総毛立つ。

 いい加減、俺のSAN値はもう限界だ。

 この中にどなたか精神分析99を持った探索者のかたはいらっしゃいませんか!


『ああ、また驚かせてしまいましたか。うーん、これはよくないなぁ。ではこうしましょう。姿を見せれば貴方も少しは安心するでしょう』


 もはやさっきからほとんど腰を抜かしてへたり込んでいた俺だが、一瞬目の前が光ったと思ったら知らない人がそこに立っていた。

 あまりにも……そう、信じられないことが起こりすぎて・・・もう、どんな顔をすればいいのかわからず、頭が真っ白になって固まっていると、現れた人物が手を差し出してきた。


「……あ、あの……?」


「あぁ、どーもどーも。いやぁ、驚かせてしまったようで申し訳ありませんね。ですがこのまま話をするのもなんですので、ひとまずは立ち上がって頂きたいものですが」


 言われるままにおずおずと手を取って立ち上がりながら、人物をまじまじと観察する。

 大変な美貌で、背の高い中性的な印象の女性だった。


 金の髪に金の瞳。

 長い髪を頭の後ろで三つ編みにしており、右目に漫画の執事がするような単眼鏡モノクルを付けている。

 服は白いゆったりとしたガウンを羽織っており、ローマ人みたいなサンダルを履いていた。

 どう考えても俺の考える現代人の衣装じゃない。

 なんていうか・・・天使とか、えと・・・そ、それか、か、神様?


 切れ長の目や顔立ちはとても理知的な人物であると感じさせるが、表情や物腰はひどく柔和というか、フランクだ。


「私もつい興奮してそちらの承諾も得ずに召喚してしまったわけで、ま、一から説明が必要でしょうなぁ。先程も申し上げた通り、私が貴方をこの世界に呼び出しました。つまり、この世界は貴方にとっての異世界というわけですね。で、私はこの世界に数多存在する神々の一柱です」


「い………異世界…………。」


 貧血を起こしたように頭を抱える俺。

 いや、たしかに思い当たる節はいくつかある。

 なるほど、そうか。ここは本当に異世界なのかもしれない。

 見たこともない場所もそうだが、あの剣や目の前の美女が突然現れた事とか、そうでもなければ説明がつかないことが多い。


 しかしそうなるとなんだか、今まで以上に現状を不安に思う。

 別に地球にこれといって愛着があるわけじゃないけども、だからといっていきなり遥か異世界に連れてこられたと言われると……ねぇ。

 どうも思ったより、人間はショックに感じるらしい。

 故郷というのは偉大である。


「いやいや、それはまぁ、大層ショックに感じられるのも無理はないのですが。どうも忘れておられるようなので、もう一つショックな事実を思い出して頂かないといけないようです。実を言うと貴方なのですが……元の世界では既に死亡しています」


「――――ファッ!?」


 衝撃的すぎる真実に、口が勝手に鍵盤ハーモニカみたいな音を出した。


「じどーしゃとか言う鉄の箱に、馬がするみたいにひき殺されたとか。実は私もよく分かんないんですけど。確か、とらっくって言うのでしたか?貴方が遭遇したのは一際大きいもので、それはもう酷い有り様だったと聞いております。なんでも踏みつぶされたヒキガエルのようだったとか。おぉ、くわばらくわばら!」


「え!?ちゃちちちょちょちょちょ!ちょっと待って!?――死んだ!?お、お、俺が死んだ!?じゃじょ、じょじじょゃあここにいる俺は!?」


「勝手ながら私が冥界の神に頼んで復元した、いわば模造品フェイクですな」


「なんてこったい・・・」


 神様は神妙な顔で、恐ろしい事実を告げてきた。

 機会があったら堕天を試みるかもしれない気分だ。


「異世界で死んだ人物の魂を呼び寄せて復活させるなどというのはかなり横紙破りな行為なのですが、生きている人間をこちらの都合で召喚するなどはもっと問題ですから、止むに止まれず。とはいえ気にせず行ってしまう神も昨今は多いようなのですが。他人の振るまいには目くじらを立てるが、自分の行いには頓着しないというのは、いかにも神らしい所業ではございますがなぁ。うむうむ」


 なにやらしみじみと語る神様の言葉は置いといて、死んだっていうのはなんだ!?

 俺が死んだ!?

 今の俺は偽物!?どういうことだ!!


「う……うむぅ。やはり混乱なさるのも当然ですかな?あ、偽物というのはそう深く考えなくてもよいのです。今の貴方の体に関して言えば、貴方は一度完全に死亡しているわけで。それを元に作り直した現在の貴方は生命の一回性から見ると、けしてオリジナルの貴方ではない、ということになります。故に偽物という表現を使いました。ですが貴方から見れば自分が本物であると、そう考えて頂いて差し支えありません。死んだ体から新しい体に意識を載せ変えられたということですな。人間をその人間たらしめるのは、肉体よりも結局は記憶です。貴方は今、上杉紫藤という人間の記憶を持つ唯一の人物ですから、本物を名乗って否定する者はおりませぬよ。無論のこと私も否定しません」


 長い!説明が長くてしかも難しい!


「……え?・・・い、いや、あ、あの?多分俺って見た目よりずっとお馬鹿ちゃんなんで、難しい話はほどほどワサビ抜きにして欲しいんですが。つまりようするにええーと・・・俺はいっぺん死んで生き返らされた、と考えていいんですか?」


「ええ。紛れもなく。それこそが要点ですな。付け足して言わせていただくならば、元の世界での貴方が既に死んでいる、というのも事実であり。これからの貴方は強いて今までの自分であることに縛られる必要はない、ということでしょうか」


 ん?なるほどそういうことか。

 つまりは……よくわかんないです!


「残してきた家族や友人について案ずることはないし、死んだのは自然の摂理ですから変えることもできない。私の話にお付き合い頂くならば、これからはまったく新しい人生だと思った方が気も楽でしょう。それだけの話です」


「え。新しい……人生?・・・あ。いや、そうだ!そもそも、どうしてこんなことを?」


「それがですな、貴方には私の実験に少々力を貸して頂きたいのです」


「実、験?」


 なんだかとっても、・・・その、アレだった。


 心がウキウキワクワク……ドキドキバクバクブクブクビクビクするような凄く不穏な響きである。


「ええ。私は神々の中でも、有事の際に人間に与える宝具の作成を行う役目を与えられています。例えば、戦乱や魔王の出現において、世界を救う英雄に神々の力で作った剣を与えたり、人々を蝕む呪いを祓う薬を作ったりなどですね」


「はえー……」


 スケールがでかい。しゅごく。

 逆に言えばそれと俺になんの関連が?

 薬の材料にされるとかじゃありませんように。

 せめて耳垢とかにして体のパーツとか内臓とか要求されませんように。


「神の力の強さと人間の世界の均衡を考えて、これがまたなかなか試行錯誤の繰り返しなのですが。その中で一つの非常に強い力を持つ試作品が生まれました。それこそ、貴方が先程手にした剣なのですが」


「……へ。……………あばばーっ!?・・・い、いやでも、あれは、ホラ!?・・・・・・・ね?」


 何が「ね?」なんですかねぇ……。

 弁償不可避。


「消えたのは貴方を、自分を扱うに足る力を持つ主だと認め同化したからです」


「ち、力ぁ!?な、何じゃそれ、ないない!俺はそもそも普通の学生ですしおすし!!」


「試作品と申し上げましたが、実を言うとあの剣は、人間が扱うには魔力を食い過ぎるのです。力は非常に強力ですが、その力を発揮する為には莫大な魔力を消費する必要があります。それは通常の人間であれば一振りするだけで昏倒し、全力を尽くせば魔力を全て奪い取られ魂の崩壊を招く……肉体が塩の柱に帰るほどです」


 え。――――怖っ!!

 なにそれ!怖ぁっ!!


「そこで貴方の出番ということですね」


「!???!?」


 ファッツ!?


「これまでまったく気付いてこられなかったようですが、貴方にはこの世界における通常の人間の、数億倍という馬鹿げた魔力内蔵量があります。あなた方流の言い方をするならばえむぴぃというのでしたかな?」






「………ん。ほう。

 ……………………………は?」


 神妙な顔で告げられた内容を真剣に吟味した結果、顔面が崩壊した。





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