鉄則
さて、そろそろ皆さん気になっているはずだ。
「俺」の今までの人生はどんな感じだったのか。
とりあえず、ササッと簡単に簡潔かつわかりやすく説明しよう。
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一回目の人生では、俺は普通の家庭に育った。ご飯も満足に食べられて、自由もあり、好きなものは定期的に渡されるお小遣いで買うことにもなっていたし、悲観するようなことは特になかった。
ただ・・・・・。
俺には何も無かったのだ。そう、才能というやつが。
運動も勉強も外見もダメ、運動嫌いなため、体型は必然的に肥大化することとなる。
けれど、そんな俺にも趣味があった。
世間一般では「オタク趣味」と呼ばれるものだ。
俺は趣味に没頭してる間は幸せだった。
だが・・・・・。
勉強もダメ、運動もダメ、容姿もダメ、それにデブでオタク。
これだけの要素を持っているだけでも、この世界では蹴落とされることを、俺は実感することとなる。
俺は・・・・・最悪なイジメという悪夢にさらされることとなった。
・・・・・ちなみに、死因は自殺。
理由がわかんないことは、ないと思う。察してくれ。
さて、二回目の人生だが・・・・・。
え、重い?いきなり重い話すんなって?
いや、でもこれからの物語にも関わってくるから話さないと・・・・・。
あ、それとも、もっと詳しく聞く?うん、嫌だよね。
んじゃ、二回目の人生を簡単にまとめてみよう。
一番目の人生を送って、俺は思った。
全ては、生まれた時に決まると。
頭脳、運動神経、ルックス。
どれも遺伝子的に決まってしまうものばかり。
またそんな人生を送るなんて、まっぴらごめんと思った俺が、その時の担当の神に涙ながら土下座して懇願したことは言うまでもない。
頭脳をくれ、運動神経の良くしてくれ、なにより、容姿を最高にしてくれ。
俺は、そう願った結果、神様は気前が良かったのか、答えてくれた。
俺は頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗に育った・・・・・。
もちろん、周りの女子からはモテてモテまくった。一回目の人生では卒業できなかった童貞もすぐに捨てられた。
しかし・・・・・・・・・・。俺は知らずのうちに、周りを見下していたのだろう・・・・・。
調子に乗りすぎていたのだ。
段々と人が周りから消えていき・・・・・友達は一人もいなくなった。
それだけではなく、変なプライドが育っていたのだろう。
頭脳明晰の俺が受験で落ちるはずがないと・・・・・。
結果・・・・・、高校受験、滑り止めの私立もすべて落ちた。
家自体は裕福ではなかったため、俺は自分の容姿を活かし、ホストで働き始めた。
だが、ホストは実はかなりの縦社会。社会を舐めきり、無駄なプライドがあった俺に馴染めるわけもなく、先輩達からの嫌がらせもひどかった。
そんなとき、一人の女性客が俺の前に来た。
美人・・・・・かつ、スタイルもよく、俺と話があった。
何回も指名され、だんだん俺は彼女に惹かれてき・・・・・。
俺が彼女に告白するのは、そんなに時間はかからなかった。
俺は、彼女と付き合い始めた。
彼女と遊ぶための金は彼女が、出してくれていた。
そんなお金どこから出るんだろう・・・・・と思っていたが・・・・・。
俺は疑問にも思わなかったのだ・・・・・。
ほんとに・・・・・バカだ。
彼女は・・・・・ヤクザとグルだったのだ。
その金も、ヤクザから借りており、それは俺の借金として扱われ・・・・・。
友達も、助けてくれる人は・・・・・誰も・・・・・いなかった・・・・・。
追い込まれた俺は・・・・・死ぬ以外の選択肢は・・・・・無くなっていたのだ・・・・・。
俺はこの二つの人生で鉄則を自分に課した。
二度と・・・・・同じ過ちを繰り返さないために・・・・・。
1.人は騙す生物、油断はしないこと
2.特に女は偽物の塊だ。信じるな。
3.謙虚に、礼儀正しく、優しく人に接しろ。じゃなきゃはぶられる。
4.努力を怠らないこと、最後の人生だから、公開はなしでいこう。
この四つだな。これだけは守ってこの世界で生きていこう。そうすれば、変な危険に巻き込まれずに生活できるはず!
俺は、鉄則を守ると誓ったのだった・・・・・。
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・・・・・と意気込んでは見たが・・・・・。
さっそく、2番目を破ってしまいそうだ。
母親・・・・・セルビア・ヴァートが・・・・・素敵すぎる・・・・・。
いやいやいや、そう思ってるとまた騙されることになる・・・・・。
こう見えて、実は裏の顔を・・・・・。
「どうしたの、レオ?お庭に面白いものあった?」
そう言って、窓から庭を俺が眺めている(高い位置にあるので、椅子を使って)と顔をのぞき込むようにしゃがんで母親は俺を見ていた。
造形がいい顔がいきなり現れると、俺も戸惑ってしまう。・・・・・が、そこは抑えて平然と答える。
「えと・・・・・前にカラスが入ってきたのですが、急に消えてしまったので、なんだか不思議で・・・・・」
そして、ついでに疑問も解消しようと俺は遠まわしに聞く。
遠まわしに聞くのは、子供っぽいかなぁと思ったからだ。
セルビアはニコリと笑うと、口を開いた。
「それはね・・・・」
ガタッ!!
セルビアが話そうとした瞬間、俺の視界が高速で揺らいだ。自分がフワッと浮いているきがする。まるで・・・・・遊園地のフリーフォールのように。
「危ない!!」
ゴツンッ!!・・・・・と音と共に俺の目がまるで勝手に行動したかのようにグルングルン視界が揺らぐ・・・・・。脳みそが激痛のシグナルを発してるのがわかる。脳しんとうでも起こしたかな・・・・・
「レオ!?大丈夫なの!?」
セルビアは俺の後頭部に左手をやり、すぐさま膝枕をした。・・・・・胸でセルビアの顔が見えない・・・・・だと・・・・・?このカップ数はいくつなんだ!?
「レオ?頭痛い?」
俺がそんな煩悩に塗れた思考をしていると、セルビアの顔が大きなお山から覗いた。お山ってなにか?胸に決まってんだろ。
「ちょっと痛いくらいです、大丈夫ですよ?」
正直、かなり痛かったが泣くほどではなかったので俺は少しの強がり含め、そう答えた。
「痛くないって・・・・・ほら、うつ伏せになりなさい?あぁ・・・・・たんこぶできてるじゃない・・・・・」
と言って、彼女は俺をうつ伏せにして後頭部の一部を優しくなでた。たしかに、少しヒリヒリする。だが、
「このくらい大丈夫ですよ?」
俺は事実を言った。しかし、彼女は小さく嘆息混じりで呟いた。
「そういう痛さを人に言わない当たり、お父さんそっくりね・・・・・」
そう呆れながらもその顔は少し嬉しそうだった。セルビアは俺の後頭部に片手をかざした。
「《ヒール》!!」
なんかのおまじないなんだろうか、彼女はやや大きめにそう唱えた。効き目はあまり期待しないでおこう・・・・・。
だがその瞬間、お湯をゆっくりと注がれるような暖かさが後頭部に広がっていくのがわかった。
なんだこの感じ!?
と思う間もなく、後頭部の痛みが嘘のようになくなっていくのがわかる。
「えと・・・・・さっきのはいったい・・・・・?」
俺は恐る恐るという具合に、彼女に尋ねた。すると、彼女はキョトンと首をかしげた。
「なにって・・・・・・・・・・《魔法》よ?」
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ・・・・・
おっと、あかんあかん、つい思考が飛んでしもうたわ、エセ関西弁になるほど動揺しちゃってるわ、俺!
聞き間違いかもしれん・・・・・と思って一応俺は聞いた。
「あの・・・・・魔法と言いました・・・・・?」
「え?うん、初級回復魔法を使ったのよ?ふふん、これでもお母さん、結構有名な『ヒーラー』だったんだからね?」
・・・・・聞き間違いじゃなかった・・・・・。どーしよ、頭が追いつかない。
「魔法って・・・・・普通なんですか?」
「あぁ・・・・・そういえばレオは初めて見たかもね、魔法使ってるところ。そうよ?魔法は学校があるくらい普通よ?」
・・・・・魔法が・・・・・普通の世界・・・・・?
いや、待てよ、だったらまさか・・・・・。
「お庭のカラスが消えたのは、魔法ですか?」
そう、何らかの防犯魔法でもしているに違いない。ふふふ・・・・・なんという俺の適応力の早さ。伊達に三回目の人生なわけではないのだよ・・・・・。
「え?違うわよ?」
が、それはまったく否定だった。
え?どいうことだ・・・・・?魔法・・・・・とやらじゃないなら・・・・・。
「もしかして、レオって『アルマ』のこと知らない?」
「あるま?」
「うちのペットよ」
ペット・・・・・?ヴァート家にに動物なんていたか・・・・・?
彼女は窓を開けて庭のそばに生えてる気に向かって、呼びかけるように声を上げた。
「アルマ?起きてる?」
へ?そこには木しかないけど・・・・。
ガサガサッ!!
「うわぁ!?木が動いた!?」
そう、庭に生えてる木が葉をざわざわ言わせ、木の枝をクネクネと曲げ、動いたのだ。まるで、手を振るように。
「ふふ、すごいでしょ?うちのペットのアルマ、仲良くしてあげて?」
「えと・・・・・言葉が通じるんですか?」
ぶっちゃけ、かなり不安だ。怖い怖い!!
いや、チキンとか言うなよ、読者諸君!!木があんなに活発に動いたら誰だって怖いって!!
「んー・・・・・ある程度は通じるよ?あ・・・・・もしかして、レオ怖い?」
セルビアはニヤリと笑ってのぞき込むようにこちらを見た。
え、怖いですよ、当たり前でしょ!?いや、でも・・・・・なんか怖いって知られるのはかなり恥ずかしい・・・・・。
「怖いわけないじゃないですかっ・・・・・」
精一杯俺は強がりを言って、俺はアルマを見た。
・・・・・まるで、俺の機嫌を伺っているように見える気がする。俺のことが怖いのか?いや、違う。
おそらく、あのカラスはアルマが退治したのだろう。あらかじめ、庭を荒らすのを追い出すのが役目としつけられているか何かだろう。
つまり、アルマはこんな赤ん坊を恐れたりはしない。
アルマは、家の一員として主の子供に嫌われるのが嫌なのではないか。いや・・・・・根拠はない。ただ、不気味なはずのアルマの動きが、心配してるように見えただけだ。
とりあえずは、悪いやつじゃなさそうだ。
俺はそう断定して、アルマに恐る恐る手を振ってみた。
すると、彼は嬉しそうに、さっきよりも枝をブンブン手を振るように振った。
・・・・・いかん・・・・・なんか可愛い・・・・・。
「アルマ、可愛い?」
セルビアは俺をのぞき込んでニコリと問いかけた。
「はい!かわいいです!」
俺も負けじとニコリと返してみた。なんだか、二回も絶望の人生を送ったばかりだというのに、すごく胸が幸福の気持ちでいっぱいになっていた。
「もうまったく頭痛くないはずだけど・・・・・大丈夫?」
彼女は俺の髪を優しく撫でながら、またもや聞いてくる。その顔はまだ心配気だ。
「大丈夫です!だから、そんなに心配しないで下さいね?」
「ふふ・・・・・そうね。あの人の子ですもんね・・・・・さて、お昼ご飯の準備しなくちゃね・・・・・」
そう言って、セルビアは俺を立たせると、自分も立って伸びをして、台所に行こうと・・・・・
「・・・・・ほんとに大丈夫?」
・・・・・したけれども、俺の方を振り向いて再度確認。
「もう・・・・・大丈夫ですって!!」
俺は・・・・・きっと愛の中に生まれたのだろう。セルビアは俺を愛してくれているのがわかる。
もう、いいや。
まだ、父親とあまり話していないけれども、俺は・・・・・愛されているのだろう。
なんか、抵抗があったけど・・・・・この人たちのことを、本当に家族と思えそうで安心している俺がいる。
なんか、女だとかなんだとか、身構えた自分が馬鹿らしいくらい家族に恵まれてたらしい。
だから・・・・・俺は彼女のことをこう呼ぼう。
「かあさま・・・・・」
「ん?どうしたの、レオ?」
しまった・・・・・つい声に出てしまったみたいだ・・・・・。言い訳を考えなくては・・・・・。
だが、言い訳は出てこなく、俺の口からはなんにも考えずに言葉が漏れていた。
「・・・・・呼んでみただけです・・・」
「・・・・・・・・・・。」
「かあさま・・・・・?」
「・・・・・。」
沈黙を続ける俺の母親。・・・・・怒ってる?
「えと・・・・・もしかして怒ってますか・・・・・?」
「か・・・・・」
「か・・・・・?」
「可愛すぎるっ・・・・・!!産んでよかった!」
ぎゅぅ・・・・・!と万力のような締め付けの抱きしめを俺は受け入れるしかなかった。
なんで!?どこに可愛いポイントがあったの!?
「かあさま・・・・・くるし・・・・・」
これは・・・・・酸欠・・・・・だろうか・・・・・息が・・・・・。
最後に感じたのは、顔に押し付けられる母親の胸の圧力だった。