レオンハルト・ヴァート
チュンチュンと小鳥のさえずる音が聞こえる。ざわざわと木の葉がざわざわと波のようにさざめく音も、俺の耳には届いていた。
閉じたまぶたのおかげで真っ黒な視界が、外が快晴だからだろうか、ほんのり赤く染まっていた。
目を開けると、光が雪崩のように網膜に入り込んできて、視界を真っ白に染めた。
少しずつ、目が慣れ始めて一番最初に見えたのは天井だった。木製で出来ていて、山小屋の天井のようだった。
どうやら、俺は眠っていたらしい。
「○・・・・・?○○、○○○○!○○○○○○○○○○!」
目が光の刺激に完全になれた時、若い男の声が聞こえた。思い首を少し声のした右方向に傾けると、 短い茶髪の男が首を後ろに振り向かせて声を上げていた。
その声はまったく知らない言語だった。
男の視線の先には階段があり、その階段から誰かがかけ降りてくるような音が聞こえた。
足音の軽さからして、女性だろうか。
「○○○!?○○○○○、○○○!?」
少々甲高い声を発して俺の寝ているところに来たのは金髪を長く伸ばした碧眼美女だった。年齢は・・・・・20前半くらいか・・・・・?
女性は俺に手を伸ばしたと思うと頭の下に手を入れると、ヒョイと持ち上げた!
(え、え?俺そんなに体重軽かった!?)
と俺は言おうとしたが出てきた声は
「あー・・・・・う・・・た・・・・」
という拙い、何を言ってるのかわからない音声だった。舌が全然回らない・・・・・。
「○○?○○○○○?」
と女の人はニッコリ俺に訪ねてくる。すると男性はニヤリと笑いながら、
「○○○○○○○?」
と俺の顔をのぞきこみながら言った。
どゆことだ・・・・・?どういう状況なんだ・・・・・?
なーんてね
実はこの現象、俺は初めてではなく、二回目なのだ。
二回目の生まれ変わりで、俺はこういう状況に陥ったのだ。まぁ、少しだけ違うところはあるが・・・・・。あんときはパニックだったなぁ・・・・・。
こほん、それは置いといて。
つまり、この現象は生まれ変わった直後のことなんだ。
赤ん坊に逆戻りして、また人生やりなおしってことだ。
年齢からすると、二、三歳くらいだろう。
なんで0歳から意識がないのかというと、「俺」という魂の人格を形成できるだけの頭脳が、生まれた直後には大抵無いからだ。
言語がわからないのは簡単なこと。俺が外国人に生まれ変わっただけだ。
すると、この女性は俺のお母さま、男性はお父さまというわけでござりんすなぁ。
二人の容姿を再チェックしよう。
お父さんのイメージは少々チャラい。髪は茶髪・・・・・といっても赤に近いから赤毛かも。しかし、不良に嫌悪感しか覚えない俺がそこまで悪い印象を受けないのは、その髪が天然物だからだろう。
その茶髪を短くしている。現代日本的にいえば、「ツーブロック」だろうか。左右を刈り上げ、他は普通に伸ばして借り上げ部分を覆っている。
目の色は赤色。瞳の中で何かが燃えてるような・・・・・赤と言っても血のような赤ではなく、灯火のような赤だから安心感に包まれる。
体つきは、細いながらも引き締まった筋肉で覆われているのがわかる。スポーツでもやっているのだろう。肌はこんがり焼けている。
いたずらっ子のような顔つきは、かなりかっこいい。さぞかしモテたんだろうなぁ。
お母さんの容姿は、一言で言い表せる。
かなりの「美人」だと。
しかし、幼さも残して可愛らしさがだいぶ残ってる。
髪は金髪を長く伸ばしている。
目の色は・・・・・青だ。碧眼とも言うだろう。暗い海の底のような青ではなく、浜辺の夏の海のような爽やかな透明感のある青だ。
肌も白く、 やわらかそうだ。
以上、親の容姿考察でしたが・・・・・。
肝心の俺の容姿はどうなんでしょう・・・・・。この二人の親ならばだいぶ期待できると思うけど・・・・・。
少しだけ、不安だ・・・・・。
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さて、それから一ヶ月が過ぎた。
色々なことがあったが、どれも些細なことなのでここでは省略といこう。
というのも、この体じゃあまり動けなくて色々できないのだ。まぁ、それは置いておこう。
あれから、自分の独学も含め現地学習というのもあり、大体はここの言語をマスターできた。
今では母親や父親の言葉を理解できるようになった。
そして、肝心な容姿なのだが・・・・・。
なぜか、家の中に鏡が一つもないのだ。
だから、鮮明に写るものはなかったのだが、なんとか窓ガラスで確認はできた。
顔のバランスはあの両親の息子だけあって、かなり整っている。
やんちゃで好戦的な瞳、やや高めの鼻、スラリと細い顎。パーツだけ見ると父親そっくりなのに、全体を見ると母親の優しげな顔立ちそっくりに見えるという、なんとも不思議な容姿だ。
髪の色は、母親に似て金髪。といっても、母親よりも少し薄めの金髪だったが。
目の色は父親に似て、赤色だ。これはホントに父親そっくりそのままの瞳をしている。
つまり、なかなか満足な容姿である。
言語がわかったことで、自分の名前もわかった。
レオンハルト・ヴァート
それがこの人生での「俺」という魂の名らしい。
うむ、いい名前だ。
ちなみに両親からは、レオと呼ばれている。かっこいい名前だと思う、うん、かなり。センスいいよ、我が両親よ!
つまり、この家はヴァート家、ということになる。
ヴァート家の家は、まだ外から見ていないから外見はわからないが、綺麗でそこそこ広いと思う。
広いと言っても、日本の家宅よりも少し広いくらいだ。
木製で、木の匂いを感じながら毎日生活するため、肺の中が常に綺麗な空気で満たされていくきがする。
当初、木製で雨とか風とか大丈夫なのか? と思ったが、これが全くもって大丈夫だったのだ。家のことはよくわからないから、なんとも言えないが・・・・・。
二階建て+地下室付き、さらに広い庭まである。
日本じゃ相当な値段がするだろう。
窓から見える庭の景色は、小さな農園・・・・・と表現するのが適切だ。
自家菜園をしているらしく、よりどりみどりの野菜たちが元気よく育っている。
この家のトマトはホントにおいしかった。
そういえば、俺が庭を眺めている時にたまに不思議なことが起きる。
なぜ俺が庭を眺めているか?それはやることがないからだ。
テレビも携帯もゲームも、なぜかどこにもないからだ。
さて、その不思議なことだが・・・・・。
ある日、俺がいつも通り庭を眺めていたら、一匹のカラスがやってきたのだ。
何をしに来たのかは、愚問だろう。庭の野菜を食い荒らそうとしていたのだろう。
もちろん、俺はその様子をずっと眺めているつもりもなく、すぐに二階で洗濯物を干しているだろう母に大声で伝えようと振り向きかけた、その瞬間・・・・・。
バシャッ・・・・・!!と音がして、カラスはどこかに一瞬で消えたのだ。数枚の黒い羽根を残して・・・・・。
・・・・・・・・・・今、畑のそばに生えてる木・・・・・動かなかった・・・・・?
い、いや、気のせいだ、気のせいに違いない!!
木が動くわけないだろう!うん、そんなわけない!!
こ、こほん、これについては俺の見間違いだろうし、気にせんでくれるとありがたい。
何はともあれ・・・・・この人生が始まってまだ一ヶ月しか経ってないのだ。
正直、現時点ではこのくらいしか、わかんないんだよなぁ・・・・・。
人生三回目だけど、なんか慣れないよなぁ・・・・・。
こうして、俺のレオンハルト・ヴァートとしての人生は始まったのだった。
・・・・・イマイチな出だしだけど・・・