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かわたれ β版 (実話)

「かわたれ」実話版。


 それは震災の前年のことだった。

 夏に夫の実家へ行ったときのこと。当時、実家は立て替え中だった。

 なんせ築四十年をすぎ、かなりガタのきた木造二階建て(でも水周りはその数年前にリフォームしていたが)。だから、その夏はその古い家で過ごす最後のお盆ということになった。

 前日はなにもなかった。いつもどおりに、お墓参りをし、家族そろって食事してふだんどおり、私たち親子三人は階下の座敷で、夫の両親は二階のそれぞれの部屋で休んだ。


 不思議なことは、前日の朝から起きていた。

 朝食をすませて、座敷でくつろいでいる時から、なぜか真上の義母の部屋から鈴の音がするのだ。

 小さな鈴を何個も束ねたような、「しゃらん」というかすかな音。


 頻繁に鳴るわけではないので、私は電気のひもの先にでもつけた鈴が風に揺れて鳴っているんだろう。

 そう解釈した。


 鈴の音は一日中、断続的に聞こえていた。

 誰もあえてそのことにふれないから、みんな気にしていなかったのだと思う。

 夜の花火も終わって、二泊目の夜になった。寝室は昨日と同じ。

 二階の部屋からは相変わらず鈴の音がしてくる。

 

 しゃらん


 じつは昼過ぎくらいから違和感があった。そして夜になった私は何が変なのか、いよいよ気づいた。


 もし仮に、電気のひもの先につけられたら鈴ならば、義母はうるさくてかなわず、きっとはずしているはず。それに、鈴をゆらすほどの風は吹いていない。

 鳴り方が風にそよいで、というより、誰かが手に持ってふるわせているようにしか聞こえない。


 それに、なんというか響きかたも変なのだ。部屋を隔てて鳴ってるにしては、妙にクリアで。


 子どもも夫もとうに寝てしまっても、私は眠れずときおり聞こえる鈴の音にひとりおびえていた。

 と、鈴の音が少しずつ、少しずつ近くなってきた。

 階段をおりてきている!!

 足音はしない。けれど、鈴の音だけが確実に下りてきているのだ。


 私は久々のヘビーな体験に心臓がパクバク。「こっちへ来ないで」と強く念じるくらいしかない。

 やがて、鈴の音はふすまを隔てた台所で聞こえた。

 と。

 みしり……。

 床が誰かに踏まれる音がした。

 小型の冷凍専用庫のうえにある、ご飯を供える金属の仏具がゆがんだ床の振動でぶつかり鳴った。

 誰かが、ふすまの向こうを歩いている。


 こんなとき、どうするか。

 長年こういったこととおつきあいのある私のとる行動は一つ。


 強制的に、寝る。


 これに限る。かくして、強制的に寝た私は翌日なんの変化もない台所を見るのであった(お約束)。


 ふつうならば、話しはここで終わるが続きがあるのだ。


 実は、「それ」が私たちの家までついてきたらしかった。

 なぜかそれ以降、訳の分からないことが続いた。

 風呂の栓をしっかりとはめて、お湯張りのボタンを押しても空っぽだったり(しかも一度は溜まった形跡あり)、いつも下ろしっぱなしのブラインドがきっちり上がっていたり、トイレの水(排水口に少しだけ残りますよね)が二度ほどきれいさっぱりと干上がっていたり。

 消したはずの灯りがついていたり。

 そのうち、遅く寝る夫が

「なんかなー、下で音がするんだ」とか言い出すし。


 どうやら、いるらしい。

 実は、その後わたしの仕事は超好機を迎えて収入が増えた。夫は何度も会社を辞めたが、その都度再就職先を見つけてきた。


 娘と私は

「ざしきちゃん」と呼んでいる。

 ですが、度重なる夫の職探しにさすがの座敷ちゃんも疲れはてたのか、最近はとんと音沙汰なし。


 それとも、小さかった娘も大きくなって興味がなくなったのかな。近所には小さい子がいるおうちがあるから、そちらに移ったのかもしれない。

 座敷ちゃんが幸せならば、それでよし。


 ちなみに、夫の実家は遠野です。






座敷を散らかしていると、居心地が悪いらしいよ☆

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