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二度泣き橋 (恋愛・現代)

めずらしくも、男女の恋愛??もの。まだ未満。

「岩手山って盛岡から見るのと八幡平側から見るのとじゃずいぶん違うんだね」

 北上川にかかる開運橋のまん中で君は立ち止まる。

「盛岡の裏側の八幡平側から見ると山裾がすーってなだらかで……」

 南部片富士って異名を理解いただけたかな。

「みんなとドライブ行って得した。紅葉もすっごくきれいだったし」

 君さ、君も岩手山みたいだよ。

「どゆこと?」

 眉をぎゅっと寄せて唇を尖らす。そういうとこ。大学のオリエンテーションで僕にいきなりした質問を忘れた?

「そ、それは失礼だったと今は反省してます!」

 関東と東海の境あたり、温暖な海の町で育った君が第一志望の大学を落ちて知り合いのいない北国に来て、絶望的な気分だったからとは理解できる。

「悪かったと思ってます! 冬はどこにもいかずに家でじっとしてるんでしょ、とかバカな質問したこと」

 そう、地元生まれから一斉に睨まれてたよ。僕はおかしくて笑っちゃったけど。怖い顔して、噛みつくみたいに。

 こんな街、どうせ何もなんでしょ? つまらない田舎なんでしょ?

 おかげで同席したメンバーみんなから、しばらくのあいだ無視されていた。

 それでも、君は平気な顔して。口を真一文字にむすんでコワイ目をしてあたりをにらんでいた。

 でも僕には、なんだか怯えた子猫みたいだなって、ほっとけないと思ったよ。

「入りたかった大学に落ちて、気持ちが整理できないまま新幹線から下りたらみぞれが降ってて。駅からすぐの開運橋(ここ)をわたるときには涙が出てた。寒いし暗いし、田舎だし。なんでこんなとこ来ちゃったんだろう。そう思った」

 受験の時には、大雪で受験時間が遅れたしね。

「でも馴染んじゃった」

 えへへ、と橋の欄干につかまって空をみあげ照れ笑いする。

 ずっと固い顔をしていた君を、夏の祭りに誘ったのは僕だ。さんさ踊りの大学の連を君に紹介した。

 最初はお義理で参加し始めたはずなのに、気づけば熱心に練習して。お祭りが終わる頃には周りに馴染んでいたし、今年は先頭集団で元気に踊っていた。

「今は、いい街だって思うよ。落ち着いた街だし、歴史も文化もあるし、なんたって食べ物が美味しいし」

 最後の項目が重要だよね。食いしんぼの君には。今じゃ、福田パンに行くとオリジナルな組み合わせをすいすい注文しちゃうくらいだし。

 一年前の気難しい顔はどこへやら。いつのまにかにこにこ笑う君がいる。

「きれいだったね、紅葉。また長ぁーい冬が来て、春になったらお花見して、夏にはさんさの練習して。あと就活……だね」

 流れる川面に君は目をやる。視線の先には、冬を前にして大陸から渡ってきたカモと白鳥が数羽泳いでいる。

 君は地元へ帰るのかな。根が臆病な僕は聞けずにいる。『岩手の人は 牛のごとし』。思ったことをめったに口にせず、ただ黙々と……なんて県民性のせいにしちゃまずいよ。

「わたし、調べたんだ。開運橋って別名『二度泣き橋』って言うんだね。盛岡に来た時には「なんでこんな北の果ての田舎町に」って泣いて……」

 笑顔だった君は最後まで話せず、不意に声を詰まらせた。ただ、唇をかみしめて目を潤ませると欄干に乗せた手に顔を伏せた。

 帰るときに、また泣くんだ。ここから離れたくないって。だから、二度泣き橋。

 僕は君を引き留められるかな。ここを君の故郷にしてあげられるかな。

 君の柔らかい髪に初めてふれる。目を赤くした君がおずおずと僕を見る。

 どうか、僕の想いが君に届きますように。

 心臓が早鐘を打つ。

 僕は君が……。









福田パンなら、アンバターかジャムバター。ハイカロリー。

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