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魔法使い  (悪夢)

ある日の悪夢。

 魔法使いは、幼女の顔をして大きな胸をもっていた。

 石の壁に囲まれた、錬成場の奥に獣のように布を丸めてうずくまっていた。


 材料として鉄や草花、蝶の死骸や宝石たちと、拐かされた『少年』。

 何もかもが混ぜ合わされ混沌とした意識のなかで出口を求め魔法陣のなかから無理やり逃げ出し、冷たい石のうえに体を投げた。

 眠っていた魔法使いの瞳がゆっくりと開かれた。

 まるで炎だ。瞳が赤く光る。ざんぎり頭の赤毛を揺らし、ずり落ちたボロ布から豊かな白い胸がこぼれている。しかし、顔と身の丈はは(とお)にもならない少女のそれだ。

『少年』は体にはりついている粘性の液体をぬぐおうとした。が、その手は大きくふるえて止まった。

 恐れるように胸をまさぐる。

 いつのまにか胸が隆起している。反して下半身に頼りなさを感じて思わず手を伸ばす。

 あったはずのものが消えていた。『少年』は『少女』になっていた。

『少女』が悲鳴をあげた。

 幼女の魔法使いは高々と笑った。

「できそこなったか」

 キィン、と耳なりがした。体の内側から金属がこすれ合う音がする。

「はんぶん、機械ねぇ」

 魔法使いは裸のまま、背丈ほどもある杖を手に立ちあがった。

「もどれよ」

『少女』は後ずさり、部屋の出口めがけて駆けだした。信じられないくらい、体が軽い。石の床を蹴る足は一歩一歩の幅が大きく、城内の空洞に張られた吊り橋を放たれた弓矢のようにまっすぐに飛び越えた。

 すぐに階段を昇りうえを目指す。振り回した腕が壁にぶつかり、肉が潰れる感触が脳に伝わった。しかし痛みはいっこうに訪れず、疲れを知らない体は次々に扉を開けるがその先には陽のささないかび臭い通路があるだけだ。

 そしてまた突き当りの扉を開け、階段を登る。


「出口はないよ」

 石壁に響く魔法使いの声。

 どこまでも、どこまでも階段は続く……。

 と、ふいに開けた扉の向こうに茜空が広がった。

 そこは塔のうえだった。


「体が合っているだけ、よしとしてやる」

 声に振り返ると、全身を赤く染めた魔法使いがいた。『少女』は魔法使いの生まれたままの姿を目の当たりにした。

 不釣り合いに大きな胸の双丘、そして足の間には……。


 凍りつく『少女』の眼前に魔法使いが一瞬にして飛び出してきた。


「代われ」


 魔法使いが叫ぶと、胸の内側で何かが弾ぜ『少女』は塔から落下した。

 最後に『少女』が塔のうえにいるのを見た。


 満ち足りぬ月が空に輝いていた。

損して元とれ。

怖い夢を書き起こしても怖くないとは、これ如何に。


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