遠き里の物語りせよ (民話風)
むがし あったづもな
訛ってるのハゆるしてけでや。
おめさまは、帝都からでやんすか。んで、朝になったら東京さ帰るってな。
おれはこの村から出だごどもありやせんし……家がら出だごどもあんまりねぇがら。何日かがる? こごから、汽車ぁ走る駅まで……ああ、障子閉めだまんまで、おもさげね。この爺は病気してらがらさ。
開けねんでけでや。
伝染ってもわがねがら、いつも常居の奥さいる。飯食うのもてんでんこ。だども夜ばり(だけ)、こっちの座敷さ出張のさ。
歳も歳だし、朝がはやぐてなあ。家のもんが起きるまでだげな。
おめはん、大学校でなに勉強してらのす?
みんぞく、がく?
昔の語りっコ聞ぐのが、勉学になるのすか?
んだがら、わざわざこったな山奥さ来たのっか。はあ、山口の佐々木の次男から教わってきたと。
ほお……。何がいい話かたり聞けたすか。
河童、天狗、オシラサマ、座敷わらし、山男に山女。
おらたちには、聞きあきた話ばりだなあ。特に奇妙な話でねえべ。まあ、神隠しは先日もあったども。
なぁに、ちょっくら迷子になってただけだった。
このへんハ、冬が長げぇから囲炉裏端で法螺話するのよ。
なんでもねぇようなことを、おっきぐしてな。そんで気がふさがねようにするのさ。
まあ、山さ女が入る事ハある。そいつハほんとだ。
なんもかんも嫌になるんだべな。旦那も舅や姑も、自分の子供も。
山の中、これで女の口一人ぐれえ養ってくれる。何年がして、ぼろきれ着た嫁っコが猟師や樵に見つけられて戻ってくることもある。
そったな時には「天狗の妻になってだったんだ」なんて言ったりするもんだ。
こったな山奥だもな。そったなこともあるんでねぇかって、皆で話ば作るのサ。
おめはん、動転したべ、こったな町場がら離れたどごサ屋敷あって。
マヨイガだと思った? んだべな。
この辺は山の間サ隠れるみでぇに、ちっちゃけぇ里が多数もあるもんだぉン。
座敷わらし、いねぇよ。いるわげねえ。
おめさん、この家のトワコ見だえ? ああ、めんこい姉コだ。
めんこい姉コは山男が連れてくんだ。
ン? 河童の童ば、ナシタ……産んだって話し、こごの大爺さまから聞いたべ?
ああ、河童の童はワガネ。あれハ殺さねばワガネのだ。
だども、山男の童を腹に入れてきた姉コは、そいつ産ませで家の中さ隠すのサ。
頭さ角ある、山男の童は木の実だの茸だの、山のごどば何でも知ってるんだおん。
ああ、砂金のあるどごろもナ。だがら、誰にも盗られねぇように座敷の奥の奥さ隠す。
次の鬼子が生まれたら、前の奴は死ぬ。
……ようやぐ、死ねるのサ。
トワコ、早やぐ孕めばいい。
じゃ! ……障子開けてしまったのすか……。
開けたらわがねぇって、しゃべったの忘れたのすか?
そったにおれの頭見ねんでけで。お恥いから。
ああ、家のもんも起きてきたぁ。
悪いなあ、今日帰れねえ……。
方言がきつすぎるようでしたら、書き換える所存。
地域や人名は、フィクションです。