黒い匣 (ホラー傾向作品)
それは実在する、のかも知れない。
それは、胸とへその間あたりにある……ような気がする。
高密度で重い、真っ黒な立方体。
決して開けてはならない、匣。
子どもの時には、蓋が開いた。
そのたびに、友だちが怪我をしたり、病気になったり、引っ越したりした。
でも、あのひとたちって友だちだった?
オトナになったいまにして思うと、あれは友だちじゃない。
だって、わたしをいじめていたんだもの。
靴をかくされた。ノートはびりびりに破かれた。教科書には黒のマジックで落書きされた。
私の掲示物はいつも、はがされたり汚されたりした。廊下に落ちていた私の絵は、クシャクシャになって、たくさんの足あとがついていた。
体操着はトイレの水で濡らされ、ランドセルは鋏で切られた。
そんなの、友だちじゃないよね?
そして、匣の蓋が開いた。
開けようと意識しないのに、ぱくんって。
私の口から鼻から耳から、私にしか見えない黒い霧が出てくるから。
開くと……分かるの。
そうして、「友だち」は間違いなく、怪我をする。病気になる。転校する。最悪の時には……。
だから、もう蓋は開けられない。
ぜったいに開けてはならない。クラス全員で出席した、あの時に思った。
蓋が開かないように、慎重に慎重に過ごす。
人から嫌われないように、みんながイヤがることを進んでやる。
ひとの話しに耳を傾ける。たとえ自分に興味がないことでも、同意できないことでも、にっこりと笑って相づちを打つ。
しぜんと私の周りには、優しい人が集まるようになる。
だから、私は匣があることを忘れもした。
ああ、でも、今日はダメだったの。
どうしても、ね。
不意に向けられた無自覚な言葉は、私の奥底を傷つけた。
開いた蓋は戻せない。
目の前を黒い霧が昇っていったわ。
ふしぎね、あれほど恐れていたのに。
今日は笑ってしまったのよ。
……ああ、いいきみって。
ある日のわたしのツイート。
「おれはお前が書けないようなのを書く」
「くびをあらってまっていろ」
「ふだんおれがどけだけおだやかにすごそうとどりょくしていか、しらないだろう。おれにはみこのちがながれているんだ」
の、解説の回でした。ふふふふ。
おもいしれ