聖バレンタイン
「日本人は聖人を馬鹿にして楽しんでいるのですよ」
ごく穏やかな口調だが、内容は厳しい。ましてやそれが聖人ご本人の言葉ならば。
「日本人というものは、神を馬鹿にしきっているのです」
更に続ける。
聖人たるもの決して怒るということはない。だが神の権威を司る聖人を冒涜する行為を咎めずして聖人はやってられないのだ。
「まあまあ君、そういわずに下界を覗いてきたまえよ」
「下界を、ですか?」
「君の言うバレンタインデーに何が行われているか知らずして冒涜とは言えないじゃないかね?」
神の言うとおりだった。聖バレンタインはすぐに下界を見渡すことにした。
女が男に、チョコレートを渡すのが見えた。中には女が女、男が男に渡すことすらもあった。
聖バレンタインは目眩を感じながら呟く。
「ああなんてことだ、聖人の名を冠する行事にかくもおぞましい行為に耽るとは。神に注進しソドムとゴモラのように焼き払ってもらわねば!」
聖人が決意を固めようとした時に、ふと病院が目に止まった。
病院では少年と少女がいた。
聖人はすぐに少年と少女が難病に冒されており長い間入院していることを知った。
「これ・・・チョコレート、下手くそだけど」
「あ、ありがとうっ」
少女が顔を真赤にして、顔を真赤にした少年にチョコを手渡す。
「それでねあたし、これから手術なの」
「えっ?」
少女はにっこりと笑って
「ホワイトデーのお返し楽しみにしてるね」
そういって呼びに来た看護師に連れられて去っていった。
聖バレンタインは、聖人なので少女の手術が失敗することが察知できた。
神が聖人の肩をたたいた。
「それで君、どうだったかね?」
「はい神よ、やはり聖人を称える日には奇跡が必要なのではないでしょうか?」
神はにっこりと
「私もそう思っていたんだよ」
と少女の手術を成功するように運命を少し手直しした。
そうして神と聖人は微笑みながら立ち去った。