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恋の魔法使いの病  作者: カシス猫
一章 恋の魔法使いの日常
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魔女と人形の甘い密談2(デイル)

密談後半です。次からロザリーさんに戻ります。


いきなりどうしたと言うのだろう。


「…回数はこの一、二ヶ月でほぼ毎日。連れ込んだのは今回が久々」


相変わらず、話に脈絡がない。


さっきまで甘ったるい親バカ話をしていたのに、急に話題を変えてくる。

その姿は膝を折り、落ち着いて座っているようには見える。しかし顔が低い位置にある為、朝の濃い木陰が落ちて、その表情までは分からない。


「ふうん、そう…か。あのメスは、何か言っていたか?」


畑に落ち着いて収まっているマンドラゴラの女に目を向ける。

こいつ等マンドラゴラの男はかなり広い範囲の索敵能力持つ。そしてその能力を使い、周辺の女の気配に寄っていく。

春にはこんな修羅場が度々あって、若葉の根が伸びて解された柔らかい土は今日よりも勢いよくひっくり返され続けた。


あの時期の事は、毎年ながら思い出したくもない。


「…特には、何も。ただ、飢えてはいた」


魔性植物は“魔”を主食とする。その一つ、マンドラゴラも“魔”が主食だ。

“魔”とは真理の中の一つ。世界の一部。ありとあらゆる所に存在しそれが無ければ、あらゆる生き物は生きていけない。マンドラゴラの女の怪力も、体内の“魔”が変換されて作用している。

魔性のモノはその有り余る“魔”を、生きていく上で当たり前に使う。

ちなみに元々魔性ではない人などは、それに“(ほう)”や“(すべ)”をつけて制御し使う。それを人は『魔法』や『魔術』と呼んでいる。


今は世界が夏の終わりを見せ始めている。森の住人は冬の用意に本腰を入れ始めているだろう。どれだけ蓄えても、蓄え足りないはずだ。

だから、より良い場所にと移動をするモノも確かにいるにはいるだろう。


「…そう不自然な時期ではない、ぞ?」


だが、僕も同様に何か引っかかっている。何だったか?


「大地から“魔”を吸い上げる奴らが“魔”を枯渇させるなんて、変だろう」


「…?……⁈」


“魔”は、どこにでもある。落ち着ける場所さえあれば、魔性植物はどこでだって食事にありつける。だから本当なら、魔性植物が飢える事態が(まれ)なんだ。

長くこの身体に留まっていたからか、自身も魔性植物であったのにすっかり忘れていた。


「…どういう事だ。これは?」


それに今気が付いたが、あまりにも数が少な過ぎるのだ。

女よりも“魔”を多く必要とするマンドラゴラの男が。


「マンドラゴラの、それも番がいないメスばかりにほぼ毎日会えるって?

そんな偶然が、あると思うかい?山奥の群生地にでもいかないと、そう簡単には会わない希少種に、ね」


マンドラゴラの男が遊び相手に選ぶのは、相手のいない女だけだ。相手がいる女はどんなに好みであろうと、男は見向きもしない。


なら、独り立ちか?いや、それも春のはずだったような気がする。


「独り立ちなら、季節外れも大外れだねぇ」


魔女の小娘は()えて、その事を口にする。その歌うような声は、段々と恐ろしく寒くなる。


マンドラゴラの女は、移動を嫌う。いくつかの例外を除いて、それこそ離れるくらいなら死んだ方がマシだと暴れる程だ。


「デイル。今から、偏屈卿(へんくつきょう)のいる山岳部を探りに行ってくれないかい。あまり可能性はないが、あの魔法狂いがまたなんぞ始める為にお気に入りの悪趣味な寝ぐらから出て来たのかもしれないよ」


ブランデーのなくなった空の瓶を持ち、魔女の小娘はゆっくり立ち上がる姿を眺める。


「あたしは明日からしばらく、国境(くにざかい)を調べに行く。留守は任せたよ」

この近くにあるマンドラゴラの群生地は、国の中央部にある山岳地帯の広大な森と国境の町周辺の二ヶ所だけ。それも両方共、人のいない森の深部にある。


魔女の小娘は、足早に家に戻っていく。その姿は、どこか凛々しい。この辺りを統べる魔女として、小娘は優秀だ。そこは認め、尊敬している。


しかし、おもむろに振り返り小娘は(のたま)う。


「あ、デイル。あんたは近場なんだから一日あれば調べ終わるだろ。明日の夕飯には必ず帰って来るんだよ。あの娘が、一人になっちまう。1人で留守番なんて可哀想だ」


やはり、小娘は過保護で心配性だ。正直、ちょっと面倒くさい。


「分かった」

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