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恋の魔法使いの病  作者: カシス猫
一章 恋の魔法使いの日常
4/36

不思議植物1


マンドラゴラ。


マンドレークとも言う。特殊な薬草の一種で、見た目は二足歩行する地味な茶色の根野菜にしか見えない。しかしその利用価値は高く、興奮剤や気付け薬なんかに使われたりするだけでなく多様な使い方がある非常に使い勝手が良い需要のある不思議植物様。


この植物、通常は一株単体で植えると畑から抜け出し逃亡。その日の内に、隣町にも行ける行動力を持つ。その為に、オスメスを一対で一つの畑に植えるのが好ましい。すると、あら不思議。その場を寝床にしてしまい、気に入れば永住してしまうのだ。知性は高いので、たまに散歩よろしく外に出て行くこともある。でも、ちゃんと帰ってくる。


この時点で、もう植物なのか怪しくなってくるがとりあえずは植物の括りにはいるらしい。


更にこの謎の根物野菜、生態も無駄に人くさい。


メスは気性が荒いしあまり畑から出たがらない。だけど決まりごとや対処に気をつければ栽培(さいばい)はそれ程難しくない。だがオスの方はよせば良いのに、何故かすぐ外で他のメスと仲良くなる。


理解に苦しむんだけど、そういう性質(たち)なんだってリア婆が言ってた。


そして持ち主には、そこからが災難の始まり。匂いに敏感なメスはその(たび)に暴れてオスと畑を荒らす。その姿はさながら、夫の夜遊びに激怒する烈女妻のよう。

その後オスは薬にしばらく使えなくなるくらいに損傷(そんしょう)した上、畑は底の土からひっくり返されて本当に無残な事になる。しかも(とう)のメスが居ようものならその場にあるものはさらに(むご)たらしくズタズタになる。


…オスも含めて。


薬の材料にするのは、大半がオスなのでそれは非常に困ってしまう。

だから、できる限り起こって欲しくない事態だったんだけど…。


女性の金切り声を思わせる鳴き声の後、火柱ならぬ土柱がものすごい勢いで()き上がった。充分に距離を取っていたはずの私達にも土の塊が降り注いでくる。


「毎回思うんだけど、どうやったらあんなに掘り返せるだろうね」


気持ち見上げていたせいか、口の中に土が入った。


うぇ、ぺっ。


「…たぶん、愛の()せる技。」


そんな愛、私だったらドン引くわ。


盛大に立ち込めた土煙が、徐々に晴れていく。そこには、数分前の可愛らしくも小さな畑の面影はもはやなかった。

あたり一面の土はめくれ仕切りの役目をしていた置き石もあちこちに飛散し、一つとして元の場所にはない。

付近の木や林は何度も刃物で切りつけられたみたいに傷だらけになっていて、見るからにかわいそうな姿にされていた。

この情熱が薬の効能の所以(ゆえん)だと思うと、とても複雑な気持ちになる。

しかも、半日あれば何事もなかったかのように(つがい)の仲は元通りになるっていうんだからやってられない。

呆れ返っている私を余所に、デイルさんは爆心地目指して歩き出していた。


「あっ、じゃあ私はオスを隔離します」


正気に返り、私も慌てて後を追う。

マンドラゴラは、一度鳴くとしばらくは鳴かない。そこら辺は、有難い生態をしてくれている。


「これ…遠くに、捨ててくる」


デイルさんは野良(のら)のメスを何処かへ持って行こうとする。片手で軽く掴み、抵抗を物ともしてらっしゃらない様子。この動く不思議植物、メスだけは恐ろしく力が強いのに。


私には、いえ、人には真似出来ません。


気を取り直し、私はめくれ上がった芝の上で馬乗りになりながら殴っているメスと(いさぎよ)く無抵抗なオスを引き離す事に取り掛かった。

(ウチ)のメスは話が分かる方なので時間をかけ、物で釣り宥めすかすとなんとか落ちついてくれた様です。また後で来るとメスに約束し、オスを胸のポケットに仕舞います。


さあ、リア婆に材料とこいつを渡し、スコップを持って来て畑を直さなくてはなりません。


なんて、気合いを入れてはいますが工房に続く石畳を歩く脚にさっきの勢いは全くありません。


だってねえ、きっと一日仕事になるよこれは。



連続投稿一旦途切れます。

今回はそんなにお待たせしないと思います。二、三日お待ち下さい。

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