中庭のバラ
気軽に読んで頂ければ、幸いです。
今日も、このバラは咲かない。
ワタシの家の真ん中には、お花のたくさん咲いている庭がある。
赤にピンク、カナリア色やムラサキ色。一番好きなオレンジ色だってある。今日みたいに雪が降ったっていろんなのお花が咲いている変な庭。
だけど、たった一本のバラだけは絶対に咲いてくれない。
おじいちゃんの部屋の窓から見えるおかしなバラ。
その苗には一つだけツボミがあるけど、今まで一度だって家族のみんなやワタシはそれが開いたのを見たことがない。
毎日見ているおじいちゃんだって、ないらしい。
どうして咲かないの?
前におじいちゃんに聞くと『きっと、まだ寒いんだろう』って、淋しそうに言われた。
つまり、暖かくしたら開くかもしれない。
新たな発見をしたワタシは、その一つだけのツボミを温めることにした。昨日お母さんが手袋を忘れたワタシにしてくれたみたいに、両手を添えて息をかける。
少し湿っぽいけど、とても暖かくなる。
すると、ぷっくりとふくらんでいたツボミが開き出した。
「やったっ」
もう一回すると、バラはもっと開いた。
変なバラは、お花も変わっていたみたい。見たこともないくらい真っ白な所に筆で描いたようなゆがんだ、青いのと赤いのの水玉がついていた。
「…へんなの」
「悪かったね、下手くそで」
いきなり、後ろから声がした。振り向くと上品な姿の、すごくつまらなそうな顔をしたおばあちゃんがいた。
きれいな顔が台無しだよ、おばあちゃん。
「うまいもんだ。その花を咲かせる方法はいくつかあるが、そんな魔力の込め方は思いつきもしなかったよ」
よくわからないが、ほめられているみたい。なので、ワタシはうれしくなった。
「でしょー。お母さんが教えてくれたの」
おばあちゃんはハァと息を吐く。
「…そういう事ではないのだがな。まぁ良い」
おばあちゃんはワタシの顔を見て、なんだか悩んでいる。おとなしくしてなきゃいけないのかな。
だけど、ワタシだって悩んでいるんだ。だから、しゃべるよ。
「おばあちゃん、誰さん?」
勝手に他人様のお家に入っちゃいけないんだぞ。
お父さんが言ってたよ。
「…アル、お前のじーさんの知り合いだ」
おじいちゃんと仲悪いのかな。すごい顔だ。
「おばあちゃん、おじいちゃんのコト嫌い?」
「…わりとな」
どっちなんだよ。好きなの嫌いなの?
あ、耳が赤い。寒いのかな?ちょっとかわいいぞ。
「…くっ、矢張りあいつの孫か」
性格が悪そうだ、なんてつぶやいてる。失礼だなぁ。ちょっとニヤニヤ笑ってるだけじゃん。
すると、またつまらないって顔になったおばあちゃんは言ってきた。
「私はロザーリア、リアと呼ばれている。お前、名前は?」
ん?この人部屋着だ。足も素足にルームシューズ。あわててたのかな。服はシワがよってて何かのシミが付いてる。あれは紅茶かな。
「…ロザリー」
とりあえず、おばあちゃんのあの寒そうな手からつないで温めてあげよう。