第3話:出会い【後】
ありがとうございました!と頭を下げ会計のところへ向かった。
会計をしているのは40歳ぐらいのおばさんでとても親しみやすい人だ。
『今日はこのぐらいね〜この前抜いたところ大丈夫だった?』
『大丈夫でしたよ〜まだちょっと違和感ありますけど』
というとおばさんは笑っていた。
『それより、結衣ちゃんといい感じだったじゃない』
『結衣?』誰だかわからず首を傾げる。
『歯磨き指導してた人よ、私あんな楽しそうに話してるの初めて見たわ』
会計から彼女をみると無表情で違う人の歯磨き指導をしていた。
『そうなんですか』
おばさんは何かを思い付いたように紙に何かを書いている。
『はいこれ、結衣ちゃんの携帯番号悪用はしないでね』ニコッといたずらそうな笑みを浮かべ渡してきた。
『…ありがとうございます!』
今までにないぐらい大きな声でお礼を言うと周りの人が不思議そうに見られちょっと恥ずかしくなった。
『次は一週間後の3時ね、お大事に。それとがんばってね』と笑っていた。
頑張りますと歯医者を後にした。
アパートに戻り冷蔵庫から500ミリリットルのミネラルウォーターをとりだし一気に飲み干す。
ドクンドクン
結衣と言われる人の顔を覚えている。
絵を描けと言われればそっくりなものだって描けるほどに鮮明に覚えている。
僕の右手にはその彼女の携帯の電話番号
思わず…にやけた。
しかし、その後に電話することはできてもすぐに切られたらどうしようという不安がよぎったが…まあ、なんとかなるだろうと思った。
僕は楽天的な性格だ。悪い方を考えるよりもいい方しか考えない。
自分のいいところでもあるし悪いところでもあると思うが嫌いではなかった。
悪いことを考えるのは大事だけど、それではきっと前には進めないと思う。
『デートに誘えるといいなぁ』
僕は部屋のソファに座りどんなことを話すか考えた。
結局なにも思い浮かばず夜になってしまったのはいうまでもない。