解決編 #1
「そんな‥‥」
その人の隣の席の羽生は、目を丸くして驚いている。
「このメールの仕掛けは、簡単です。田代のものとしてあなたのアドレスを登録すればいい。そうすれば、こっちの携帯では田代宛のメールに見えてしまう。あなたはこの原理を応用して、あの時ここで、田代本人が持っているはずの携帯からメールが来たと僕に思い込ませたんだ。違いますか?‥‥是永長読さん!」
長瀬は携帯をばたんと閉じて、ポケットに詰める。
「あの時、携帯を取り出す時に慌てたふりをしたのは、あの着信音が実は、起動音だったから。そう考えればつじつまは合うんだ。最近の携帯は指定した時間に自動で起動する機能があるし、起動音として着信音を設定すれば完璧だ。そして、前もって自分の携帯に入れておいたメールを誰かに見せればいい」
「待って」
是永は、何のことやら分からないというにこっとした顔をして、立ち上がる。
「学君、私がやる訳ないでしょ。だいたい、奥田君が死んだのはいつですか?」
視線を父に向ける。
「奥田祐仁の死亡推定時刻は6時半から7時の間です」と、是永刑事の返事。長読は続ける。
「そうでしょ?その時間は、ずっと学君やかおると一緒にいたんだもの。アリバイは完璧じゃないの。それに菅野が死んだ時だって、あの木の下で告白、したでしょ。うん。あの時から田代君があそこに行くまでずっと誰もいなかったでしょ?木の上に人がいたら普通気づくでしょ?それにあたしのことは学君自身が見ているでしょ?そうお父さんと話したんだから。私のアリバイは完璧でしょ?ね?私にあの二人は殺せるの?」
「できるよ」
長瀬のあっさりした返事に、是永は目を丸くした。
「是永は、大胆にも僕へ告白したことそのものをアリバイトリックに使ったんだ!」
「えっ!」
「そんな!」
周りから驚きの声が上がる。
「川野は、三ツ矢も言った通り、前もって仕掛けを作って殺したんだ。そして菅野は、防犯カメラの動いていない夜に何だかんだであの木の下に無理矢理呼び出して、殺した。殺した後、あなたはあの木の上に死体を隠したんだ。あの木はよほどのことがないと誰も来ないことを利用して!」
「そんな!あの木の下で告白とかしたでしょ?あの時気づかなかったでしょ?」
そう言う長読に、長瀬はため息をつく。
「あの状況じゃあ誰も気付かないよ。だって是永が近くにいるし、恥ずかしかったし。早朝に僕を無理矢理家まで呼びに行った理由も、これ。死体を木の上に置いただけでは自然に落ちるかもしれないから早めに済ませたかったんだ。死体を上に吊り上げるなら、木の枝を支点にしてロープでできる。違いますか?」
長瀬がそこまで言うと、是永はくすくすと笑い出す。
「あはは、私って、あの、ずっと学君やかおるのそばにいたんでしょ?菅野君は百歩譲って私が殺したとして、奥田君はどうすればいいの?」
こんな時でも長読は、頬を赤らめている。
「確かにその時間教室では僕と一緒にいたし、トイレでは羽生と一緒にいた。でも、教室からトイレに行っている間の是永は、誰も見ていないんだ!」
「そっか、さっき私たちに聞いたのはそれだったのね」と、竹井。
「どういうこと?」長読が竹井を向く。
「是永が刑事と一緒にここに来るまで、みんなに是永を見たかと聞いて回ったんだ」と、井伊。
「そう、そしてこれが僕を登校時間ギリギリに呼び出した2つ目の理由だよ。是永は人が少ないうちに、トイレに行くふりをして誰もいない4階を通って、前もって屋上に呼び出しておいた奥田を殺した」
「そんな‥‥」と、羽生。
「途中で誰かに見つかってはいけない。まさに薄氷を踏むトリックだったけど、是永は見事にそれをやってのけた。もちろん誰かに見られたとしても、田代が自殺さえすれば誰も何も言わなくなる。万が一言われたとしても、田代に全てなずりつければいい。是永はそう計算した」
長読はさすがに、体が震え始めた。長瀬は続ける。
「でも、先を急ぐかあまり、是永は奥田のダイイングメッセージを見逃したんだ」
「ダイイングメッセージ?」
「そう、奥田は即死ではなかった。死ぬ間際に是永の名前、長読を片仮名の血文字で書いた。でも手が震えて、この2つの文字はくっついて漢字の旧に見えたんだ」
「そんな!それは奥田君のなにかの見間違いでしょ?そ、そうだ、これは全部田代君がやったから、そう考えれば北条君が死んだのも」
長瀬は手をぐっと握る。
「北条も田代も、是永が殺したんだ。まず、刑事との話が終わって会議室に戻る間に菅野の携帯から田代を呼び出す。死んだはずの人からメールが来て、しかもそれが脅迫めいた内容だったら、誰にも言えない」
「‥‥‥‥」
「そしてさっき言ったトリックで田代からメールが来たふりをして、最後に田代を気絶させて携帯を取り上げて、田代を呼び出した時より柔らかい表現で北条にメールを送る。そして、北条と目撃者役が来るからくりだった。警察を呼んだら殺すとかつけて、ね」
「それで俺の前で、どうやって壺を落としたんだ?あの台座は揺れたりしなかった」と、井伊。
「あの壺の下にロープを敷いてあったんだ。しかもたたのロープではない。輪っかになっていて、もう片方は窓の外で田代の首を吊っていたんだ」
「あっ!」井伊が思わず声を上げる。それでもなお長読は、笑顔を崩していない。
「そして、前もって田代の体と一緒にガソリンを塗っておいたロープに火をつけて、ガソリンを入れた袋や田代、菅野の携帯もろとも田代のポケットに入れておく。火をつけたら輪のロープは切れて、落ちる時に壺の下のロープも田代の重みで引っ込む。バランスを崩した壺が落ちるという仕掛けだ」
「なっ‥‥」井伊が目を丸くする。
「そして是永は、井伊が驚いて教室に入るまでの間に、睡眠薬を飲んで寝た。恰も井伊が来るのが早すぎて田代が殺し損ねたかのように」
「ふふっ‥‥」
長読は、真っ白な顔をして笑っている。
「今まで学君が言ってくれたことは全部状況証拠でしょ?つまり他にも可能性があるということ。本当に田代君が殺したかも知れないでしょ?じゃあ物的証拠はあるの?」
「あるよ」
長瀬がそう言うと、長読の顔から笑みが引く。
「あの時僕に見せたメール、既に消したとしても携帯会社に記録が残っているはず。もし見つかったら、田代ではない携帯から是永に、田代を騙ったメールを自分に送って、是永があの現場に行く理由を作ったという証拠になりうる」
長読はうつむいた。唇を噛んで、手をがたがた震わせている。さっきの笑顔とは反対側の、鬼のような形相。
「どうして、この学校では夏でもあまり話題になっていない七不思議になぞらえたの?」と、竹井が尋ねる。
「七不思議には順番があるのを利用して、北条と田代を呼ぶ時にさらに怖がらせるためじゃないかな。警察もそういうのには無関心の様子だったし、何かになぞらえていることなど七不思議を知らない警察は聞きようがない」と、長瀬。
「ははっ‥‥」
突然、長読が笑い出す。
「そうだよ、あの5人を殺したのは、このあたし」
そう言って、長読は顔を上げる。その顔は、笑っていながらも、それでも恐ろしいものであった。
その雰囲気の中で、三ツ矢が尋ねる。
「長読、どうしてあの5人を殺したんだ?僕にはまだ信じられない」
「信じるも何も‥‥、去年自殺した友達のこと、覚えている?」
長読がそう言うと、周りはざわっとなる。是永刑事は、手で顔をふさぐ。
「朝霧かれん」
長谷川が短く言う。長読は手をぎゅうっと握って、続ける。
「あの5人が殺した朝霧は、あたしの実の妹だったのよ‥‥!」